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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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犬も食わない Ⅳ

 青空の下。緑の芝が広がっている。


 果て無く延々と、なだらなか緑の芝の、丘。雲一つなく、眩しくないのに明るい青空。


 人形は、いない。


 姿は見えないが、複数の気配。その中に私が接していたあの人形のものと同一の気配は無い。数は、二、三、か? 気配、が、ぼやけて、いる?


「1対1というのは偽り、なのかぁああああっ!」


 叫ぶように虚空に問いただしてみた。


「ルールは何だ? せめて勝敗の判定だけでも教えてくれ! コロシアイか? 学園の外だというのなら、勘弁願いたいのだが!」


 魔法の、ではない剣を抜く。


いくつかある気配のうち、小さいものへと向けて一発。撃った。


 構え、鋭く横薙よこないだだけだ。唯の斬撃を超えるそれは、ほとばしる、横数十メートルの真空波。


 芝はげてゆく、明茶色の土壌どじょうき出しになってゆく。


 自分がここへ飛ばされる前とは違う姿の、関節が球体で、口元が人形劇のやつみたいに可動式の人形数体が砕け、吹き飛ぶのが見えた。


 何かが、消えるのが見えて、一際大きな気配が現れて、大きな誰かが立っているのが、どんどん色付いて、実体化していくかのように見えてきた。


「誰かは知らないが、やるねぇ。おかげで助かったよ」


 少しばかり低く、ハスキーな、力強く、響く声。


 それは、姉御肌あねごはだな、大きく鋭い目付きをした、大きな、女闘士? だった。


 どう見たって魔法使いではない。武人のそれである。


 ローブのフードからのぞく、赤いちりっとしたストロベリー色の髪の毛。白くも荒れた鼻頭。灰色の、しかし透き通った光の宿った力強い瞳。


「あたしゃ、滅殺拳打魔法使い、クェイ・ク・ァンタってんだ。あんたは?」


 ローブの下端からのぞく、靴も、足首も。力強く太く、大きいことが見てとれた。


「私はウィル・オ・ライトという。二つ名はかつて授かったが、もう名乗る資格を持たない。それでも敢えて、ひねり出すとしたら、騎士ではなく魔法使いになりたくて、こんなイカれた場所に来てしまったおろか者といったところか」


 少年は思う。


 私と同程度とはいかなくとも、この学園ではまず見ない恵体。


 間違いない。対戦相手だ。そして、間違いなく――強い。


「ライトでいいかい? あたしのことはクェイとでも呼んでくれたらいい」


 こくん。


「あんたはどこまで聞かされている? 決闘のルールについて」


「私が提示されたのは――」


 剣を地面に突き立て、ざりっ、ざりっ、と


【求む、近距離系闘者!】

【トーナメント形式、1対1。】

【参加費無料。優勝賞品、一式お仕立て券!】


「たったこれだけだ。あとはろくな説明も無く、受け答えすら曖昧な人形型の使い魔でめられるように、気付けば参加させられていた、という訳だ」


 すると、


「そうかい。こちらが聞かされた通りだ」


「?」


「これがトーナメントの決勝。あたしはあんたの前にももう何十人ともやり合った。あんたに粉微塵こなみじんにされた人形たちは言ったんだ。これが最後だ、って。あんたはシード。一戦勝てば優勝の特段強い奴って調査されてたんだろうね。この催しの主催者に」


「私よりは随分事情を知っているらしい。一応訊いちおうくが、あんたが主催者ってことも、主催者を知っている、ということも無いだろうな?」


「そりゃね。あたしだって主催者はぶん殴ってやりたい。何十戦もやって、一式分のお仕立券だけじゃ釣り合わない」


「そこは同じなのか……」


「残念ながらね。普通の服じゃあ、あたしのスタイルにはついてこれないし、耐えられるだけの服はあたしのかせぎで数揃かずそろえるのはきつい」


 と、ローブを取り払い、女闘士? はその全身を露わにした。


 恐ろしく、身体に密着した服。いや……。服、といっていいのだろうか? 真っ白で光沢のあり、身体の線にみっちりと密着したような、継ぎ目の無い、しかし、それでいて、一切透けていない。肌着……か……?


「どうやらかなり珍しい類の戦闘スタイルを採っているようだな」


「そちらの手の内を一手とはいえ見てしまったからねぇ。これ位は」


「やる気、ということか。譲ってくれるつもりは無いか? 彼女の機嫌を直す為にそれが役にたつかもしれないのだ。どうしようもなくて、げっそりしている。もうこんな徒労は止めにしたいのだ……」


「ほぅ。大変だねぇ。でもねぇ。あたしも必要な理由があるし、それに()()()からあんたのことは聞いていてね――あんたのような埒外らちがいの卵と、そろそろ一度、たたかってみたかったんだよ」


(あの子? 彼女のことか? いや、そんなことより――)


 その辺に散っていた草の断片と、地面の表面が、吹き飛ぶ。強烈な闘気。蹴り出しや跳ねといった挙動無しに、ただの闘気だけでこれ。しかも、吹き荒れるそれには、ほのかに紅く、魔力の色が混ざって見えた。


(これは久々に、正当に、全うに、たのしめそうじゃあないか!)


 少年は、ぞくり、ぞくり、と体を震わせ、たぎらせる。


 絡め手や不意打ちなんて無し、横槍も無しの一対一。大好きでたまらないそんなたたかい、ここにきて、初めてなのだから。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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