始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 Ⅶ
「……(これ、誰も止めてくれないのか……? あぁ、止めれる人物は、私が斃してしまったのだった。死亡、から、重体、ってところか。……)」
カキィン!
灰色で巨大なトゲトゲな砲弾を、弾き、飛ばす。
「『炸裂』」
ロング・ソードを縦に横に、縦横無尽に、その悉くを斬り、無効化しつつ、粉微塵になるまで刻み、落とした。
(業を使うまでもない。やはり、師匠は別格か。……いや、あの人、手は抜いていなかったとはいえ、明らかに、自身に向いてない戦い方だったし……)
考え事をする余裕すら存分にあった。
先ほどまでの戦いで研ぎ澄まされた感覚は未だ残存していて、体力気力は元から底なし。魔法は使っていないが、吸い取られた分は当然残っていないし、枯枯のまま。だから疲労はある。
それでも、剣速は鈍っていない。魔法はもとより、長期戦の手段に使えるような段階にない。
騎士の戦い方だ。
騎士という生き方を蹴ったし、それについての罪悪感も確かにあるのに、騎士としての技も聖騎士の上澄みとしての業も使った。もったいぶりはあったが、結局は、躊躇なく。
手段よりも目的を。
誇り高き無駄死によりも、恥さらしな貪欲さを。
自身の抱くその夢は――生きてしか、為れない。生きてしか、掴み取れない。
奇蹟だって、起こせなくては、成れないのだ。
何だってするし、何だって使う。迷惑や罪悪感に足を引かれつつも、決してやめない。とまらない。
「ぞごが(そこか)」
スッ、ブゥオンン、ピキッ!
ビリッ、プシャァァァ……。
透明な鏡。そんな魔法の構造物を切り裂き、その先も、裂いた。
と、少年の動きが止まったのに乗じて、四方から。
少年が旋回するように剣を振り終えていた。
横に真っ二つにされたローブだけが、四つ、その場に残る。
「……(ほぅ)」
少年は見るまでもなく、上へと、剣を、ひときわ素早く、振るった。
数発の斬撃が、音もなく飛び、肉骨片と血の雨を降らせた。
(便利なものだ。騎士の世界にも、提供してくれていれば、私もその恩恵にあずかって、より強くなれていたかもしれないのに)
「『血の通貨、代償も血であ…―』」
起こりを察知し、地面。突き立てたロングソードで、深く、取っ手より上、刃全部、深く、下方向へと貫いた。
魔力、その起こりは消える。
「今、か。出しつくすぜ! おちる、いし! つぶてのよ…―」
フッ、ピッ。
数十メートル離れた、建物の影。幼げだが、まだ堕ちていなかった小さな者の唇に、少年は、唱えられる前に一瞬で距離を詰め終えて、それ以上先の詠唱を封じていた。
ロングソードを持っていない、右手甲。その鎧の指先で、
コォンンッ!
爪先弾きの一撃で、脱落させた。
(幸い、復帰までのスパンは、完全に一旦落ちたら再戦は無理なくらいには長いようだ。最初の方に斃した者たちは、まだ復帰できそうになかった。いや、あれらは傷が治っていようが、もう私に対峙するのは無理、そうだったな)
「【崩落震】」
ゴォオオオオオオオオオウウウンンンン!
周囲の建物や通路が崩れ、少年に向かって、迫…―
もうそこにはいなかった。もう、跳ねて、跳んで、先へ。遥か上空の、その魔力の持ち主へと、迫ってゆく。
(声なき声。その更に上。師匠もさりげなく途中から連発してたそれ。成程、魔法使いの一定の強さの壁越えとみた。ならば、構うまい)
「†刺突†」
鋭い突き。それは、針のような細さの、しかし、居貫く衝撃波。狙いは、喉。
パァァンンン!
貫き、弾けさせた音。
が、
「【空揺れ波波】」
「ぐぅ、ガガガぁあああああ…―」
最後っ屁のような連撃たる一つの魔法により、上空から、地上へと一気に叩きつけられた。
ブゥオンン、ドゴォオオオンンンン!
その傍に、ブドッ、ドタッ、バキッ、ドッ!
落ちてきた、先ほどの上空の魔法使い。華奢な手足が、えぐく、曲がりくねって、色々垂れていた。
少年はそれでも難なく立ち上がりながら、真っすぐ飛んできた、蒼い光の光線を、ロング・ソードで斬り消した。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――」
逆上した声をあげる、痩せた男が、落ち武者のような髪の毛を激しくたなびかせながら、ニ撃目、三撃目を構えて、
「【蒼葬光】」
「【殲葵紋紋】」
放ってきたのを、
(謝らぬよ。性別は関係ない、闘争には。それに、殺意を形として放ったからには、覚悟、すべきだろう? だからそれはお門違いだ)
「†一閃†」
その痩せた男ごと、丸ごと、切り捨てた。
(さて、そろそろ終わり、かな?)
先ほどの、恐らく唯のコンビ以上の関係であろう二人を仕留めてから、もう、攻めてくる者はいない。残り僅かな未だ意識保っている観戦の者の中に、機を伺っている者がいるのだろうと考えつつも、いい加減、億劫にもなってきていた。
(さすがに、疲労が残るぞ。休みが貰えないのだとしたら)
だからか。確実な終わりを迎えるにはどうしたらいいか。終わらせようと思ったら、そう考え込むこともなく、答えは出た。
(ああ、そうか。叩き起こせばいいのだ)
一見無防備に、歩き出す。
向かうのは、その辺に転がったままになっているであろう、師匠のもと。
斃してからだいぶたつ。浅くじゃあなくて、しっかりと仕留めたのだから、好きに動き回れる程回復はしていないだろう、と高を括って。
ブゥオンンンンンンンン――
「……(何だ、これは……?)」
すっかり胴がくっついた師匠は、未だ気を失ったまま。満足そうな顔をして。
そして、その傍に発生している、黒い靄の渦。
その魔法の効果を、少年は知っている。
(起こすべきか、それとも――うん、征こう)
少年は、好奇心に引っ張られていくように、渦の中へと消えていった。
始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 FIN
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