表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/221

魔法奪奪 Ⅴ

 ちょっと乱れた、肩に掛かる程度に長くもささくれた薄赤い髪はもう、すっかり乾いていた。


 密着している訳でもなかったのに感じていた熱波のような熱の放出は、沙羅サラからはすっかりなくなっており、汗も引いている。


 漂ってくるのは、先ほどまでとは違って、汗の臭いではなく、ジャスミンの香り。


青藍せいらんさん」


「何よ? 改まって」


「お願いがあるんです」


「……言ってみて」


「わたしの、大切な友達たちを、止めて、ほしいんです」


 改まって言われてたのがそれ。


 青藍せいらんは困惑した。


「貴方を助けてくれた彼、ライトが止めてくれるわ。ああ見えて、とっても優しいから彼。そういえば貴方、彼を見ていなかったわね」


 と、青藍せいらんは、腰を下ろしたままで、両手で水を掬うような仕草で虚空を掬い、闇色の靄を、立体的な墨で描かれた岩肌のような形に展開し、その表面をうねるように、調整してゆく。


 それは、形になった。両掌の上に生成された、立体的な墨描きの、ローブ姿の巨躯きょくで筋肉質で、険しい表情をした、少年の姿。


 普段の険しい真顔の表情。


「まぁ、たくましい。勇者さまですね」


 なんとも能天気で物怖じしない反応。


 御世辞でもない。おべっかなんて混じっていない、純粋な感想。非常に好感的な第一印象を、沙羅サラが抱いたらしいことに、青藍せいらんは不安を覚えた。


(こんなふわふわでかわいらしくて、無垢むくな子……)


 像を消す。


 両手を後ろにやり、指輪を押さえ、ぎゅぅっとしながら、


「でしょ?」


 薄っぺらくつくろった。







 そうして、沈黙が続いて。作り笑いな微笑みを浮かべ続けて目を合わせ続けるのも辛くなって。青藍せいらんは、沙羅サラに話の続きを催促した。自分の話、少年の話、になる流れを断ち切って。


「その人たちのこと、教えてくれるわよね?」


「わたしたちは、ここではない世界から来た霊樹の精霊なんだって」


「? 何でそんな他人事みたいに……」


ソウちゃんがそう言ってたの」


 と、沙羅サラは、まるで青藍せいらんならうかのように両手をかざし、その量の手の指先から、にゅきにゅきと、細長く曲がりくねる、樹木の幹のような枝のような何かを小さくうねり生やして、ねじり、ぎゅううっと、人の形を作った。


 青藍せいらんが作った墨色の立体像とは違って、雑く、荒いが、それでも、目付きや顔つきは分かる程度の出来。


 それは、ひょろ長い、ひょうきんな顔をした、ほっぺの膨らんで、鼻のデカく、三白眼の男。


 見たのだ。憶えている。


「こいつね……」


 瘴気しょうきれ出す。そびえ、ねじれ、巻きついて、形作られたその像に向かって、漂っていったかと思うと、ガサッ、とひしがれるように、枯れた。


「もしかして、ソウちゃんに、悪いこと、された……の……? ……っ! ……。…………」


 何か言いそうで、言葉にならなくて、沈黙して――震え、哀しそうに涙を流す始末。青藍せいらんは、目の前の、自分よりは年上そうな見掛けの少女である沙羅サラに、罪悪感をおぼえた。


 幼い子供を泣かせてしまったかのような心地の悪さ。


「……。わたしは別に何もされてない。そいつが、彼のことを()()()()()って呼んだの。それだけよ……」


 嫌な気分にはなったのは間違いなくとも、自分にそんな意思表明をする資格はあるのかと、自己嫌悪。ありのままに口にしただけで、心に痛みが走ったような気がした。


(バカ……みたい……)


 沙羅サラは沈黙し、頭を落としたかと思うと、突然、樹木から背を起こし、立ち上がったかと思うと、潤んだ目をして、青藍せいらんの目の前に立って、


「ごめんなさい……」


 地面に頭をこすりつける勢いで、謝った。


「……。貴方のせいじゃ無いのでしょう?」


 困惑しつつも、自然に心に浮かんだ言葉で返してみると、頭を上げた沙羅サラが、


ソウちゃんとわたしは、()()()()()()()だから……」


 何とも意味深なことを言う。


 心を読んでみても、明瞭な答えは見えない。ふたりでひとり、というのが偽りない真実ではあるが、それは具体的にどういうことか、という情報が、イメージとしてすら沙羅サラの中には存在していないようなのだったから。


「あとは、ソウちゃんの近くに、真っ赤な毛皮みたいなローブ着た無表情な子と、のっぽで緑の葉っぱのローブ着た子がいたよね。赤…―」


「……見てないわ。その二人……。()()()()! ()()()! ()()()! ()()()()()()()()()()()()!」


(ライトじゃあ、()()()()()()()、勝ち目が無い……)


 会話しながら沙羅サラ心の中のビジョンを伺っていた青藍せいらんの表情が、青褪あおざめ、立ち上がり、発狂するように叫ぶ羽目になった。


 手を引っ張るように取り、


「ほら! 抑えるわよ! そいつらを! わたしたちで! 」


(運を司る魔法使いと、心を試す魔法使いだなんて……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あとは、この子がどれだけそいつらの手口を知っているかに掛かっている……)


 青藍せいらんは、沙羅サラを立たせ、自身の世界を、消し去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ