デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 変転変換 境界消滅 (内)
「てめぇら。どこの誰かは知らねぇが、動けねぇなら離れとけ!」
ゲリィのその呼びかけに、ブラウン少年が先に反応する。
「っ! 大丈夫です! いけます!」
そう、彼女からすっと抜き出て、構える。僅かにふらつくが、しっかりと立った。
「……。私もいけます! どなたか知りませんが、助太刀感謝します!」
力強く構えた。オーラが、紅色に、砂すら燃やすように、迸った。
「本当に大丈夫かぁ? 魔力酔いしてんじゃ…―」
ゴォン、バキィンンンンン!
「待てよ少しくらい」
縫い合わされたような口が裂け開いて、剥きだされた牙が――砕け折れていた。黒い岩に食らいついていたのだから。音も影もなく、突如現れたようなその岩に。
「ほら、待て。待てっ!」
ゥオン、ゴォオンン! ゴビキィイイイイ!
宙にもわん、と、一つ、二つ。怪鳥の頭に、黒い岩が落ちた。
「グィイイ、ガゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――」
擦り切れるような金切り声。
四人は思わず、耳を塞いだ。
しかし。四人のうちの一人だけ、ゲリィだけは、棒立ちではなかった。
「ぴぃぴぃ騒ぐなぁぁ、うっせぇなぁ!」
フゥ、ボォブチャァアアアアアアア!
振り放たれた拳は、黒い岩に覆われており、怪鳥の口の牙の右側の大半を砕き抜いていた。
怪鳥の喉が、膨ら…―
「伏せぇぇぇぇぇぇ!」
びゅ、パァァァンンンン!
ビンタにように放たれた、黒い岩に覆われた手の横薙ぎ一発で、破裂した。
「伏せぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいっ!」
ボコォオオンンンン! ミキミキミキッ! ベキッ、バキィィ!
容赦なく、頭、上から、地面に叩きつけるように、黒い岩に覆われた拳が、怪鳥の頭に振り下ろされた。
「てめぇら、平気か? 気付け薬くらい持っとけよ。これだから純魔法使いって奴らはよぉ。 お? 男の方はそうだが、女の方は違うか。がはは。まさか、お…―むぐぅ!」
「ゲッスぅぅいいいい~。だぁっ~さぁぁぁ~~い。折~角、珍しく恰好よかったのにぃ~。それ口にしちゃったらぁ、いっつも通りの、ただのくっさい、汚い、おっさんだよ~?」
「けっ。俺だって言いたかねぇよ。だがなぁ、このざまじゃあ言いたかなるよ。浮かれて死んでちゃ、訳ないぜ? ってな。俺らいなかったら、こいつら、訳も分からねぇまま、死んでたぜ?」
「仕方ないんじゃぁない? 時魔法の崩壊波をまともに浴びちゃったみたいだし。すぐ立てただけでも、やる方じゃあない?」
「あのぉ……」
ブラウン少年が、バツ悪そうに間に割って入る。
「ん?」
「あれ……」
ブラウン少年が指を指す。音も立てず、砂埃を立て、そこでぐわんぐわん目を回している怪鳥と自分たちを置いて、パークが、離れていっているのだった。
「捨ておいておけや。どうでもいいだろうが、そんなもんんんん!」
「「「えぇぇ……」」」
ブラウン少年も、クァイ・クァンタも、シンシャまでもが、口を揃えて、引きながら呆れていた。
動き出したパーク。しかし、その中の大部分は静まりかえっていた。
閉ざされた出入口付近で、騒いでいた者たちは悉く、気を失うどころか、生気を失ったかのように、項垂れていた。
蓋は外れたのだ。吸い込み口は大きく開き、彼らの生気も精気もすっかり奪われてしまっていた。
宙へ浮かび、垣間見える、城。
その城中に、意識の残っている者は皆無であった。須らく、倒れている。それだけに留まらず、半分透けているように、存在が消え掛かっている者たちも数多。
そして――遺跡の地下。
「……。気配が……」
土臭く、埃臭く、薄暗く、冷え切った石板の敷き詰められた地面にて目を覚ました少年は、そう、ぼそりと呟いて、その顔色は、青くなる。
ただの自身の疲労であってくれ、と祈るように――
指先には、暖かな光が無慈悲にも宿った。
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――」
慟哭のような叫びが、反響する。
あの黄金色の少年もおらず、降りてくる前にいた共連れたちもおらず。
それでも、塞ぎ込んで、座り込む、なんてことはしない。
まだ、本当に手遅れか、終わってしまったかどうかは――、定まってなんていないのだから。
光を纏い、弾丸のように、跳び上がった。




