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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第五節 奇運奇縁の帳 二日目 神子の戯式

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 承来 闖入者たち Ⅴ

 ぺたっ。ぺたぺた。ぺたぺたぺた。ブッ!


 銀色の手甲は、それに、べたり、べたり、と痕跡をつけた。


 半流体。ゲル状のそれの表面から、痕跡は消えてゆく。


 高い太陽。青い空。だというのに――厚くも、薄く黄金色で、透けている。聳える、天幕のような、何処までも続く、壁。空間を、こちら側と向こう側に二分するかのように。


 向こう側、つまりその壁の内側は、荒れ果てており、今も――破壊の波が押し寄せてきた。僅かに壁を内側から揺らがせて、その波は消えた。


 つまり、青空と、ただの荒野と破壊され尽くした大地が広がっているだけだ。それと時折押し寄せてくる波、以外。波の発生源も、一切の構造物も見当たらない。


 だというのに、


「此処だ……! 間違いあるまい! 奴の領域……! 追いついたぁぁぁ……! 漸く、漸くぅぅぅぅぅぅ、辿りぃぃ着いたぁぁぁぁ……」


 その存在は、何やら確信しているようだった。煤けて、灼けた声だった。


 煤粉が、ヘルムの丸穴から噴き出し、漂う。その背後から、


「団長殿。御命令を」


 若さと熱さを感じさせる声。


 丸穴ヘルムのその存在は、


「そうさな……」


 ガシャン。


 踵を翻して、振り返った。


 丸穴ヘルムの全身金属鎧の、団長と呼ばれる存在は、とかく、巨躯であった。2メートルを超えている。巨人という程ではない。その身は、そうやせ細ってもいなさそうだが、太ましくもない。全身鎧は磨き上げられているようで、目立つ傷や凹みもなく、光沢を輝かせている。


 向かい合う形となった、バケツヘルムのずんぐりむっくりした金属鎧の存在が、若さと熱さを感じさせる声の持ち主であるようだ。太ましくはない。ヘルムがやたらめったらに大きいのだ。とはいっても。声の調子からしても、中身はそう詰まってはおるまい。中肉中背といった、並の背丈と体格であるようだ。


 バケツヘルムの存在は、膝を立てて、首を垂れた。すると、その存在によって隠れていた光景がはっきりと露わになる。


 団長と呼ばれる存在は、広がる光景に向かって、


「貴君らも又、残された時は欠片程であった。我もそうだ。……。我々は奇蹟を簒奪しに来たのだったな……」


 語りかけた。煤が吹き荒れ、団長と呼ばれる存在の向く先、地平線へと続く、銀色の軍勢の縦列をなぞるように、その声は、飛んでゆく。


 きっと。果てなく届くのだろう。消えて、見えなくなるまで。


 地平線へと届いて、更なる先へ。長く。長く。長く。この場への行軍を進めている、重装の兵士達の果てにまで。一体どれだけいるのか。数百、数千ではきくまい。


「奇蹟はこの先に在るぅぅぅぅっ!」


「御命令を! ハカランダ騎士団長殿ぉぉおおおおっっっっ!」


 膝をつけ、首を垂れ、命令を待つ、バケツヘルムのずんぐりむっくりした金属鎧の、若さと熱さを感じさせる声。バケツヘルムの存在は副官や側近であるらしい。


「貴様だけには留まらぬ。全員だ。全員! 全員、侵せぇぇ! 壁を破り! 踏み入るのだぁぁ! 奴の世界へとぉぉぉ! 我らが先は、この不可能の壁の先にしか、無いぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 地鳴りのような轟く、呼応の声が波のように。押し寄せて、押し寄せて、押し寄せて、壁がぷるぷると揺れる。


「サリオンンンンンンンンンンンッッッッッ! 足場を喚べぇぇ! 貴君ら! 進めぇぇぇぇっっっ! 我らがサリオン副団長の段々の足場に上り、壁に対峙するのだぁぁ! そして、構えよぉおおおおお!貴君らの整列が終わったその時が、我らが侵攻の始まりの時だぁああああああああ! 壁を越え、奇蹟を我らが手にぃぃいいいいいいいいいいいいい!」


 地鳴りのような轟く、呼応の声が多重に押し寄せ、壁も地面も、空気までもが轟いた。







 金属の擦れる音と、土を踏みしめる衝撃音。続く続く続く行軍。始まる始まる始まる展開。下から。横へ横へ横へ、上へ、横へ、横へ、横へ――


 団長と呼ばれる存在に近づいていた兵士たちは、壁に沿って、ひたすら、横へと展開してゆく。


 刀であったり。槍であったり。斧であったり。槌であったり。長弓であったり。クロスボウであったり。彼らは、全身金属鎧であるということ以外に共通点は無い。鎧に覆われた尾であったり、明らかに純人種以外も混じっている。四足である者すらいる。


 配置についた者たちは、ただ、無言で、武器を構え、待つ。きっと、一時間でも二時間でも、彼らは集中を途切れさせることなく、そうしているだろう。


 そう思わせるだけの圧がある。誰も彼もが鎧で覆われているにも関わらす。そんな圧が、色濃く漂っている。


 数多の意思が、一つに統一され、意識だけではなく、配置につくという形で、彼らの身体までもが、一つの場に集まってくる。


 それは、一つの群体であるかのように。


 きっと、時が来たとき、たった一つの号令だけで、彼らは一斉に、全力で、壁を破るための攻撃を始めるのだろう。一心不乱に。


 半透明な黄金色の壁が、並ぶ金属鎧の者たちによって、底から、どんどんと、僅かに金属の灰色へと、染まり始めていた。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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