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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第一章 第二節 魔法の始まる地

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始まりの園 夜遊ぶ雛たちの宴 Ⅳ

 少年の師匠は、椅子で、ふんぞりかえって、ニタニタ笑っていた。


(あいつ、やっぱりフィジカルエリートか。魔法なし、剣を振るわずとも、存分に化け物。正騎士せいきしに手を届かせたのは伊達じゃあ無ぇわな)


 もやの映す光景。


 くわん、くらん。ぶらり。


 外された手首から先。ご丁寧に、折ることなく、緑色でぶつぶつごわごわの、水びれのついた手首から先の関節は早業で外されていた。


 その後ろに立ち、呆然とする魔法使い。


 少年は笑う。


「人型なんて単体で呼ぶからそうなる。せめて数呼べば欠片くらいは勝ちの望みは残ったのではないかと。いいや、無い、か」


 トドメと言わんばかりに、少年は、それの首をくびり千切った。


 どんどんと容赦ようしゃなくなってゆく。


 気配が完全に消失しないから。つまり、死んでないから。


(死なぬ実戦の場として整えられた領域で違いないのだろう。だが、それでは、慣れぬものだが。教える側は、判っていないのだろうな。騎士とは違うのだろう。魔法使いは何でもありで、だからこそ、何でも温い。基本的には)


 気絶していないその魔法使い。


 つまり、割と手強い方といえる。


「【かめの記憶、象れ、水よ。満たせ、水よ】」


 恐ろしく高い練度。声なき声で唱えらえてその魔法は恐ろしくはやく、少年は逃げの一歩も、妨げるための一歩もなく、それに、その魔法使いと共に包まれれる。


(ほぅ)


 しかし――数十分後。


 大量に浮かぶ、緑色でぶつぶつごわごわの、水びれのついた手首の、大量の亜人が、動かなくなって、水を漂っている。


 まだまだ余裕そうな少年。しかし、その顔は困惑を浮かべている。


 少年の目の前。


 白目をむいて、たった今、気を失った魔法使い。


 パチンッ、ザバァアアンンンンンン――ザァァァ――


 散って、流れていった水。


 召喚していたものであったらしく、緑のぶつぶつな亜人たちも、水のかたまりも、消えた。


 額に手を当て、はぁ、と溜息をつく少年。その口元は、歪つに、釣り上がっていた。


 そんな光景をもやに映し、見る師匠たる男は思う。


(騎士として上澄みだったから、だけじゃあ説明がつかねぇ。魔法への対応力。一見、フィジカルでのごり押しで破っているだけに見えて、こいつは、正体や実態を捉え、見据え、見せられた魔法について、考えてやがる。しっかり、ぶれず、ずれず、間違えのない対処を大体している)


 魔法について、魔法使い以上に、考え続けている。


(経験を重ねている。だからだ。使い方も。対処法も。思いつくんだ。想像力がある。質と量に裏打ちされた。自分ならどうやって使うか。好きなんだろうな、本当に。だからだ。こいつが何だかんだどんどん楽しそうになっていってるのは。望んでやまなかった、機会ってやつだろうな。ふふ、はは。そうさ。お前は今からずっと、魔法を楽しめるんだ。浴びるように味わえるし、その喜びを隠す必要もない。それに、お前が使ってもいいんだ。使えるんだからな、魔法を。見るのばっかりだったから、今のそうやって、見てばっかりなのか? テコ入れ、要るか、やっぱり?)


 弟子である少年と同じように、師匠たる男も実にたのしそうに企んでいた。


(俺が見たいのは、き出しのお前だ。利口なのに、それを台無しにしてしまうだけの夢見野郎。身体は強く、頭も回り、根性もある。センスもある。ただ、魔力はほぼない。魔法使い以外でなら、将来は約束されているだろうってのによ。くくっ。未だ底が見えねぇ)


 ぞくぞくっ。


(ああ、もうダメだ。誤魔化しきれねぇ。ぐははははは。分析もどきなんかじゃあなくて、


「やっぱ、出るかぁ。俺も。くく。ふはははははは!」


(やりあいてぇぇええええええ! 俺もやるぜぇええええ!))


 うずく風穴に手を当てながら。


 もやから景色を消し、師匠たる男は立ち上がる。


 そして、椅子を掴み――それは太ましい、棍棒のような杖に変貌へんぼうしていた。


 それが杖といえるのは、その先に、研磨もクソもない、掘り出されたそのままのような、柘榴石ザクロいしの原石のような、赤くくすんだかたまり癒合ゆごうするようにくっついているから。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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