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稀有なる壁越えの映像記録 裏 Ⅰ

「ふふ。仕上がりました。渾身の出来です。じゃ、お願いしますね! ゲバさん! 偶々来ていた貴方を捕まえられて本当によかった」


 野外。学園の外縁の区画の一つ。


 果て無く広がる青空と草原。


 そこに立つ白塗りの男こと白紙ハクシと、ゲバさんと呼ばれる者。


 白紙ハクシに負けず劣らず、異質な出立ちの者であった。


 背丈は、白紙ハクシ並みと、人の枠から逸脱する程ではないが大きい方。体格は、白紙ハクシとは違って、がっちりと太い。太っていながらも、筋肉がしっかりついていることが分かる、黒い肌である。


 しかし。その肌は、人の枠からはみ出た見掛けをしていた。というのも――何やら、長方形の掌くらいの紙片を幾重にも貼り合わせたかのような、そんな肌感をしているのだ。


 それよりも更に異様なのが、頭部。真っ黒に塗った卵を人間の頭くらいの大きさにして載せたかのような。目も鼻も口も耳も髪も眉も何も無いのである。


「その言い方はよせと言ってるのに……」


 低くよく腹に響く声で、気の小さな反応をするその者の声は、口も無いのにどこからともかく聞こえてくる。頭に響いてくるといったような魔法の類ではない、肉声である。


 だからなのだろうか。その者は、身体の動きで感情を補足する。現に今、大袈裟に頭を落とした。


「何か嫌なことでもあったんですか? 女々しいですよ? 暴力ゲバルトさん?」


「あぁ……」


 大きく肩を落とす。


()()()()()()()()()()()()()、相当な何かがあったということですか……」


 白紙ハクシが、ゲバさんなる者に口にした二つの禁句。女々しいとからかうニュアンス。本名で呼ぶ。返ってきた反応の薄さから、面倒を覚悟したのである。


「まぁな……。見てくれよ、これを」


 と、ゲバさん改め、暴力ゲバルトは、自身の腕辺りを、ぱりっ、と剥がし、見せた。


 真っ黒な筈のそれは、両手に抱えるサイズの大きさの紙になって、灰色に薄れて、色々と何か、書かれているし、描かれている。


「なになに――。あららら……。あのくされ王子が、かの国の国王に即位する、いう訳ですか。貴方の用事というのはそれだったのですか? 学園長に報告しに行くのでしょう? どうせ碌でもない尾びれが付いてるってことでしょうね」


「あっちの世界の最高峰の魔法学校と、こことで交流の場を開けないか、上手いこと捻じ込んでくれって王子から注文を受けた。見返りは王子が国王になってからの()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……。何でそんなの聞かせるのです……。どうみたってそれ、機密じゃあないですか……」


「おかわりもあるぞ。お前なら、これが何か分かるだろう?」


 と、暴力ゲバルトは懐から小さな瓶を出す。掌に収まるかどうか程度の大きさで、コルクの栓がされ、文様の刻まれた何枚かの札が貼られている。


 そして。透明であるその瓶の中に浮かぶ、黒水晶のような何か。


 左右対称な両翼を広げて真っすぐ飛ぶ鳥を扁平にしたような意匠をしており、水など入っている訳のない瓶の中で、それが頭側らしき部分を真上に向けて、頭部から尾までを軸にして、時計回りにゆっくり回転しながら浮かんでいる。


 白紙ハクシは提示されたそれに近づき、よく、目を凝らして、回転する黒水晶を眺め続け、


「伝承の通り……。頭部らしき部分の中に、蛇の瞳のような単眼……。闇魔あんま……、だろう……。報酬の前払いとして貰ったのですか? 貴方に限って、盗んだり騙し取ったりなんてことは無いでしょうし……。学園長に献上したら、バーターにかなりの物でも権利でも得られそうではないですか。いや……。そんないい話で終わる訳がないですね……。……。…………。………………。っ……! ゲバさん! これ……、()()()()()()()()()()()()()……!」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 暴力ゲバルトは胸を張って、腕を組んで、高笑いするかのような調子で、背を後ろに逸らせながら、首から上を小さくひくつかせる。


「……。それ、実はかなり簡単に話が付くのでは? とわたしは思うのですが」


「?」


「精彩に欠きますねぇ。貴方らしくもない。その学園の生徒を、こっちの学園に招待すればいいでしょう?」


「それは前提だ。向こうでやるなんていうのはどうあったって学園長が首を縦に振らないしな」


「まぁまぁ。最後まで聞いてくださいよ。貴方はどうやって、こっちで開催する流れに持って行くか思いついていないのでしょう?」


「……。まぁな」


「まず、仕込みとして、向こうの学園に噂を広めればいいのですよ。枠の奪い合いは必至。大騒動になるでしょう。唯の招待であり、転学でも留学でもない、というのがミソです。縁のある大人の反対にも、程々に抵抗し易いでしょう? 枠は少なくて数人、多くて数十人程度に設定しておくといいでしょう。学園長としては、枠は最少を望むでしょうが、そこは押し通してくださいね」


「数人に寄ったら不味い訳か。どうしてだ?」


「言ったでしょう? 騒ぎにしたいんですよ。枠が小さすぎたら、最初から諦めて参加しない人が結構出るでしょう。こちらは主導権を握りたいんですよ。その為には絶対騒ぎにしないといけません。最終的には、向こうの全員を受け入れる流れになってもいいつもりでいてください。熱を、持続させねばなりませんので」


「……。王子に手を焼いてもらうって訳か!」


「正解です! 交渉相手は王子なんですから。で、王子が向こうの学園側の手綱を握って、今回の提案をしてきた訳で。貴方が苦労に見合った報酬を得たいなら、そのことを忘れないように」


「でも、そんな都合よくいくか……?」


「学園長との話はまだしてないんですよね?」


「まぁな」


「それ次第じゃあないですか? 前提が半分しか無いうちにこれ以上話しても無駄でしょう」


「だよな……」


「面白そうですし、引き続き相談には乗りますから、わたしの依頼、その映像の販売相手の選定と、出回らせる数量と価値のバランス取り、お願いしますよ」

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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