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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第一節 対なる比翼の片割れ

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稀有なる光魔 Ⅲ

 隣の部屋。


 師匠は当分、莫迦者な状態から治ってくれそうにないし、長話するなら、向こうで、と、いつの間にか目を覚ましていた、確か、たたらさんに言われたのだ。


 ま、馬に蹴られる趣味は無いのだし、ということで、私たちは移動した訳だ。


「成程、そういうことか。光魔コウマの一種、だね、それ。わたしも実物を見るのは初めてだよ。そいつはそれだけ希少なモノだ」


 紫のローブの学園長が、隣に座る彼女の手をとりながら、そう言った。


 私たちは輪になって座っている。一面の大きな窓の月明かりを明かりにしながら。


「物って……。どう見てもナマモノなんですがこれは……」


 つぶらな黒い二つのまなこを持った、鱗の無い蛇のようなそいつは、透明な舌を出し、こちらを見ている。


「というか、蛇とか、平気……?」


 と、腕にそれを嵌めているというか、巻き付かせてよしとしている彼女に尋ねるが、彼女は、それを気に入っているようで、こくん、と頷いて、また目線を落として、うっとりした目で見ていた。


「君、光魔コウマだよ、こいつは。()()()()()()()()()()()()()()


「無茶言いますね」


「無茶でもやって貰わないと。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう学園長が言うと、彼女の表情がこわばる。そして、震えはじめる。


「力、とは?」


「君は性急だな」


「いや、だって、彼女……」


「手順というのは大事だよ。手続き、といってもいいかも知れない」


「……」


「可哀想とは言うまいよ。今のは君の短慮たんりょのせいだ。さて。光魔コウマかつてはありふれた生物だったといわれている。私が生まれるよりずっと前のことさ。なお、私の齢は、数百に及ぶ」


「えっ……?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 薮蛇やぶへびしそうだったから、突っ込むのはやめた。


「善い心掛けだ。あの莫迦者ばかもののように君がならないことを祈るばかりだよ。アレはなまじ才能だけはあるもんだからほんと、たちが悪い……。…………」


 と、何か思い浮かべてる様子。何か長くなりそうだし。放っておくことにした。


「大丈夫、か……?」


「うん……」


 彼女は辛そうにしていた。


「おなかでも痛いのか……?」


「ちがう……よ……」


「君、あの森ではもう少し元気だったし……。なんだか、声を出すだけでも結構きつそうだし。だからっといって、病人という感じではない。体力に痂疲かひは無さそうだし」


「わかる……の……?」


「騎士だった頃の師匠に教え込まれたんだ。手札を測る目を持て、と。コツをつかめばそう難しいことではない」


「そう……じゃなく……て……」


「すまない。胃薬は持ち歩いていないんだ。癖になるとろくでもないって、これも騎士だった頃の師匠に……。あっ……」


 右の靴を抜いて、その踵部分かかとぶぶんいじる。水やどろを弾く小さく、くしゃっと圧縮された袋。……臭い……が……それは、足の臭いとか、どろにおいとは違う。


「すっかり忘れていた。兵糧丸と呼ばれる薬。そのうち、腹を下したときようの、痛み止め。臭いだけでも効果がある」


 彼女は、顔をしかめ、鼻を塞いで、少し怒ってこちらを見ていた。


「……。済まなかった……。聞くべきだったな。臭いが、抑える術はある。どうする、と」


 ビュゥオウウウウウウウウ――


 突如、強い風が、横から。


 一面の窓が、消えていた。透明なそれは、消失して、外の冷たい風が、流れ入ってきたのだ。


 学園長が、圧のあるまなざしで、こちらを見ていた。この風でもローブはめくれず、顔は見えないが、強い抗議の圧を目線から感じざるを得なかった。


 言葉無くとも分かる。この人に、私が言うべきは言い訳でも理屈でも何でもなく、ただ――謝罪の言葉だ。


「ごめんなさい……」


 そう、ひざをついて、頭をついた。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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