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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第一章 第二節 魔法の始まる地

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始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 Ⅶ

「……(これ、誰も止めてくれないのか……? あぁ、止めれる人物は、私がたおしてしまったのだった。死亡、から、重体、ってところか。……)」


 カキィン!


 灰色で巨大なトゲトゲな砲弾を、弾き、飛ばす。


「『炸裂さくれつ』」


 ロング・ソードを縦に横に、縦横無尽に、そのことごとくを斬り、無効化しつつ、粉微塵こなみじんになるまで刻み、落とした。


(業を使うまでもない。やはり、師匠は別格か。……いや、あの人、手は抜いていなかったとはいえ、明らかに、自身に向いてない戦い方だったし……)


 考え事をする余裕すら存分にあった。


 先ほどまでの戦いで研ぎ澄まされた感覚は未だ残存していて、体力気力は元から底なし。魔法は使っていないが、吸い取られた分は当然残っていないし、枯枯かれがれのまま。だから疲労はある。


 それでも、剣速は鈍っていない。魔法はもとより、長期戦の手段に使えるような段階にない。


 騎士きしの戦い方だ。


 騎士という生き方をったし、それについての罪悪感も確かにあるのに、騎士としての技も聖騎士せいきしの上澄みとしての業も使った。もったいぶりはあったが、結局は、躊躇ちゅうちょなく。


 手段よりも目的を。


 誇り高き無駄死によりも、恥さらしな貪欲さを。


 自身の抱くその夢は――生きてしか、為れない。生きてしか、つかみ取れない。

 

 奇蹟きせきだって、起こせなくては、成れないのだ。


 何だってするし、何だって使う。迷惑や罪悪感に足を引かれつつも、決してやめない。とまらない。


「ぞごが(そこか)」


 スッ、ブゥオンン、ピキッ!


 ビリッ、プシャァァァ……。


 透明な鏡。そんな魔法の構造物を切り裂き、その先も、裂いた。


 と、少年の動きが止まったのに乗じて、四方から。


 少年が旋回するように剣を振り終えていた。


 横に真っ二つにされたローブだけが、四つ、その場に残る。


「……(ほぅ)」


 少年は見るまでもなく、上へと、剣を、ひときわ素早く、振るった。


 数発の斬撃が、音もなく飛び、肉骨片と血の雨を降らせた。


(便利なものだ。騎士の世界にも、提供してくれていれば、私もその恩恵にあずかって、より強くなれていたかもしれないのに)


「『血の通貨、代償も血であ…―』」


 起こりを察知し、地面。突き立てたロングソードで、深く、取っ手より上、刃全部、深く、下方向へと貫いた。


 魔力、その起こりは消える。


「今、か。出しつくすぜ! おちる、いし! つぶてのよ…―」


 フッ、ピッ。


 数十メートル離れた、建物の影。幼げだが、まだ堕ちていなかった小さな者の唇に、少年は、唱えられる前に一瞬で距離を詰め終えて、それ以上先の詠唱を封じていた。


 ロングソードを持っていない、右手甲。その鎧の指先で、


 コォンンッ!


 爪先弾きの一撃で、脱落させた。


(幸い、復帰までのスパンは、完全に一旦落ちたら再戦は無理なくらいには長いようだ。最初の方に斃した者たちは、まだ復帰できそうになかった。いや、あれらは傷が治っていようが、もう私に対峙するのは無理、そうだったな)


「【崩落震】」


 ゴォオオオオオオオオオウウウンンンン!


 周囲の建物や通路が崩れ、少年に向かって、迫…―


 もうそこにはいなかった。もう、跳ねて、跳んで、先へ。遥か上空の、その魔力の持ち主へと、迫ってゆく。


(声なき声。その更に上。師匠もさりげなく途中から連発してたそれ。成程、魔法使いの一定の強さの壁越えとみた。ならば、構うまい)


「†刺突†」


 鋭い突き。それは、針のような細さの、しかし、居貫く衝撃波。狙いは、のど


 パァァンンン!


 貫き、弾けさせた音。


 が、


「【空揺れ波波】」


「ぐぅ、ガガガぁあああああ…―」


 最後っ屁のような連撃たる一つの魔法により、上空から、地上へと一気に叩きつけられた。


 ブゥオンン、ドゴォオオオンンンン!


 その傍に、ブドッ、ドタッ、バキッ、ドッ!


 落ちてきた、先ほどの上空の魔法使い。華奢な手足が、えぐく、曲がりくねって、色々垂れていた。


 少年はそれでも難なく立ち上がりながら、真っすぐ飛んできた、蒼い光の光線を、ロング・ソードで斬り消した。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――」


 逆上した声をあげる、せた男が、落ち武者のような髪の毛を激しくたなびかせながら、ニ撃目、三撃目を構えて、


「【蒼葬光】」

「【殲葵紋紋】」


 放ってきたのを、


(謝らぬよ。性別は関係ない、闘争には。それに、殺意を形として放ったからには、覚悟、すべきだろう? だからそれはお門違いだ)


「†一閃†」


 そのせた男ごと、丸ごと、切り捨てた。






(さて、そろそろ終わり、かな?)


 先ほどの、恐らく唯のコンビ以上の関係であろう二人を仕留めてから、もう、攻めてくる者はいない。残り僅かな未だ意識保っている観戦の者の中に、機を伺っている者がいるのだろうと考えつつも、いい加減、億劫おっくうにもなってきていた。


(さすがに、疲労が残るぞ。休みが貰えないのだとしたら)


 だからか。確実な終わりを迎えるにはどうしたらいいか。終わらせようと思ったら、そう考え込むこともなく、答えは出た。


(ああ、そうか。叩き起こせばいいのだ)


 一見無防備に、歩き出す。


 向かうのは、その辺に転がったままになっているであろう、師匠のもと。


 たおしてからだいぶたつ。浅くじゃあなくて、しっかりと仕留めたのだから、好きに動き回れる程回復はしていないだろう、と高をくくって。






 ブゥオンンンンンンンン――


「……(何だ、これは……?)」


 すっかり胴がくっついた師匠は、未だ気を失ったまま。満足そうな顔をして。


 そして、その傍に発生している、黒いもやうず


 その魔法の効果を、少年は知っている。


(起こすべきか、それとも――うん、こう)


 少年は、好奇心に引っ張られていくように、うずの中へと消えていった。


 

始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 FIN

NEXT→ 儚く虚ろな闇色の瞳

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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