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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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稀有なる壁越えの映像記録 Ⅱ

 暗くて、何も見えない。


 バサッ!


 頭に被せられた覆いを外されたら、そこは――


「始めましょうか!」


 大きな部屋だ。そして、何もない。


 床の間。天井と後ろと左右が鏡になっていて、正面は、半透明に、黒い背景で、周りの鏡に比べて、薄く、ブラウン少年と、白塗り男が、その部屋の中央に、並び立っている。


「?」


「そんな顔しないでください。ほいほいついてきてそれとは。止めることはできますが、終わりまで再生しないと戻れないので、見逃さないようにしてください」


 カッ!


 正面に、光景が映し出される。


 果て無く続く草原と雲一つ無い青空の遠望。上空から、光景が、どんどん下がっていく。そこに在る、()()()()()()()()()()へと、大きく近づいてゆく。


 ブラウン少年の目つきが鋭くなった。


 見紛う筈もない。


「ライト君……!?」


「正解です。今から君は、彼の強さの秘密を丸裸にするのです。わたしと共にね」






 そうして、あの闘いに至るまでの流れが、再現される。


 それは立体ではない。角度を変えて、様々な画角からの、高解像度の平面映像である。


 だからこそ、()()()()()。別の言い方をするのなら、教導、いいや、誘導?


「止めますよ。さて。問題です! アレは魔法でしょうか? はい、いいえ、で答えてください」


 少年が独り、叫んで、剣を振るって、芝は剥げてゆき、明茶色の土壌が剥き出しにしていく最中の光景。


「……。いいえ」


 ブラウン少年は、何やら言いたげではあったが、それを飲み込み、白塗り男の言う通り、答えた。


「正解です。さて。どうしてわかったのかな?」


「あの人のこと……知ってるんで……。ライト君です……」


「人読みですか? それは感心しませんねぇ」


「?」


「理屈や論理を置いておいて、その人だからというのを根拠にすることですよ。まあ、知らずにやってしまったのでは仕方がありません。次は駄目ですよ。では、もう一度答える機会を与えましょう。()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()


 全く同じ問い。


 光景は止まったまま。


 ブラウン少年は、考え込むことなく、


「いいえ」


 答えた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「見えませんでした」


「というと? どう、見えなかったのですか? できるだけ詳しく。わたしは付き合いますよ。嫌な顔一つせず。微塵の退屈もなく、最後まで。顔色なんて窺わなくていいのです。寧ろ。それをしたら、この催しも、縁も、それにておしまいです」


 と、不気味に微笑む。


「あの……。ええと…」


 もじもじ。もじもじ。


 遠慮が見える。


 それでも、言おうとは試みている。


 それでも、未だ、無責任に言葉を、意見を、曲げても歪めてもいない。そもそも、未だ何も口にしていないから。


 だが、見ていて分かる。子供らしく子供らしい。引っ込み事案で、立場の弱そうな子供っぽさ。だからこそ、そこに、悪意や、諦念や、憤怒といった、害意ある負の感情が無いということが分かる。


「わたしは、何やらの評価を下すでしょう。しかし、わたしが君から興味を減らす、いいや、失う、ですね。失う選択肢は、一つだけ。少なからず、偽ること。君がどう思うかの、最初から最後までを、わたしに、聞かせてほしい。いくら長くても、いくら分かりにくくても、それこそ、望むところなのです」


「……。言うから、さえぎらないで、ください……」


 そう、顔色を窺うように尋ねてくる。


 不安の表れ。しかし、言葉にはした。そんな面倒くさいことを言うような者の話なんて、誰もきいてくれない。期待して、それでも不安で、潰されるなら、話し始めるより前である、今のうちに。


 そういう考え方だと、白塗りの男は、汲み取っていた。


「是非、最後まで、聞かせて欲しい」


 白塗りの男は、ささやかに微笑んだ。それが、その男にとっての、でき得る限りの最大限の出来の笑顔の、許容の、現れであるのだと、ブラウン少年には伝わった。


(この、人なら)


「魔法かと見紛うでしょう。大地を踏みしめる一歩も。ロングソードを振るっただけで出てる衝撃波も。ですが、唯の積み重ねです。踏み締める前。凄く長く、息を吸っています。鼻を多いくなんてしていないです。とても、とても、長い息吸い。それだけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もし、魔力を吸って取り入れたなら、それが、体内に溶け込んで馴染む際に必ず変化が起こります。僕にはそれが、色のついた土が水に溶けるように、見えます。ですが、ライト君の息吸いにはそれがありませんでした」


「息を吸い終わって、動き出します。剣を抜く動作に、引っ掛かりがなくて、綺麗に流線型に弧を描いて。止まらないんです。ライト君は。流れるように、動きが、続くんです。力みなく、動き出しています。込めるのは、剣を握る手でもないです。踏み込みの足。踏み出した、前に出した足。深く、膝を曲げるように、力が籠る最大値。地面を、足底が、()()()()


「息が、力みになって、破壊力に変換されたんです。ロングソードの横薙ぎを放つ手の稼働が半分終わって、肘が曲がり、剣を振り切る動きに変わる変換点と重なります」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「既に通った剣の軌跡を少し剣の刃から、外方向へ先に。再現するように、刃状に、湾曲して、弧になって、つながって、溜まって、でも、留まりきれなくなって、真空波は、飛んでいきました真空波が発生して、飛んで行って、真空波の進んだ軌跡にできた真空。剣を振り切りきったところで、止まった剣。剣が来たことで、剣の止まる先にあった空気が、強く。真空に流れて、それが、真空波を駄目押しするように押し出して、だから、草を切って飛んでゆくだけだったのが、地面ごと抉る破壊の波に変わって、土砂と、草切れをごちゃ混ぜに吹き飛ばしたんです」


「ライト君はきっと、息を吸うように当たり前にやったんです。できるんです。僕は見たんです。この一撃よりもずっと鋭くて、怖くて、鎌のような斬撃を、あの剣で、放っていたんです。もう一本のすごい剣を使うまでもなく」


「……。終わり、です」


 白塗りの男は、ぽかん、としていた。そして、そうやって固まっていたかと思うと、ぶるるっ、と体を震わせ始め、そして、


「素晴らしい! 知見と経験。君なりの裏打ちのある、思考と論理。誰かに説明する為ではなく、誰かに説明することに慣れず、機会を得られずとも、独り、考え続けた者の、思考の仕方だ。それに――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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