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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 継承 根城を薪に換えてでも Ⅵ

 開けた場所。


 立方体にくり抜かれた空間。


 大きな魔法陣。残存魔力が色濃く残る。残存、というには残りすぎている。注入済魔力というべきか。魔法陣の規模からして、凡そ、発動が為の6割、といったところか。


 そんなことよりも――


 コツッ、コツッ、コツッ、にぃぃ。


「遅かったねぇ」


 毛並みの良い、高く、無邪気な幼い男の子の声。真っすぐでおかっぱな黄金色の髪。そのにやつき顔は、無邪気さとは程遠く。


 悪く、悪く、悪く――目論む者の顔をしていた。


 あり得る――とは思っていた。


 それでも――こうやって出てこられれば、抑えきれる筈もなし。


「貴様ぁああああああああ!」


 少年は一切の躊躇なく、斬りかかった。


 今回の事件。糸を引く者。


 私と彼女を何やらの鍵として利用するだけ、で終始する話ではなかった、ということだ。


 斬撃の余波が、すり下ろされるような音と共に、散らされてゆく。


 歪み。


 空間への作用。


 剣を振るう手ごと、巻き取られるかのように捩じり引き込まれるのを、剣と鎧を消して回避しつつ、全身から炸裂させるように放った光の魔力の爆発で、強引に、脱出と、距離稼ぎを同時に為し、息を置く間もなく、後ろを、上を向くことなく、響かせるように叫んだ。


「来るなぁああああああああああああああ!」


「お節介焼くねぇ……。意味ないけどさ。彼らはもう煙に巻かれた後だし。にしても……、痛いなぁ……。攻撃性能も無い、ただの音なのに」


 耳がきぃぃんとなったらしい。人外らしくなく。黒幕らしくなく。


「じゃあ、こういうのを、攻撃的な音とでも言うのか?」


【雷鳴剣】


 ここは地下。外からは呼べない。故に。自身から発生させた分でだけの。それでも。過剰な程に強力である。


「殺意の音がするねぇ。ほうら。ガキがよく言うやつだよ。殺す、ってやつ。本人は真剣なのに、周りから見たら、お可愛いことで、と鼻で笑われるやつ」


「ほざけ」


 初撃よりも遥かに速い、瞬く間すらない程の斬撃は、薄皮一枚。結界でも。オーラでもない。ツゥゥ、と割いて、薄く血が幕のように流れて、すぐ止まっただけ。


 起こりえる筈の、電撃、血肉に触れて急沸させてやるかのような、爆発に似て非なる破壊。黒焦げの結末。そのぞどれもが、形にならない。


 それ以上食い下がることなく、剣を引き、素早く数歩分の距離をとった。


「見掛け倒しだね。自然の雷をもっと巧く使うことだね。空の下じゃないと使えないなんて、片手落ちどころじゃあないよ? 動揺すらしないのは評価できるけどね。無駄な追撃しようとしないのもね。でも、ご自慢の勘は死んでいるね。無理もない。ほら」


 フオッ!


 空を切った平手打ち。


 当たりもしない距離があり、魔法での延伸や不可視の本命の攻撃の牙なんて無かった筈なのに――腹が、裂けそうなほど、痛い……!


 思わず、一瞬目線を切ってしまった。


 切れていない。裂けていない。遠当ての類の打撃でもない。血がにじんでもいない。赤く腫れてすらいないだろう。これはきっと、幻痛……。


 顎……が……。


 世界が……歪んだ……。


「ご……ぐ……」


 下から突き上げるような、掌底。


 舌も噛んで……。揺れる揺れる揺れる世界。歪む視界。


 もう……碌に見えない。ぐにゃぐにゃだ……。


 立って、すら。いられない……。


【ライト・ニードル】


 今できる、最後の一手。


 完全な不意打ちの筈だった。目での直視を経ない、指先での放出挙動を挟まない、体のどこからでも、単発でしかできないが、放てるようにした虎の子。


 が……。砕ける音も、貫く音もない。


 避けられたか。消されたか。


 ……。


 こいつは、敵であって……。敵でない……。


 正しく……黒……幕……。


「十分だろう? (ソレ)だけで。生まれ落ちる際も。知っているかい? 水際の際も。最初にできて。最後に閉じる。(ソレ)はそういうものなんだよ」







「君は眠る」


「彼らは到達できない」


「だから、安心して。ゆっくり眠るといい」


「気づいていないんだろう? とうとう、日を跨いだよ。ただですら一日の長いここで。眠ることもなく」


「結界の内と外。ずれるものだよ。時間なんて」


「結界の内の結界。なら、どれだけずれるかなぁ?」


「次に目を覚ましたら――君だけかなぁ? 君の愛しのあの子は存在しているかなぁ?」


「よし。反応する余力ももう無いね。それでも、耳は塞がらない。生半可に強いからそうなるんだよ。力あるなら、ちゃんと突き抜けないといけないよ? いつだって」


「まあ、御察しの通り、僕も黒幕ではあるよ。も? も、は、も、だよ。ここまでしたのも、僕のせいじゃあない。あの子のせいさ。あの子? あの子といえばあの子だよ? 一人かもしれないねぇ。複数いるかもしれないねぇ。ま、君次第さ」


「まあしかし、悪いとも思っているよ。塩一つまみくらい。しょっぱく。申し訳なく。だからこうやって、テコ入れしてあげるのさ」


「君も分かって、甘えただろう?」


「そんな君であるのに。時間感覚の狂いにも。この檻の法則も。気づけないなんてあり得るのかい? 自分という最も使い慣れた物を、君程の者が持てあますなんてあり得るのかい? 元より、精神の類への干渉には滅法強い君がさ。そんなで、何とかできるのかい? 怖い子だよ。あの子は」


「そろ……ろ……ね。臨……体……に……な……。……ふ、お…………み…―」

第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目 FINISH


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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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