表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/221

魔法がとける刻 Ⅲ

「間に……あっ……た……」


 もう、立てない。地面をうばかりの私。


 街の広場。雷雨だというのに、道を埋める人々の多いこと。そんな人々の群れが割れて、道ができて……。手は差し伸べられない。相応しい末路だ。


 引きり、進む。あと数メートル。


 見え、た……。


 たなびく星空色の布の屋根に、四対の金属色の柱。赤絨毯じゅうたんに、立ち位置として定められたサークル。黄色の円。


 最後らしい子供が、さも当然のように、何もないところから水を掌から、コップ一杯を越える量出すという芸当を見せて、合格者用の馬車の一つに乗せられたのを見ながら、


 私は、


「待って……くれ……」


 う。


「待って……くれ……」


 その中に、辿たどり着いた。


「やっ……た……」


 最後の黄光の柱が、消えた。


「終わりだ。消え失せろ。薄汚うすぎた餓鬼ガキが」


 知らぬ、意地悪そうな女の年配の魔法使いの無慈悲な声。



「規定に……定まって……いる……はず……。この絨毯じゅうたんの上……。まだ、私は、試されて……いない……」


「私は、終わりと言ったんだよ。ウィル・オ・ライト」


「どう……して……」


「それはお前の名をこの私が知っていることか? それとも、私が高らかに終わりを宣言した理由か?」


「後……者……だ……」


「てめえの迷惑を被ったのは、てめえの家族だけじゃあ無ぇってことだよ! こう言えば分かる、か? 私はなぁ。ウィル・オ・ウィル、となる予定だった女だ! お蔭で、タダのウィルだよ、私は。行き遅れたぁんだよ!」


 仁王立ちでそう、私を見下ろしている。謝れ、と目がっている。狂気走っている。何を言っても無駄なのが、分かる。だが、


「それと……これとは……話が……違う……。その資格は、無い……」


「はぁああんん! 殺すぞ、餓鬼がきぃぃ! 放っといても死ぬだろうが、引導渡したるぅううううう!」


 ドゴォオオオオゥゥッッ! ドサッ。


 その、私の被害者であると名乗った魔法使いは、私のいるところまでちてきた。気絶、している。目を開けたまま。


 力を振り絞り、見上げた。


 黄土色のローブを着ているのに、ローブのフード部分を被っていない魔法使い。見覚えのある、男だった。


 師匠のとこに、たまに来ていた、私が壊れた際に、強引に治癒魔法で直された際に、それをやった男だと紹介された男。


「はは。よぉ、坊主。元気は、してねぇなぁ」


 無精髭を生やしているのに、中年未満に若く見える、けれども、実は青年な年な師匠とは逆に、中年な、童顔な、浅黒く、派手な乱れ髪をたなびかせる、薄く整って筋肉質な肉体の、ほくろや傷やできものといった痂疲かひひとつ無い、美しい顔をした二重で鼻の高い、黒くも輝く目をした、綺麗きれいな、男だ。そして声が、そう。こんな風に、年相応に、渋みとドスがある。


「ご生憎あいにく……様で……」


 剣をび、何とか円の中で立つ。


「ほら。これ。俺も試験管様なぁ訳だ」


 そう、ぶらつかせるのは、何処かの魔法学園の、入学資格の首飾り。透明な紫の水の中に、浮かぶ巻かれた紙片。そんな水を包むカプセル大の透明な密閉容器と、そこに癒合する、紫色の首に掛けるためのひも


 確かに、それには、魔力が込もっているのが見える。


「欲しければ、見せてみろよ。剣でじゃあ、無ぇぞ。正規の手順でな。坊主よ。お前は、魔法使いを目指す資格ある者か?」


 そう。魔法使いの資格。その提示を求められる。試験官の前で、それを見せることで、魔法使いの卵と認定され、道が開かれる。王の子でも、親の顔すら知らない落とし子ですら、関係ない。言葉の意味を知っており、ただ、魔法の発動を見せることができれば。


 たったそれだけが、資格。卵としての、資格。


 子供のうちのみ、許される、魔法使いを目指す為の、資格。


「……」


「安心するといい。俺が終わりとするまでは、あの虹色の柱は消えることは無ぇよ。知らねえようだから言っておいてやる。この水が紫になっているってことは、試しの最中だってこった。誰かの身勝手な一存では終わらない。儀式はもう始まっているんだからな。意外と知られてないんだ。試験管はこいつを発動させるだけで、結果を決める訳では無いってな。あの女はおろかにも知らなかったようだがな。はは」


「よく、しゃべる、ものだ」


「だが、お蔭で息は整っただろう?」


 こくん。と頷いた。そして、


「ほうら。やってみろよ。そうじゃなきゃ、あいつも責を取らされる」


 男はそう、私に対して、冷たく、言った。






 ゴォオオオオオ、ガララララァアアアアンンンンンン!


 雷が、落ちた。


 星空色の屋根と、金属色の柱は吹き飛んだ。


 雨風に、さらされる。赤い絨毯じゅうたんが、湿ってゆく。黄色のサークルが、にじんでゆく。


 遠巻きな人々が見える。


 私だけのせいでまだ発車できない馬車から、冷たい目の、私と同じくらいの子供たちの冷たい目が向けられる。


 ローブ越しの魔法使いたちから、冷たい目線を感じる。


 ただ、誰も発しない。


 ザァァァァァァァァァ――


 涙が、止まらない……。知って……しまったから……。師匠は、とがを受ける。私のせいで。


 ザァァァァァァァァァ――


「いいのか。色が、薄れていっている。そろそろ、本当に時間切れだと思うが」


「……。やる……。やらずに、終わるのは……、それだけは本当に……、裏切り……」


 力を込める。腰を低く構え、左手を掲げ、そして、前方へとかざし、人差し指をのばす。


(最後の、覚悟かくご)


 今にも崩れ落ちそうな体で、叫――


け! 居貫く雷!」


 ……。


 …………。


 ………………。


 何も――起こらない……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ