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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔法奪奪 Ⅵ

 青藍せいらんが自分の世界を閉じる少し前のこと。


 少年は、あの雑魚な魔法使いの少女たちを倒し終えてからも、街中を走り抜けながら、争っていたり潜んでいたりする奴らを倒していき、例外なく倒した彼らが持っていた黒いガムテープの断片をかき集めていた。


 歯応えのある相手には全く当たっていなかったから、損耗はほぼ無い。加えて、戦闘スタイルからして、種がバレることによるデメリットはほぼ無い。


 それもあるのか。少年は、堂々と大通りに出ている。逃げも隠れもしないという意思表示。そして、自身を参加者たちの餌にしているつもりであるようだ。


(こんなものに頼って、こんな程度しかできない腕も頭も残念な奴ら、取るに足らない。あの時捨て台詞ほざいて逃げた奴くらいか? 及第点は。少なくとも、逃げを選べるだけの頭はあった。情報もそれなりに収集しているようだったし。今のところ、強者はこの催しに乗っていないようだが、果たしてそれは続いてくれるのか…―)


「そこの二人。いつまで観察しているつもりだ? 種何ぞ無いぞ? それに――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 見上げ、左右の西洋建築なアパートメントの、数階建ての柵の無い屋上へ向けて、声を飛ばした。すると、少年の視界、左側に現れた、


「新入り。()()()()だからって、気ぃ大きくなりすぎだろ!」


 真っ赤な毛皮みたいなローブ着た無表情な、浅黒くごつごつとした肌の、そのくせ幼い顔つきのモヒカンな赤黒い髪色の少年がそう言って、地面から1メートル程度の高さで、地面に平行に両手両足を広げて、胴を下に、頭を起こし、朱色の無気力な目で少年を見ている。


無憂ムユウ。その見掛けであおり体制高いのやめようね。流行らないから。あぁ、僕は菩提ボテイというんだ。君の呼び名は当然知っているよ。ライト君」


 少年の視界、右側にいつの間にか現れた、のっぽで緑の葉っぱのローブ着た、のっぽで、さわやかかつのんびりした様子の穏やかな微笑を浮かべるひょろっと細長い、黄色掛かった白い肌の、髪もまゆ睫毛まつげも無い男は、浮かんではおらず、地面に足をつけて立っている。


 自分と同じ位の年頃の年相応な少年と、自分より年食ってそうでまれに見る自分より背の高い男。


 どう見たって、どちらとも肉弾戦が特異なタイプではない。しかし、誘いに乗って姿を見せたということは――


「ムユウ、に、ボテイ、か。あんたらには他の奴らと違って余裕がありそうに見える。強いのだろう。だからこそ、分かるだろう? 私と闘えば、あんたらとて、タダでは済まない」


(交渉の時間だ)


「ぶっ…―! それはてめぇが種を知ってたらつぅ…―」


無憂ムユウ!」


「はいはいわかったよ」


「最適解が取れなくなっちゃったじゃないか。はぁ。ライト君。君には無駄に痛い目にって貰うことになる。ごめんよ。ほら、僕は予め謝った。だから――ゆるしてクレルヨネ?」


 ゾクッ!


「ぃぃぃ……!」


 放った筈のライト・ニードル。左手と右手からそれぞれ一発ずつ。放った。放った。筈、なのに……。


 放出した分の魔力の消耗。だというのに、貫く光の線は、その発露すら無かった。そして、自身の腹に真っすぐ、何の変哲も無い、のっぽ、こと菩提ボテイの正拳突きが、抉っていたという結果だけが残っていた。


(はや……い……? ……。いいや……? ()()()()()()()()()()()……?)


 意識が半ば飛びそうになる強烈なそれに、沈みそうになりつつも――


「ぅんんん……!」


 無理をして右斜め後ろに跳ねるように跳んだ。その最中、首筋左を横にかすって切り裂いてゆく、モヒカンこと無憂ムユウの左手親指の爪を刃のように使った斬撃が通過していった。


(今度のは、見えている……。なら、視覚への干渉ではないな。認識自体への干渉か……。こいつら絡め手タイプか。加えて、見掛け以上に近接戦闘もやるときた)


「げほっ!」


 無理な駆動に血を吐きながらも、未だ隙のある無憂ムユウを狙う。接地していないなら、蹴り出しの足は意味をなさず、加速も方向転換もできはしない。


 だから、分かっている奴程、無意味に無暗に跳ねるなんてしないものだが。


 微かな引っ掛かり。


 だが、少年は、選択した。まだ滞空している無憂ムユウの、左腕を掴み、捕まえようと――


「っ! (いないっ! 消え、た? 気配ごと……?)」


 ブゥザシュゥウウウウウウウウ!


 少年の喉は、その中心を、無憂ムユウの左手人差し指が、貫いていた。突き立てた、では済まず、貫いていた。串刺しだ。


 狂いそうな痛みが、こみ上げてくるのを無視して、今度こそ本当に隙を晒した無憂ムユウの左腕を右手で掴み、喚んだ剣で、左腕の二の腕から、首に向かってり上…―


「ごぶぶ……! (花……びら……?)」


 無憂ムユウは、夕焼け色の花弁の塊に変化して、剣は斬撃の軌跡上の僅かな花弁と、虚空を裂いた。有り得ないと思えるくらい、無い、手応え。目に映る通りではない、としても、透かされた、ということは間違いないと分かった。


(認識だけではない……。認識だけと思わせて、感覚も、か……。花弁ひとつひとつに、薄く気配が、ばらけたのは、……これだけじゃあ、分からない。分かる訳が、無い……)

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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