表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/222

犬も食わない Ⅷ

「いつまでもちんたらとちんたらと! 護るべき人が後ろにいる訳じゃない純粋な闘いの最中に、目の前の相手以外のこと考えてじゃあないよ!」


 はっ、とした。千切れた肩の断面を抑えながら。


 残っているのは右手。そして、魔法の剣は握られたまま。


 鎧ごともがれた訳で。そんなこと、あの、元・師匠でもできる訳がない、と分かる。


 あぁ。確かに、嘗めていたのかも、しれない。


「苦悩してばかりなのだ。ここに来る前からずっと、苦悩していた。紛い物にはならなくて済みそうだが、本物になれるかは、まぁ、こんなでは駄目だな」


 距離は1メートルをゆうに切り、彼女の拳が、振り下ろされる寸前。少年の左頬へと、数センチ。だが、それは到達しない。


 少年の左手。正確には、中身のない、左手部分の鎧。左肩辺りをひねるような駆動で放たれていた、ガワだけのようなものであるそれが、相手の十全たる右拳の、上の、右肘内側に、つっぱり棒のように。


「急くなよ。失血での気絶なんて情けない幕引きにするつもりなんて無い」


 相手は、目を見開いて、驚愕きょうがくしていた。


 少年の左手部分、空の鎧の中。熱が、伝っていた。金属が、赤熱するような灼熱が。


「ほう、そうか。そういう種か」


 それは、相手が得ずして放ってしまったもの。それは、少年が予想が答えに迫ってはいたが、掴みきれてはいなかった、相手の魔法の、正体。


 ボブゥオオオオオンンンンンンン!


 きつきが、左肩、断面を焼く。


 常人では、いや、超人や化け物の類でも、そんな澄ました顔ではいられないだろうに、生憎、少年は、慣れていた。


 相手には少年のその姿、どう見えていたことだろう。


 語るに落ちる。


「応急手当、ご苦労。び【フラッシュバインド】だ」


 意趣返しのような、内を起点とする、魔法。


 相手は、体を震わせながらぴくつかせ、抑えようと耐えるが、抵抗虚しく、少年のあの魔法が炸裂し、串刺し針の山と噴き出す血の水溜まり、崩れ落ちた相手、という結果が横たわった。






 はぁ、と胸をで下ろす。


 熱が、冷めてゆく。


 魔法の鎧も魔法の剣もすっと、消えている。


 そして流れ始めた冷や汗に塗れてゆきながら、思う。


(自身の魔法の正体を、自身が掴み切れている保証なんて無い訳か。もし、把握していて、隠し玉として伏せていただけだったなら、この程度では済まなかっただろう。消し炭になって、私は転がっていた筈だ。何せ、この相手。魔法を弾く外側を持つ、私の鎧を、引き千切ってみせたのだから。……しかし、熱、か。熱。……。どうも、切羽詰まり過ぎているのかもしれない。煮詰まっている。こんなでは、彼女の納得のいく答えなど、出せはしない。……。待てよ? ちょうどいい。目が覚めたなら、相談でも乗って貰うか。少なくとも、私よりも、ああいったことに対して、まともそうではあるし)


 横たわった相手を起点に、血溜ちだまりが広がってゆく。


 私の足元を通って、後ろへ。


 殺して、しまったようだ。


 尤も。ここが学園内であるのは、左肩断面がむずがゆいことから明らかだ。鎧を解除しているのに、再生が、始まっている。つまり、学園内、ということだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 不意に、どこからともなく、響いてくる声。


「っ!」


 ぎろっ、ぎろり。


 見渡すが、姿は無い。


 遠く、遠く、からだということだけは間違いなさそうだった。そして、


(あの人形の声、だと思う、が――)


 少年は、一つ。自身の頭から抜けていたことに気づいた。


 それは油断だとかは関係ない話だ。


 こんな闘いをしていたのだ。無理もない。


 魔法使いらしからぬ、近接戦。手の届く範囲。手から剣先までの範囲。そんな短い短い距離での応報。


 そう。だが、前提として。


 これは、魔法使い同士の、決闘で、相手は唯の闘士ではなく、魔法使いである。本質的に、闘士ではなく、魔法使いなのである。闘士っぽいという皮をまとっているだけ。


 グォオンンンンン!


 ただの血としては、あまりに多すぎたそれ。少年の足元だけでなく、それは、広く広く広がって、地面と草を染めるのではなく、地面と溶けて、混ざり合って、こびりついてあまりある。生成され続けている。


 領域が、陣が、広がっているのである。見渡す限り。いつの間にか。


 魔法の起こりの気配も、展開による魔力の発露も、見当たらず。ただ、現実にしてはありえないような量と性質を持った、もう血とはいえない何かが、広がって、あれだけ青かった空すら、くすむように、霞んで、どこか、茶錆鉄ちゃさびてつ、いや、琥珀色こはくいろ


 それを見て、心に、浮かんだ。


 多分それが、相手が無意識になって、放ってしまった、初めてであるかもしれない、この魔法の本質を示した、名なのだと、思う。


アンバー(琥珀色の)デュエル(決闘)


 魔法は、怖い。感情の産物であるが故に。何が起こるかなんてわからない。いきついても仮染めに終わるとはいえ、特にこういった、死の水際には。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ