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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第一章 第二節 魔法の始まる地

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始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 Ⅵ

「ぐふっ……」


 男は()()、血をいた。もう二桁に届くほど血反吐ちへどいているのだから。……それなのに倒れないし、放つ魔法の威力も、頻度も下がっていない。寧ろ、上がっている。威力も、そして、


「『痛みよ、き付け』」


 血反吐は、黒いもやに変わりながら、蒸発してゆき、散る。そうして、少年の顔へとせまっていき、鼻孔へと無理やりねじ入ってゆく。


 それでも少年は、顔をしかめることもなく、平然として、血涙、耳からどす黒い血、破裂した鼻で乱れることすらせず息をしながら、男の表面を、斬るのから、削るのに変えて、く、の字に、切り取るように刻み続けてゆく。


(残念。痛みや苦しみ程度に負ける者ではないぞ、私は)


 ザシュブシャ! ジュゥゥ!


 また一撃。肉を、削いだ。削いだ先から、切り取った大本はける。


(熱に、べたつき。切れ味の鈍り、そろそろ、ごまかしが効かない、か? なら、刺突寄りに切り替えればよし)


 男の杖を持つ手は、肩が、骨が露出ろしゅつている箇所がちらほら散見されるようになる位、重点的に狙われていた。それでも男は杖を離す様子はない。


「いい、がげん、びざばずびでぐだざぎご(いい、加減、ひざまずいてくださいよ)」


 少年は、呆れながら、剣を、より鋭く振るい続ける。


「くく。()()()()()()()()()()()


 と、男は、ぐわん、と思い切り大きく口を開けて、自身の杖の切っ先を、


 ぐ、ゴガビビグググチィィアアアアアア!


 じ込み、その口は、頬は、喉は、裂けながら潰れて、血を、ばらまいた。放射状に、散らすように。


 それは、弧を描き、ふらつく足で、弧は円に。勢いは酷く、少年は上半身をその血液で湿らすくらいに汚れた上、円は、少年の強い一歩での踏み込みでも後ろ飛びでも出られないくらい、広く、展開された。


(しまっ、た……!)


 明らかに、行動が遅れた。避けようとすらできなかった上に、陣を、築かせてしまった。


 遅いと思いつつも、そこから出て、離れようと地面を蹴るも、もう、遅い。


「【トバリ血袋チブクロ】」

「【牢鎖血錆ロウサチサビ】」

「【血重税・脱力陣】」


 三重の、声なき声の魔法。


 少年は、赤に、視覚を塗り潰され、聴覚をふさがれた。


 少年は、上半身に、無数の鎖が、巻き付き、四方八方から、引き千切られるような力で引かれるのを感じた。


 少年は、自身の力が、ひどく抜けてゆくのを感じた。


「【力徴税・恢復かいふく】」


()()()()。蘇るとはいえ、な。そして、そのときの痛みも苦しみも、確かに本物だ。初めてだと、すこぶるきつい」


(声。あぁ、多分、今の。全快してるな。容赦ない。本当に。嘘の臭いはしない。なら、嫌だなぁ。その実感は恐らく本当なのだろう。往生でない死の体験だなんて、しなくて済むなら、一生、味わいたくない)


 少年の心の声を読み取ったのか、男は続けた。


「嫌なら余裕ぶってないで、必死で、抗ってみせろや!」


(確かに――そうだ)


 喚ん――だ。


 ブゥオゥゥゥゥゥ。


 消し飛ばした。


 のぞき孔も継ぎ目も無い、汚れなき純白の全身鎧ぜんしんよろい。その左の籠手こて掌部分てのひらぶぶん癒合ゆごうするようにくっついた、何の変哲も、意匠も無い、武具と同色のロング・ソード。わずか、その空を切った横薙よこなぐ一振りで。





 闘いのギアは上がる。


 空気が灼けるような、不可視なのに、感じざるを得ない闘気が、少年を中心に発せられ、気当たりするように、傷を負ってない者も含めて少年から半径数十メートルの距離から見ていたものたちの殆どが、軒並み、気を失った。


 たちのぼるそれを感じ取って、気が変わって、無関心から、観戦へと移ることにした者たちの大半が、自身の目を疑った。


 目で、追えないのだ。


 人間のような大きさの塊が、残像を残して、頻繁に消えて、途切れて。加えて、一方が放っている魔法が、種類も数も、正確に測れない。何重に重なっているのかも、その効果も分かり易く現実に現れている物理的なものしか分からない。


 加えて、対峙している、魔法全く使わない側が、より信じられないものであった。


 騎士きし


 それも、よりにもよって、正騎士せいきし。証の首飾りが見えなくとも分かる。その剣と鎧。どちらも、異質。そして、何より、闘気だけでは済まされない、圧。威というか、恐怖が形になったというか。普段自分たちが下に見てめている、ちょっと強いだけの騎士や、ギリギリ下限な数多の正騎士せいきしとも違う。上澄みの上澄み。魔法使いの上澄みに匹敵する、一握りの、説明のつかない、ありえないような化け物。魔法使いから見ても、化け物な、人間の筈の化け物。


「やりゃ、できるじゃねぇか。ふはは、ふはははははははは」


 男はここにきて、棍棒の如く杖を、少年を殴りつけるように振るう。そして、その切っ先が、かするだけでも、


「【エクス・プロージョン】」

「【イクス・プロォジョオンン】」

「【フレア】」

「【爆!】」


 三つ、四つ、同系統の、声なき声の同時詠唱。容赦ようしゃない魔法が飛ぶ。


 それを、少年が、かのロング・ソードで切り裂き、片っ端から不発にさせる。すると、


「砕けろ」


 男は、棍棒の如く杖の、その柘榴の巨塊のような玉を砕く令から、


「【血重税・脱力陣】」

「【力徴税・恢復かいふく】」

「【さかのぼきらめきの意思】」


 少年の体力気力魔力の吸収、自身の回復、砕いた杖の石の再生。


 少年の攻めよりも、より男の攻めが手数もえげつなさも増して、男が自身のリソースを著しい勢いで恢復させてゆき、今度は少年が削られる立場に。


 少年は、言った。


「ばざを、がい、ぎん、じば、ず(業を、解禁、します)」


「ん? 何言ってるか分かんねぇわ」


「【エクス・プロード】」


 と、男は、地面を、爆発の陣に張り替え、


「【爆!】」


「うだばだいでぐだざいで(()()()()()()()()()())」


 ドゴォオ…―


「†斬る†」

「†横薙よこなぐ†」


「は、はぁあああああああ」


 ぶしゃぁああああああああああああ!


 男の胴は、激しくぱっくり大口をあけて、血を噴き出して、そして――決着はついた。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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