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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第五節 奇運奇縁の帳 二日目 神子の戯式

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 変転変換 境界消滅 (内)

「てめぇら。どこの誰かは知らねぇが、動けねぇなら離れとけ!」


 ゲリィのその呼びかけに、ブラウン少年が先に反応する。


「っ! 大丈夫です! いけます!」


 そう、彼女からすっと抜き出て、構える。僅かにふらつくが、しっかりと立った。


「……。私もいけます! どなたか知りませんが、助太刀感謝します!」


 力強く構えた。オーラが、紅色に、砂すら燃やすように、迸った。


「本当に大丈夫かぁ? 魔力酔いしてんじゃ…―」


 ゴォン、バキィンンンンン!


「待てよ少しくらい」


 縫い合わされたような口が裂け開いて、剥きだされた牙が――砕け折れていた。黒い岩に食らいついていたのだから。音も影もなく、突如現れたようなその岩に。


「ほら、待て。待てっ!」


 ゥオン、ゴォオンン! ゴビキィイイイイ!


 宙にもわん、と、一つ、二つ。怪鳥の頭に、黒い岩が落ちた。


「グィイイ、ガゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――」


 擦り切れるような金切り声。


 四人は思わず、耳を塞いだ。


 しかし。四人のうちの一人だけ、ゲリィだけは、棒立ちではなかった。


「ぴぃぴぃ騒ぐなぁぁ、うっせぇなぁ!」


 フゥ、ボォブチャァアアアアアアア!


 振り放たれた拳は、黒い岩に覆われており、怪鳥の口の牙の右側の大半を砕き抜いていた。


 怪鳥の喉が、膨ら…―


「伏せぇぇぇぇぇぇ!」


 びゅ、パァァァンンンン!


 ビンタにように放たれた、黒い岩に覆われた手の横薙ぎ一発で、破裂した。


「伏せぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいっ!」


 ボコォオオンンンン! ミキミキミキッ! ベキッ、バキィィ!


 容赦なく、頭、上から、地面に叩きつけるように、黒い岩に覆われた拳が、怪鳥の頭に振り下ろされた。






「てめぇら、平気か? 気付け薬くらい持っとけよ。これだから純魔法使いって奴らはよぉ。 お? 男の方はそうだが、女の方は違うか。がはは。まさか、お…―むぐぅ!」


「ゲッスぅぅいいいい~。だぁっ~さぁぁぁ~~い。折~角、珍しく恰好よかったのにぃ~。それ口にしちゃったらぁ、いっつも通りの、ただのくっさい、汚い、おっさんだよ~?」


「けっ。俺だって言いたかねぇよ。だがなぁ、このざまじゃあ言いたかなるよ。浮かれて死んでちゃ、訳ないぜ? ってな。俺らいなかったら、こいつら、訳も分からねぇまま、死んでたぜ?」


「仕方ないんじゃぁない? 時魔法の崩壊波をまともに浴びちゃったみたいだし。すぐ立てただけでも、やる方じゃあない?」


「あのぉ……」


 ブラウン少年が、バツ悪そうに間に割って入る。


「ん?」


「あれ……」


 ブラウン少年が指を指す。音も立てず、砂埃を立て、そこでぐわんぐわん目を回している怪鳥と自分たちを置いて、パークが、離れていっているのだった。


「捨ておいておけや。どうでもいいだろうが、そんなもんんんん!」


「「「えぇぇ……」」」


 ブラウン少年も、クァイ・クァンタも、シンシャまでもが、口を揃えて、引きながら呆れていた。







 動き出したパーク。しかし、その中の大部分は静まりかえっていた。


 閉ざされた出入口付近で、騒いでいた者たちは悉く、気を失うどころか、生気を失ったかのように、項垂れていた。


 ()は外れたのだ。吸い込み口は大きく開き、彼らの生気も精気もすっかり奪われてしまっていた。


 宙へ浮かび、垣間見える、城。


 その城中に、意識の残っている者は皆無であった。須らく、倒れている。それだけに留まらず、半分透けているように、存在が消え掛かっている者たちも数多。


 そして――遺跡の地下。


「……。気配が……」


 土臭く、埃臭く、薄暗く、冷え切った石板の敷き詰められた地面にて目を覚ました少年は、そう、ぼそりと呟いて、その顔色は、青くなる。


 ただの自身の疲労であってくれ、と祈るように――


 指先には、暖かな光が無慈悲にも宿った。


「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――」


 慟哭のような叫びが、反響する。


 あの黄金色の少年もおらず、降りてくる前にいた共連れたちもおらず。


 それでも、塞ぎ込んで、座り込む、なんてことはしない。


 まだ、本当に手遅れか、終わってしまったかどうかは――、定まってなんていないのだから。


 光を纏い、弾丸のように、跳び上がった。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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