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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔法奪奪 Ⅱ

「うっ! ぞ、()()()()()だぁあああああああ!」


 と、ひょろ長い、ひょうきんな顔をした、ほっぺの膨らんで、鼻のデカく、三白眼の男が、目を見開いて、ビビり声をあげた。


 ローブを着ているのに、がっちりした感じの全然見えない、何だかマヌケに見えるのは、ブサイク過ぎるからなのか、魔法なのか、疑わしく思えてしまうような。


 そいつは、脇目もふらずに逃げていった。鼻水を飛ばしながら、汚い絵面過ぎて、少年と青藍せいらんは追いかける気が失せた。


 それに――もう一人いる。


 意識が朦朧もうろうとしているようで、壁にもたれて、尻餅をついて、ぐたっとなって、そのままのような。ローブがはだけて、何というか――乱暴されかけ、寸前! といったところの危ない上のはだけ具合に、青藍せいらんは、一瞬少年を見つめるにしては、目線が妙に下だったが少年を一瞥いちべつしたかと思うと、バサッ、と自信のローブを外し、それを被せ、被せた下に手を入れて、乱れを整え、そして、バサッ、と自身のローブを再びまとった。


「さっきの奴はもう近くにはいないようだ。戻ってくる気配もない。……。…………。何でも、ない……」


 少年は、自分が、酷い呼び名で呼ばれていたことにさりげにちょっと傷ついていた。それについて口にしようと思ったが、そういう場合でも無いと、耐え、呑み込んだのだ。


「脈も落ち着いてきてた。乱暴目的じゃあ無かったかも……」


「流石にそれは無理があるんじゃあないか?」


「これ」


 そう、青藍せいらんが見せてきたのは、薄く僅かな程度の量であるが、黒いガムテープの断片ではなく、ロールであった。


「!」


()()()()()()()()()()()()()()()。ふふふ」


 と、笑う青藍せいらんの様子に、何か、怖い圧を、何となく感じた少年であったが、何か怖くて、突っ込めなかった。


 何か、青藍せいらんの輪郭に、ドス黒い瘴気のようなものが一瞬見えたような気がして、目を擦る。


 気のせいのように、それはなくなっていた。


 自身の背に、冷たい汗が流れたことを感じ、気のせいにはできなかった少年は、その気持ちを抑え、態度に出さないように頑張がんばる他なかった。


「わたしだって悪名通ってたし。蔑まれるのは自分じゃなくたって、嫌なものね」


 少年の緊張を解すかのように、寂し気に青藍せいらんは言うのだった。


「そう……だな……」


 少年は――自身の感情を、恥じた。






 青藍せいらんの――領域。


 学園内に構築した、異空間。夜の星空と共にある小川の流れる穏やかな森のような何処か。


 木の幹に凭れかかる、


「んん……」


 うなされるようにうめいたそれに、


「大丈夫、かしら?」


 傍に立つ青藍せいらんが声を掛ける。


「? ??」


 恐慌がうかがえる。目を見開いて、未だはっきり見えないだろう目で、錯乱し始めるそれは、先ほどはだけたローブを直してやった意識朦朧いしきもうろうとしてた女の魔法使いだ。


 なで肩で、身長も厚みも控えめで、もやしっ子みたいに不健康気味に白く、そばかすと、肩に掛かる程度に長くもささくれた薄赤い髪を持つ、エメラルド色の瞳の、少年たちよりは年上であろうが、乙女と少女の間くらいの年頃の女魔法使いである。


「落ち着くのよ【闇撫穏気ヤミナデオンキ】」


無詠唱。精神に作用する、実質、青藍せいらん専用といってもいいような、その魔法を行使する。そのように使うのは初めて。今練った新たなる魔法。しかし、できると信じて疑わなかった。


 そして――


「ふぅぅ。おふとんの、においがします……」


 と、恐慌はどこへやら。ふわっとした砂糖菓子のような声をして、薄赤髪の女は、まどろみに包まれつつ、幸せそうな顔をしていた。


 ちょっと離れて立っていた少年が、青藍にそろりと近寄って、ひそっとつぶやく。青藍せいらんの耳元で。


「眩しい光でも灯してやったほうがいいか?」


 すると、ぴくん、と青藍せいらんがして、


「すまん……。びっくりさせてしまった……」


「平気。また発狂するでしょうから、止めましょ。多分このコ、()()()わ」


 青藍せいらんつくろった。


「任せる」


 と、少年はまた離れていった。


 青藍の耳が赤く染まっていたことも、心音の加速にも、少年が気づけなかったのは、小川の流れの音のせいだけでは、ない。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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