初めての魔法の授業 Ⅳ
怯えていた癖に、どうしてか覚悟を決めて、少年たちについてきたブラウン少年は、少年や少女が想定するよりも大きな活躍をしていた。
そう。こんな風に。
「地癒」
荒れた地形での無茶による少女の足の挫きを、ブラウン少年は、自身の身よりもずっと大きな岩の影で、直していた。二人だけでなく、少年もそこにはいる。
三人は、直径数十メートルはあるような、巨大な岩陰に潜んでいた。それは、ブラウン少年が請われ、少年や少女に細かく注文されながら生成した、周囲の地形に精巧に馴染んだ、巨大な岩肌による隠れ家。そこからブラウン少年は飛び出し、ひっそりと唱える。
「地波!」
ブラウンの正面から前方へ、ブラウン少年の肩幅くらいの範囲、地面が、波打ち始め、迸ってゆく。
向かう先。次の標的。数十メートルの遥か先。魔法使い側ではない、たった四人の、壊走していない兵の一団。
彼らの丁度足元。
彼らからしたら、足元が急にぐにゃり、とする訳だから、不意に足元をとられる。しかもそれは、すぐに、通り過ぎっていってしまう訳で、通り過ぎていったそれを目にする余裕が無ければ、文字通りあっけにとられる他ない。
少年は、彼らがふらついた瞬間、飛び出した。
駆け抜け、他愛なく、一閃。
切り落ちた後、斃れる無防備な敵たち。遅れて零れる、血が、水溜りのように広がる頃には、少年はもう、来た道を戻る最中。
酷い早業だった。
そうしてまた岩陰に戻る。そして、岩肌に触れ、溶けるように、三人はその中に。
薄暗い空間が広がっていた。呻き、小さな声で涙する、怪我人たち。そして、動かなくなった死体。どれもこれも、子供。そう。少年たちと、あの場にいて、この場に引き込まれた者たちの大半が、生死問わず、集まっていた。
無事なのは、少年と少女と、そして、ブラウン少年だけ。
「これならいけそうだ。恐らく、あと五倍程度の人数までなら。纏まっていても、あの質なら」
そう、息すらあげていない少年。対して、
「はぁ、はぁ……」
言葉を返そうにも、完全に息があがっていて、できないブラウン少年。その顔色は少しばかり、悪い。
「わたし、多少なら、魔力分けれるけど、きつい、よ。ブラウン君、どうする?」
そう、青藍が心配そうな顔して言う。
「多分、魔力というよりも体力の欠貧だろう。しばらく休めば回復するだろう。しかし、ふむ。ブラウンよ。その魔法、後先考えなかったら後何発くらい放てそうだ?」
少年がそう尋ねると、ブラウン少年は口を動かすでなく、指先を動かした。
指先で、細い線。それを、一本、二本、三本。
そして、更に一本。じりじりと、太く広げた。
「さっきと同じくらいのなら三発。最大火力なら一発。で合ってるか?」
こくん、とブラウン少年は、少し青褪めた、色々な理由で顔色悪いながらも、答えた。
「ライト。魔法使い相手なら、次はわたしがやるわ」
「そうか。頼む。あぁ、ブラウン。お前は一回休み、としよう。中の、他の奴の様子でも見ておいてやってくれ。もし、気付かれて、私たちが間に合わなさそうだったら、手筈通りに。後は絶対に何とかするから」
と、少年が言い、少女を連れて、岩の外へと触れて、岩陰へと出た。
爆発。呻きのような叫び声。駆け抜ける兵士の物音。魔法使いたちの詠唱の声。そんな光景を岩陰から遠望する二人。
少年は、岩陰から顔を微かに出し、遥か遠くを眺めた後、
「さて。青藍。もう雑魚は残っていない。同胞はほぼ救出し、収容しきった。ここから、どうする……?」
そんなことを言って、溜め息をつく。
少女も、岩陰から顔を微かに出し、右手の親指と人差し指で輪っかを作り、その範囲に展開した半透明な薄紫色のレンズ越しに、少年と同じ先を見ながら、言う。
「まさか、よね……。魔法使い側と兵団側にそれぞれついて、一緒になってドンパチしてるだなんて」