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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第五節 奇運奇縁の帳 二日目 神子の戯式

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 承来 闖入者たち Ⅰ

 仄暗く、温かく、湿気ている。


 暖かな熱に、満たされている。


 森の――匂いがする。


 地下。


 アーチのような、枝分かれした無数の巨大な根。その上を、時折、脈動するかのように――緑と黄の光が走査するかのように、何処からともなく迸り、消えてゆく。完全なる暗闇ではなく、仄暗いという程度であるのは、そのお陰であるようだ。


 平らに広がる、湿気と熱を含んだ肥沃な黒い土。


 兎角――広い。パークの地上部の総体積と大差ないかもしれない。


 違うのは、ただひたすらに、だだっ広い。遮る物も、空間を占有する物も何もない。だから、見掛けよりは恐らくは狭い。少なくとも、地上部よりも一回りは小さい、というのが実情だろうか?


 その中心に、何かが、いる。


 横たわっている。


 丸くなって。


 膝を抱えて、眠るかのように。


 それは、ヒトの幼体の形をしていた。


 とても、眠たそうにしているのか、眠っているのか。目は閉じている。


 音もなく、穏やかに。大きく、息をしている。


 その肌艶は、柔らかさはなかった。けれども、湿気ている。赤みを帯びた茶色がまだらに。


 木人形。否。木彫り。表面をなだらかに均された。


 体を覆い隠す物は何も無い。


 それでも問題ない。それに性別などあるのか定かではないのだから。


 関節も折れ目も繋ぎ目も見当たらない。


 体毛はない。目も鼻も口も、きっと、窪みだけだろう。


 故に、彫刻。人形の彫刻。目も歯もきっと、埋め込まれてなんていない。そんな形の窪みや突起が、彫られているのか。痕跡のように残っているのか。


 そういう風に創られたというよりは、そういう風に加工された、という風に見える。


 それは、深く息をして、脈動している。そんなであるのに、胸部の膨張と収縮が確かに見られるのだから。故に。呼吸。


 ふと、それの傍から数歩の距離離れて。空間が――歪んだ。


 そのような現象。決まっている。何かが現れたのだ。それのためだけの、それだけしかいない空間、揺り籠のようなそこへ。







 呼び寄せられたのか。侵入されたのか。


 どちらでもないかもしれない。どちらでもあるかもしれない。


 どうでもよいことだ。気にすべきは―― 彼らの姿勢である。


 彼ら。つまり――一人だけではない。


「うへぇぇ、やっと同類見つけたと思ったのに、ガキじゃぁんん……」


 歪んだ声。歪んでぼやけにぼやけた輪郭。正体不明。


 どうやら憐れむ必要は無いらしい。どうやら、巻き込まれではなく、意図を持っての侵入の気が強いようである。


 同類、とは? それだけでは何も分からない。それに所詮、自称に過ぎない。いや、だが。ガキ、と決めて掛かっている。自称という冠詞は取っ払ってもよいかもしれない。


 なら、次に。何を、しにきたのか、である。


「なればこそ、我らが保護せねばなるまい……。これ程の力だ……」


 同じように、歪んだ声。歪んでぼやけにぼやけた輪郭。正体不明。口調の違いでしか区別がつきそうにない。尤も、それらの人格はそう似通ってはいなさそうではある。


 強引に突破してきた風にもとれるような言いよう。


 空間の歪みは残っている。


 それら現れた二つの存在に色濃く纏わりついている。色濃く? それだけ強く。彼らの周りだけが歪んでいるのだ。


 現れたのはたった二人、か? 否。そう数えるべきではないだろう。単位が違う。


「そんながっかりして言うセリフじゃなくない?」


 新たに。歪みが増えた。相も変わらず。口調だけがはっきり違う。


 これで三柱。


 最初からいた、唯一歪みを纏っていないそれを合わせて。これで四柱。


「――で、僕を入れて。これで五柱。よくもまあ、こんな場所にこれだけ神属が集まったものだよね」


 どこからともなく、前触れもなく。毛並みの良い、高く、無邪気な幼い男の子の声。真っすぐでおかっぱな黄金色の髪が神々しく光輝を放ち、


「「「何奴!」」」


 歪みを纏った三柱が、声を揃えて反応した。


 中央の、ヒトの幼体程度の大きさのそれは、眠っているのか。沈黙しているのか。ただ、息の早さすら、最初から変わっていない。


 それはきっと、まだ動かない。遥か頭上の数多のアーチ状の巨大な根を走査するかのような光の迸りの変わらなさがそれを保証しているかのよう。


「ご機嫌よう。龍華龍樹のお三方」


 左手を胸に当てながら、右手を背に回しての。美しいお辞儀。


 まるで全て知っているかのよう。だって、記憶は全て――持ってきているからね。


「「「問いに応えよ!」」」


「酷いねぇ。こんな幼な子に威を振るうだなんて」


 生まれたては生まれたてだけど――


「貴様に言っておるのだ!」


 あっ、そっ。


「こちとら、語る名すら未だ無い、生まれたての赤子だよ。その子よりもずっと幼いというのに」


 生まれ直した、と冠詞が付くけどね。面倒そうだから教えてやらない。


「何を言うかと思えば。見るからに再臨経験者じゃあないの、貴方」


 ……。ふぅん。


「まぁ、いいじゃん。結界緩ませて俺らを招待してくれたのぉ、多分こいつだろうし」


 演技臭いね。狙いは、何、かな?

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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