初めての魔法の授業 Ⅶ
自身よりも一回り、巨躯。
振り下ろされる槍。縦。左斜め。右斜め。
受け流し、弾き、懐に潜り込むように避けながら。
「名のある騎士の鎧。そういう、ことか」
動きが、唯の操作のそれではない。動きにカドが無く、流れるように、しかし、しなやかに力強く。
「その通りさライト君。これは俺の父方の祖父のモノだ。正騎士、だったんだよ。これは弟子に装備を託した後に愛用してた品。そして、遺品でもある」
雑魚とは明らかに違う。この全身鎧には、恐らく、どれだけ少なく見積もっても、思念と言えるくらいには、装着者の記憶が遺されている。
本来ぎこちない筈のこのネクロマンサーの動きを、鎧自らが補完しているかのように。そして、その修正に、このネクロマンサーは身を委ねている。
強い信頼を感じる。
少年は踏み込んだ足で、鋭くもない剣の柄を前へ向けて、そのまま殴りつけるように鎧の横っ腹へ一撃を加えた。
ゴォオオンンンンン!
「効かな…―げほぉぉ……。ぎぃぃいい」
ぐらつきながらも、槍の横薙ぎが来る。それを、剣を両手で持ち、腰を低くし、剣の腹を、添わせるように、下から弾き上げ、油断なく、少年は、詰めの一撃を放とうとするが――
ボゥゥオォォォシュゥウウウウウウウウウウウウウウウ――
熱く、灼けるような、左手肘、上から、下方へ、斜めに走った、槍、摩擦。神速のそれを、魔法の鎧たるそれが、本来腕の中心を真っ二つにする一撃を少年の胴の外方向へと滑らせるように弾いたが、嘗て真に正騎士だった思念の籠った鎧の放つ、一撃必殺であろうそれの余波は、少年の左腕を鎧の内部で捻り千切りきっても足りず、そこから、炎を出して燃えつつ、鎧の腕の部分のそれが通ったところを、真っ赤に赤熱させ、変形させるほど傷つけていた。
(遺体本体もなく、ただの残滓だけで、これ、か……。次、来、避け、…―たががあ"あ"あ"あ"あ"あ"――)
返す手、三撃目。また、振り下ろすように来たそれが狙った右足大腿。後ろに倒れ込みながら宙返りするように、それを避けるも、そのままそれは、少年の左足の甲を、貫こうとし、それでも貫けず、鎧の下で少年の左足の甲が砕ける音が響くと共に、少年は、地面にほとんど垂直に、ぶっ飛んで、碌に受け身も取れず、地面にぶつかって、跳ねて、跳んで、跳ねて、無様に転がって、地に伏した。
それでも、少年は起き上がる。
(元・師匠……クラス……だ……。業無しで……。だが……負ける……訳には……いかない……。こんなのの相手を、青藍にさせる訳には……いかない……。こんなところで切るべきではない、が……もうそんなこと言ってられる段階は過ぎた)
剣を構え、向かってきていた、自身より一回り大きな全身鎧の、突きの一撃を、
「†潜身† †瞬動† †一閃†」
潜るようにしゃがみ、前のめりに倒れるような前屈姿勢で、右足をのばし、地面を蹴り、加速し、大きな全身鎧の槍持つのびた右腕を、下から上、肩へ抜けるように、突き抜けて、斬り落とし、
「†空蹴† †全霊両断†」
跳ね上がる身体、捻り、上下逆転し、足で、空を蹴り、更に加速。上から、首、左脇下、左腕へと、抜けるように、両断していき、着地する余力すらなく、地面に叩きつけられながらも、剣は離さず、少年は、少年は転がり、吐きながらも、視界が何重にも見えながらも、壊れた左足を棒に、罅のいった右足で、立ち上がり、構える。
「げほげほっ、未だ、だ」
何故か、攻めきった筈の少年がそう言った。
当然だ。相手はネクロマンシー。
「御見事。もう油断してはくれないか」
綺麗なソプラノの、澄んだ声には、全く乱れが無い。
少しずれながらも、切り落とした筈の右腕をくっつけ、右首根元から左脇下までを大きくずらしながらも、くっつけて、立ち、全身鎧の兜の目の辺りの丸い孔から血反吐が漏れてるにも関わらず。




