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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第二節 死なぬ、故に、死に学べ

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初めての魔法の授業 Ⅺ

(確かにこれは本気と言える。自身の存在をりつぶされてゆくような代償だいしょうを払っての、自滅願望のような無茶)


(兎も角、言えるのは。今目の前に立つ相手は、私にとって、史上最強の敵であるかも知れないということだ。あの時の式典の場での元・師匠を超えているかもしれない。あの人はあの場で本当に本気では無かったとはいえ)


(さびの見える、今の自身の業で、これに勝てる、の、か……?)


(だが、やるしかない)


(私は確かに受けた。この決闘を)


(それに、こんなのを使ったなら、どうやったって当分は動けまい。彼女にとって脅威はあの魔女だけになる。それなら未だ、勝ちの目も残る、か?)


 これは確かに決闘ではある。しかし、この一戦で勝ったとて、終わりではない。これは、集団戦であることを少年は忘れてはいなかった。


 そして、油断もしていない。考え事に一杯一杯にもなっていない。だというのに――


「っ!」


 カスッ! ッゥゥ!


(左後ろから、切られ、た?)


 翻弄ほんろう、されている。


 大外を向きながら、離れるように、逆時計回りに回りながら、少年の外を抜けてゆく、槍の伸びた穂先の収縮。


「「ほうけておるのか?」」


「もしそうだったとしたら、今のでけりはついていた」


 少年は、鋭く剣を、振るった。


 右手に癒着ゆちゃくさせて持つそれを、上から斜め下、外側へ、鋭く突き降ろすように。


 その速度は、遠心力で加速しながら引いてゆく槍の穂先の速度を超え、


 ギィィィィィィィ――


 穂先の退く側面と、剣の突き立てられた剣先が、赤火の如く、擦れ合う。


 少年が競り勝ち、


 ドゴォォォォォォ――


 槍の穂先は、土に埋もれ、


 ジュウウウウウウウ――


 覆ってきた土に、槍の穂先は溶かす勢いで赤熱を押し付けた。


 土に熱を押し付けつつも、少年の剣による抑えによる摩擦による熱は加え続けられているが、収支はマイナス。穂先は硬さを取り戻し始め、少年の剣は、上方向へ弾かれる。それでも少年の手から剣は離れない。


 そのまま、槍の引いてゆく穂先に乗り、駆け、一歩、二歩、三歩、低く鋭く、飛びかかるおおかみのように、鋭く低く、跳んだ。槍の戻る軌道の、内側へ降り立ち、背を低くしたまま駆けながら、


「†斥穂†」


 間一髪。穂先が激しく振動し、うねる、その暴威の攻撃範囲を一瞥し、


「†旋断†」


 低くした腰。ひねるような動きから、やや上方向へ向けて繰り出す、突き混じりな螺旋の斬撃で狙うは、槍の持ち手。回避が為の稼働難き、上腕二頭筋から、脇の間。


(貰った! ……っ!)


 ギィィィァァアアアアンンンンンンンン!


 少年の鋭い一発は、その刃先から刃元まで回転しながら滑らされ、少年の右腕は、無防備にならざるを得ない。


(2本目、ほぼ穂先だけのような小刀のような、短槍、だと……! 何処、から……。地面……か……!)


 そんな隙を、難敵たる今の相手が見逃す筈も無い。


「†逆手穂刃猪突†」「†瞬断振†」


 放たれる圧の質がより威圧的なものへと、変わった。


(絶対に、受けては、駄目だ! 斬られる方がましなくらいに)


 右手から剣を離す意志と共に、剣の癒着ゆちゃくは取れる。そして、左手への持ち替えをできる姿勢でもない。だから、真っ直ぐ落とすばかり。


 それでいい。


 そして、背後から迫る、遅れてきた巨大なる一撃がまだ残っているのだというのを、迫り来る風圧から感じる。


(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だか、相手が相手。これが最後の勝機かもしれない)


(あとは、私が、耐え切れるかどうか。迫る、一連、二連、いいや、三連に)


 少年は、食い、しばる。


 鎧の特性を突き破るかのように、ほぼ穂先だけの短刀のような短槍が、少年の右腕を切り落とし、その振り下ろしたところから続きざまに、眼前の少年へと、


「†穂握刺突†」「†斥穂†」


 少年は目をかっと見開き、自身の腹を、貫く振りして、腹を蹴り、目的の位置へとぶっ飛ばそうという動きに対して、腹部の臓物と脇腹の骨を差し出しながらも、踏ん張った。


 鎧が斬り貫かれ、筋が裂け、肉と臓物が潰れ、骨が砕ける、音が響く。


 崩れず、脱力もせず、ちゃんと踏ん張りきり、力み、口から血をこぼしながらも、少年は、わらった。


 ガシャァァンン! と、少年が意図して踏んだ、それ。癒着ゆちゃくするそれ。そう。握りは、必要、無い。


 その剣の癒着ゆちゃくという機能。それがもたらすす、奇異なる手段。握れなくとも、それでも剣持ち、抗える。


 これまでとはまるで違う。


 恐ろしい程に勝ちに、拘っている。


 失うものはないとはいえ、痛みは本物。


 どうして、そこまで勝ちたいと思ったのか。どうして、そこまでやり遂げたいと思ったのか。


 それはきっと、目の前の存在に勝ちたいだけの純粋なものでは無い。


 少年はその時無意識ながらも、扉を、開けた。


「†圧†」「†圧†」「†圧†」「†圧†」「†宣誓:斬撃†」「†宣誓:一撃必殺†」「†宣誓:一刀両断」「†救誓:■■†」


 少年の左足。癒着ゆちゃくした剣を振り上げた一撃が、微かに早く。当てきった。放ち、きった。


 衝突に耐えきれず、砕けてゆく少年の、左足先から左足甲までの骨。左膝ひだりひじ左股関節ひだりこかんせつからら、腰、腹部の背骨をねじり砕き、あばらに広がって、粉々にして、そこで止まる。


 崩れ始める、それでも意識飛ばさず、口から血を吹きながらも、相手を凝視し、崩れ落ちてゆく少年に、


「†逆巻戻ノ遠心†」「†往復走破ノ求心†」「†引切†」「†増幅振断†」「†鎧砕キ†」「†十八番†」「†必殺業†」「†回復不能破壊残心†」「†聖騎士装備内蔵属性:火」「†聖騎士装備内蔵属性:土」


 断絶が始まりはじめた存在から、少年より僅かに一手、遅れて放たれる。


 トドメのつもりであったであろう、もうただの過剰な無駄でしか無い一撃が、少年の背後、腰から上へと、残った臓物を潰し、焼き、にじってゆく。


 当事者である二人だけが、一瞬が数十秒にも伸びるような感覚の中にいた。外から見たら、同時にしか見えなかっただろう。


 少年が、腰から腹を弾け飛ばされ、骨砕け、上半身と下半身に分かれ、崩れてゆくさま。


 ネクロマンサーが鎧の上から縦に真っ二つに、弾け飛ぶように断裂したかと思うと、残った左半身のみで立って、動かず、崩れてゆく鎧と、纏った肉がぼとりと削げ落ちて、露わになる中身。虚ろな目の、左半身だけの、断面をあらわにしたネクロマンサー。


 少年は、薄れゆく意識の中、まだ、事切れず、左手で地面を押し、上体を起こして、何重にもかさなってぼやけて見える相手に向かって、振り絞る。


(かくにん、でき、ない……。さい、ご……。なら、あと……は……のこさ……な……い……。さい……しょ、から……こう、して、れば……)


「『()()()()()()()()()()』」


 最初に、立ち戻って。後先なんてもう放棄して、ただ、確実に終わらせるべきだったのだ、と。


 濃く黄色く見える、白くも、黄色く稲妻迸いなづまほとばらせ、雷が、爆発のように、周囲を、いや、この世界を一瞬にして光り輝く白で覆い、占め、消し飛ばしたのだった。

初めての魔法の授業 FINISH

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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