始まりの園 中心 不夜の夢想の城 Ⅰ
城がはっきりと見える。
ネオン色の多数の光が、揺らいでいる。ネオン色の多数の光が、歩いている。ネオン色の多数の光が、踊っている。ネオン色の多数の光が、騒いでいる。
それらは、ぼんやりとした光の輪郭によって、人を象った形をしていた。
足取りも自然と、遅くなる。疾走からかけ足に変わるくらいに。
触れることもない。音もない。しかし、その動きは躍動的で、少年の側を、ときには体を透過して、通り過ぎてゆく。
そんな、ネオン色の、大小様々な人の形の光がぽつぽつと出始めて、どんどん増えてきて、けれどもそれらは少年のことにまるで気づいていないかのよう。
他の通りからも上がってきたり降りてきたり、脇からも出てきたり、楽しそうに連れ立って出てきては通り過ぎてゆく。
寂しいとも思わない。楽しもうという気分にもならない。先ほどまでのような背を押す何かはかききえてしまっていた。
足は止めず、淡々と進む。中央へと向かう。少年を止める者も背を押す者もいない。それでもそうするのはきっと――もう御開きにしたいと思ったから。
少し前とは違って、心を――掻き乱されている。
足は、重くなる。
もう、駆け足ともいえない。惰性で歩く速度。
人の形象る光が、駆け、ちょうど少年をすり抜けたりして、少年の進路目の前に集まり、それらはある仕草をする。口元に、片手で象った筒の形をあて、胸を膨らます仕草をして――
ピィィィゥゥゥゥゥゥーー
音を発しながら、上空へと、光線となってーー束なって、集まって、上空でーーパァァァァァンワァアアアンンンン!
それらの光の体が弾け、光の条線となって、放射状に飛んだ。
ワァァァァァァァ――
歓声だけは、発信源の姿形なく、どこからともなく、聞こえてきた。中央、あの城からでは、無かったのだ。
足は、止めなかった。どれだけ重く感じても。思索に走りそうになるのを抑え、歩き続ける。
自分の周りに今まで――同年代なんて、一欠片もいなかった。
結局は――他人事。蚊帳の外。
門をくぐって何ぞ、ない。
ふと気づけば、光景は変わり、少年は城の前にいた。
後ろを見れば、城壁。高く聳え、外なんて見えない。よじ登れるような取っ掛かりはない。壁面は蒼く、蛍光を発している。それは、まばらで、濃淡がある。その光の強い部分は、蝋燭の火のような揺らぎを持っていた。
前を向いた。人型の光は、存在していないようだった。
ここは、環形の城壁の内側であるようだ。
それなりに広い。端から端まで、全速力でも分は掛かりそうなくらいに。そして、芝生でもなく、地面は石畳であり、傷だらけであり、凸凹であり。
背後からは、あれらが打ち上がる音が時折響く。時折激しくなることも、静かになってゆくこともあるが、少し長い目で見れば、結局のところはどっちつかずに、変わらず続いている。
あれらは通りで発生してきていたのだろうと結論付ける。
思索を巡らせるしかやることはない。ここは終点のように見える。先へ続く道なんてないよう思える。
そうして、どんどんと、気力はなくなっていく。傾聴なんてしなくとも聞こえてくるのだから。周りのあの偽りの歓声と、偽りでも楽しそうなあれらの姿が。
自分が外れていることの証明であった、
結局逃れられないかのように付き纏う。諦めようとも、慣れることはないそれ。
孤独と言う名の、自分にとって、絶対である絶望の呪い。
認識されないことを、価値なきものと、見向きもされないことを、結局これまでのように感じ、思う。
いなく、なって、しまいたい。
望みを奇跡のように繋いで、これだ。このざまだ。
周囲には誰もいない。
今なら、いい。
丁度、お誂え向きにこのようなものも、持っている。騎士なる証たる剣をこんなことに使うのはどうしても赦せないから。本当に、丁度、いい。
ぽとり。
(涙、か……。『その資格は無い』)
刃を自身の首へと、横向きにあてた。
でも、声は出ない。ただ、涙が流れ、見上げる。視界に映る、幻の、蒼の燭城が見える。この周りの城壁のものよりも上等で上品な、灯が、燭台に灯る、絢爛な、灰色でありつつも、蒼く照る、城の幻影が見える。
地面と接してなく、下部が、宙で、消失している
遠く、前方の城壁が、真っ黒くなる。目の前にいる自分より大きく、半弧を描くように膨れ上がるように。
こちらへ迫ってくるのだろうか。
そうか。呑み込んでくれるのか。
蠢く闇色の塊が、膨れ上がって、秩序立った積み上げの線を歪ませ膨らませながら、迫ってくる。
暗い気分になった。あれに呑まれたら消えてしまえるのだろうか。惨めさと、醜い執着を捨てて。諦められるのだろうか。負けを負けと、諦め切って、消えてしまえるのだろうか。もう、前を見るには、疲れた、のかもしれな。
力を抜いて、目を瞑るように、倒れ込むと――




