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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第一節 対なる比翼の片割れ

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稀有なる光魔 Ⅰ

「待て! 疾過ぎるわ、貴様は!」


 そう結構離れた後ろから言われ、足を止めた。


「なら、場所を教えてください! 貴方の足に合わせていては、間に合わないかもしれない!」


 中央。


 城。


 その獣のような赤毛の年配の男に、連れられ転移で連れて来られた先。


 そこは、宙の彼方。


 上下が逆な、奇妙な城。


 逆立って、落ちることなく立っている。


 紅い絨毯じゅうたんの足元が、真上。アーチを描いた天井が下。窓から差す月光が、上から下に振り下ろすように差すのではなく、下から上に振り上げるように差している。


 視覚だけが、上下逆転している。


 体は、天たる赤い絨毯の足元にくっついたままだ。


「こんなんで、まともに案内できる訳が無かろうがぁああ!」


 確かにそれは尤もだ。尤も、ではあるのだが……。


「転移で師匠の元まで運んでくれてればよかったじゃあないですか!」


「最初に降り立ったあそこだけしか、ここでは転移魔法は使えんのだっ!」


「じゃあ、貴方はどうやって私を師匠の元まで連れていくおつもりですか!」


「これ…―」


 ダッ、ガシッ!


「頂戴します」


 と、少年は、一瞬のうちにそれを奪い取り、そのまま、彼方へと駆けていった。


「貴様ぁアアアアア! 使い方分からんだろうがああああああああああ!」


 と、聞こえる声が遠くなっていった。






 手にしているのは、蛍色の平たい丸石。


 何やら、脈打っている。


 取り敢えず、分かったのは、その脈動は特定の方向に進めば大きくなり、それと反対方向に進めば、小さくなること。


 つまり、分かった。


 これが大きくなり続けるように進んでいけばいい、ということだ。


 生憎、こういった視界に対するまやかしには慣れている。積んでいる訳だから。訓練。


 魔法使い相手でも戦うときの術。それは、魔法を受けた経験の質と種類と量。意外と、役に立つものだ。使わせていただきますよ。死蔵させて助けられないよりはずっと、いいですから。


 あの獣のような年配の男は確かに言った。


「貴様の師が、貴様のせいで死ぬ寸前だ! 来て、助けよ! なにぃぃ? どうやって、だと? 知らん! 来れば助かる。ただそれだけしか聞いてはおらぬ! なにぃぃぃ? わしは回復は専門ではないのだ。わしの専門? ふははははは、見ての通り、爆破、よ!」


 ……。


 余計なこと考えず、兎に角急ぐとしよう。






 扉の前に着いた。熱を持って、掌の中のそれは脈打っている。


 だが……。


(どう、開けろ……というのだ……)


 目の前に広がっていたのは、壁面に垂直に、円形の盤のように存在する、……何、だ……?


 目的地はここで間違いない筈なのだが、どうしてここだけ、扉が、違う……?


 掌のそれが無ければ、これが扉とは断言できなかっただろう。先へ進むには、これを抜けるしか、無い。


 圧があり、恐らく用意された正解以外を赦さない、だろう。


 別に凶悪な獣のような口とかの意匠がある訳ではないが、魔法陣みたいに、幾何学的な模様が、幾重にも重なって彫られた茶色の巨大な円盤のようなそれが、何やらの護りの役割を持っているだろうことは容易に予想できた。


 ……。


 知るか! こんなもんまともに相手するのが馬鹿らしいわ!

 

 苛立いらだった私は、隣の部屋への普通の扉の前に立ち、剣を喚び、切り刻んだ。


 上下反転が解けている。別に酔わんわ、こんなもので。


 そのまま、その何もない物置のような部屋へ踏み行って、壁を切り刻んで、目的である部屋へと足を踏み入れたのだった。






「はぁ……。お前ってやつは……」


 と、ベッドの上の師匠。


 それと、傍に背もたれのない簡素な椅子に座って、ベッドに上体を寝かしつけている、というか、眠りに落ちている、見覚えのある人物。あの下水の先で見た人物だ。


「……。大丈夫、そうですね……」


 確かに、顔色は悪い。血の気が無くて、げっそりしている。


「まぁ、なんとか…―げふぅぅ……」


 血反吐。


 全然大丈夫じゃあ無さそうだ。


「どうすれば、いいですか……!」


「はぁ……。これ、お前、解除できねぇ、か?」


 布団をのけ、ローブをまくし上げる師匠。脇腹に空いた孔。焦げるように燃える断面。流れる、血。それでも、血の量は少ない。傷口が絶えず、ヤスリなどで削られ、それが削られたそばから修復していく、というのを繰り返しているかのような光景。


「私がやった……やつですね……。でも、どうして、今になって……」


「俺が、聞きたい……。ぐふぅ。すまん。ちょい横になる。もうすぐ学園長戻って来るだろうから、詳しくは……。うっ……!」


 取り敢えず、私は待つことにした。そうすることしか、できそうになかったから。無意味に先走った自分自身に後悔しつつも、何だかんだ、大丈夫そうな師匠を見て、安心できたから、というにもあったのかもしれない。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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