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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔法奪奪 Ⅰ

 それの始まりは、誰かの些細な思いつきだった。


 少年が思っている以上に、それは学園内において広くばらまかれた。


 数多の者が手にした以上、それをどう使うかは千差万別であり、偶々、ある者が、それをバラしたのだ。そそして、それの材料に使われているモノが、ある性質を持っていることに気づいた。


 魔法を、封じ、繋ぎとめる。


 そして、千切れたそれは、繋ぎとめたものが、再生されると共に、千切れた箇所を出口として、放出される。中はそうしてまた空になる。


 記録の作用は残っている。再生の作用は残っている。しかし、再生後の保持の作用が失われていて、それが、都合のいい、全く別の魔法具としての性質を体現していた。


 それは、【魔法封紙】と呼ばれる、手に収まる程度の大きさの長方形の符。魔力を込めて文様を記すことで魔力の動き方を指示し、文様に込めた魔力を、魔力の種類と量と質とその動き方に応じた魔法として放出する、使()()()()の魔法具。


 治療系の魔法であっても魔力の種類と質によっては再現可能であるため、家一つ買える値段で、限られた経路で、限られた数量出回る。


 つまり、この、異様に質の高い映像魔法の魔法具の切れ端は、その上位互換足りえる。


 白紙ハクシが、このクラスの質の材料を創り出して、映像入りの映像魔法の魔法具として流通させたことは実はこれが初めてであった。少年と彼女の闘いがその質でなければ、記録しきれなかったからであり、白紙ハクシにとってそれだけ利用価値のあった光景だったから。


 まあ、こうやって切れ端にしてしまうような輩には、その価値が分からない。分かっていない、が。それでも、こうやって千切ったことで、モノとしては劣化しても、それでも、【魔法封紙】の上位互換という、訳の分からないくらい凄い価値をそれは未だ保っている。


 そして、彼らはましてや、価値を解さない子供といえる年頃が殆ど。なら、容易く、それは広まって――






【まほうのうばいあいです】

【これがあればどんなつよいまほうでもためられるから】

【つかいきりだけど、なんどもつかえます】


 血の混ざった泡を吹いて、震える手でペンを握らされながら事切れた、ローブ姿の男の遺したふにゃふにゃの文字を正確に読み取りながら、少年は


「その欠片、魔法をストックする機能があるらしい。恐らく自身が使いこなせないレベルのものでも収められるのだろう。ということらしい」


「そりゃ、祭りになるわね……。っ! 何するの!」


 少年は、その男を、剥いだローブで覆っただけの泡を吹いて気絶したままの女からローブを取り除いて、密着させるようにしていた。


「流石に無罪放免は生温いと思ってな」


 そして、再び、ローブで覆った。


 青藍せいらんは引き攣った表情で、少年にドン引きしている。


「効くんだよ、こういうのが。懲りない奴程、よく効くやり方だ。上手くやればこいつら自体が幸福になるという結果が齎されることにはなるが、その始まりは酷い苦労から始まる、という」


「外道…―」


「私は先に手は出していない。これでも生温い位だが。けじめには程遠い。まあ、こいつらは騎士ではないのだから、けじめを受ける誉れは得られない」


「はぁ……。終わったら、じっくり話をしましょう。貴方に、常識ってものを教えてあげる。貴方が本当に理解するまで、じっくりと、ね」


「あぁ……。是非とも頼む」


 少年が頭を抱えつつも、微笑みががらそう答えると、青藍せいらんはむず痒くなって、顔を覆って、俯くのだった。


 少年が、その者たちが誰からブツを手に入れたのか、聞き出すことを忘れていた、ということを思い出したのは、家に結局彼女を伴って入ることなく、他のドンパチの音がする方向へ歩き始めて、結構経ってからのことだった。


 というか、もう、ドンパチの発生源の一つに、辿り着いて、対峙していた。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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