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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第五節 奇運奇縁の帳 二日目 神子の戯式

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 結 (中) 疾走、ほどけ、とけて――

 決着はついた。


 事が起こったその時からは、想像できない形での着地。


 少年。そして、倒れ負けることも怯え負けることもせず馳せ参じた強者たち。勝因は問題の本質に少年が気づき、強者たちもそれに乗ったこと。少年がわざわざ説明することもなく、彼らはそれが当然かというように見に徹して、把握、その後、少年の行動に倣った。


 少年の声はデカく、その小さな子の相手をするような振る舞いは、それに倣えという意図さえ汲み取ってもらえれば、これ以上なく分かりやすいものだったというのも大きい。


 少年の大根役者っ振りもあって。集まった強者たちから見ても、少年の強さは一瞥するだけで明らかであり、そんな少年がわざわざこんな手段を採っているのだから、というのも大変分かり易かったのだろう。


 少年の戦闘能力を目の当たりにした者たちも強者たちの中に紛れているのも大きい。


 少年の彼女経由で、他と比べて情報を多く持たされて現着した者たちも強者たちの中に紛れているのも大きい。おまけに彼らは、情報交換の猶予があった。現着時刻が都度都度でなく、合わせたかのようだったのからそのことは察せられる。


 そうして、迎えた着地。


 数多の魔力を汗を流すように、楽しみながら自ら消耗し、分身体からどんどん消えてゆき。そうやって、分かれに分かれていたが故に、強者たちは持久勝負に勝てた。当然の如く、タッチして終わりにはせず、わざとらしく、しくじっては、迫って、を手を変え品を変え、追いついてみせたり、挟み撃ちにしたり、樹の壁をすり抜けてみたり、逆にそれらを利用するように隠れていてばあって待ち伏せてみたり。


 そんな皆の工夫と、色々な幸運と気づきが折り重なって、出来上がった結果は――


 開かれた場所。芝生があり、いくつかベンチが並ぶだけの、通り道兼休憩エリア。


 流石の強者たちも、息があがって、寝そべっていたり。こんだけ走り回ったの久しぶりと即席で組んだ者同士で話が弾んだり。そして、座り込んで穏やかな顔をして、この遊びの締めくくりを見守っていたり。


 そんな中、


 スッ。


 ぴたり、と、少年の左手の掌が、素早くステップを踏むように回避を続けていた幼げで笑って、滝のような汗を流す、僅かに樹木の枝や根や若葉を自身の半径数メートルの範囲に僅かに喚ぶばかりとなった、小さな小さな男の子の背の中心を捉えるように触れた。


 素早くもなく。待ち伏せるように置くでもなく、いつでもできたそれを、やっと実行した、といった風に。


「そろそろ終いにしよう。ふっ。そんな顔をするな。遊びは楽しいまま終わらせるに限る。それ以上は倒れるぞ? それは辛いことだ。見たことあるだろう? しんどそうにしている人たちを。そういう人たちは楽しさを忘れてしまう。きつさで上書きされるからだ。……。ま、いくらでも付き合ってやるさ。わたしで良ければ、な。またあそぼ、ってことだ。休んだら、な。こんな風に」


 幼児向けに分かりやすく説明する経験なんてものは無い少年のそれは拙いものではあったが、自身が背を芝生に預けるように倒れながら、幼な子の手を掴み、共に芝生という名の布団に身を預け。


「うんっ」


 少年は思う。


 綺麗な空だ、と。遮るものの無い。


 ……。


 見える筈の物が見えない。


 ここは何処か。


 大樹の下である。


 だというのに。


 この枠も網目も無い、ただただ青いだけの空は、何なのだ……?


 知った気配の躍動を感じる。


 遠い。


 パークの辺縁? いいや? 更に外側? 群れ? 軍? 薄いが、敵意? にしては、広すぎる。この場そのものへの、敵意?


 何故、今になって……?


 隣を見た。


 恐らく、尋ねても期待する答えどころか、いくつかの想定に近しい答えやヒントすらも得られないだろう。コレは意図してこうした訳ではないのだ。コレとわたしたちの遊びを成立させるために、コレは遊び以外の邪魔をわたしたちの意識の外へと追いやっていたのだろう。


 悪意もなく。意図もなく。たた何となくという方向性で、そういった結果が齎されてただけだろう。


 動かねばならない。されど、動けない。わたしも、即興で合わせてくれた協力者たちも、遊びという領域の次なる領域、休息という領域に引きずり込まれて、そのことに多くは気付きすらできず、何もできない。


 気づいたとて、抗う気すら起きないほどに、その支配力は強い。


 ……。


 青藍……。君の領域にまでこの支配が及んでいないならば、どうか、気付き、動いてくれ。おそらく、わたしは、この場から当分動けそうにない……。


 ブラウンたちは、そうヤワでは無いと思いたいが、最も近くに存在する気配のいくつかが、元師匠並みに強烈なのが気になるが、敵対しているなら数秒持たない。わたしがはっきり察知できない外側の群れ、もとい軍が、何であるのかが命運を分けるか……?


「どうしたの?」

「ふふ、何でもない。息を整えながら、次を考えているだけだ。遊びというのはどういうルールを敷くかでそれが楽しめるかどうかの凡そが決まるものなのだから」


 周りの目は生暖かい。彼らも次があれば、そのまま参加決定となるのだろう。


 ここまで他の場所の諍いがやってきてくれないと、関わることすら、わたしはもうできそうにない。そして、もう役目を終えて他に回したい強者たちも。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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