儚く虚ろな闇色の瞳 Ⅴ
予感というか、直観したんだ。この雷は、目の前の人を、殺すに至る、と。こういう直観は、はっきりと、結末を見せる。
どうすればいいかは、分かった。
あの人には本当に感謝しかない。こんなときでも、考えて、動けるのは、あの人の、お蔭、あの人の教えあって、だから、こそ。
元から捨てる命だ。
なら、これが、最後でいい。
最後でもいいんだ。
今思えば、あれだけ、誰かを助けたいと思っていて、今の今まで、自分は誰一人、助けてこれていないな、って。助けられてばっかりだ。
なら、せめて、一人でも、いや、ひょっとしたらもっと、か。
あの逆上魔法使いも傍で倒れていることだし。
時間の流れが、戻るときの、うねるような感覚。成程、こういうものなのか。さて、やらなくては。
さて。我が剣と、我が鎧よ。最後に今一度だけ、力を、貸してくれ。このちっぽけな自己満足の為に。どうか。どうか。
ゴ―ーォ――オ――オオ――ウウ――ウウ――ウウウ――ウウウ――ウウウウ――ンンンンン――ンンンン!
突き立てていた、剣。間に合わなかった、のではなく、恐らく、出ていたら、動きを阻害することになって間に合わなかったのだろう。今考えてみる、と。常時の駆動よりも、ずっとずっと迅かったから。そうして、鎧は、私の動きが終わった後に、現れたようだったが、受けた衝撃故に、ところどころ、砕けた、ということだったのだと思う。
できるかどうか、なんて考えなかった。
ただ、やっただけだ。
何か言われて、答えた気がするが、憶えて、いない。
何せ、一発じゃあ、無かった。
しかも、先ほどのよりも、ずっと鋭く、強力だと感じ取った。どれ位? だって? 周囲一帯、いいや、街ごと更地になりそうなくらいの、ばかげたくらい強力なやつ、さ。
受けた、よ。
一発目のお蔭で、構えは終えていたんだ。
そして、一発目のとき、どうやって誘導したか。一度やった訳だし、やったばかりだったから、できる、と思った。
神の速度だ。
ぐずぐず私が何か言っていたせいで、その人は離れる猶予は無かった。
やるしかない。
雷は無事、誘えた。
だが、問題は、私自体が焼き尽くされても、雷は力を保ったまま、街を終わらることになりそうだ、ということだった。
どうにかして、助けないといけないのに、その方法は無いと結論が出ている。
こんな終わりは嫌で嫌で仕方が無いが、できそこないな裏切者には相応しい末路だと思った。思っ……た……。終わらせる訳には、いかなかった。
自分は仕方がない。だが、こんな自殺に、他人を巻き込むなんてことはあってはならない。
逃げ惑う街の人々や、試験に合格して、資格を得た、魔法使いの卵にちゃんとなれば者たちの馬車。
見えたのは走馬燈、だったと思う。それに逆らうように、記憶に手を突っ込んだのだと思う。色々とぐしゃぐしゃだったから。綺麗な順序じゃあなかった。
だが、そうだろう? 答えは自分の中にしかない。自分にあることしか、自分にはできないのならば。もう見返すこともないのだから、どれだけ乱しても構わない、と。
そこからははっきり、憶えていない。
馬車の荷台。布に覆われた下で、何故か生きている自分と、それまでと違った感覚が、身体に通っていたということ。両目ともにちゃんと見えていて、何故か服装は、多分、前とは、違う。
はっきりと、憶えていないんだ。
その辺りまでが、最も曖昧になっている部分。
だが、それからは、それまでが嘘のように、私は魔法を放つことができるようになっていた。
「――で、特別な魔法学校である、【始まりの園】。そう。ここに来たんだ」
ザァァァァァァァ――
小川の音。
私たちが動かないせいか背景と成り果てている森。
私を見たまま、じっと動かない彼女。
ん?
「そして、何故か、在校生の一部に、襲われる羽目になって、それらを悉く撃退した。死の無い空間である夜の街で。どうなんだ、これは? そういう歓迎の慣習でもあるのか、ここは?」
ぶんぶん。
あっ……。反応している、彼女……。
どうして、今まで認識、できていなかった……? いいや、認識はしていた、が、気にならなかった、というべきか……?
「話し終えた。どう、だった? 満足して、くれたかな?」
彼女に私はそう問いかけた。