デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 継承 根城を薪に換えてでも Ⅴ
当然の如く。
塞いで終わり、という訳ではなかった。
分岐が増えている。ダミー。行き止まり。時間稼ぎ。そのつもりなのだろう。
妖精である彼女が、分岐で少々立ち止まることが増えた。
現に、進行速度はだいぶ落ちてきている。
後ろの彼らの、抑えて話し合う声がそれなりの頻度で聞こえてくるくらいに。
ずっと、ではない。なぜ途切れるのかというと――
「流石のライトさんでも、疲れが見えてきますか」
「いなすことに苦は無いが、幾分数が多い。殴り負けて腕が痛い訳ではないのだ。それどころか、空気を殴りつけているかの如く、拳を繰り出す動作そのものに疲労させられている。こういう疲れ方するほど柔ではない筈なのだが……。何なのだろうな……」
「ずっと動きっ放しですし。ライトさんは露払い一手に引き受けてくれているのもあるでしょうし。どうしたって、疲れますよ。こんな時間感覚狂わされた空間で。それに、わたしたちを助けてくれる前もずっと戦っていらっしゃったんでしょう?」
「……。柄にもなく、配分を間違えてしまったのかもしれんな……」
(時間感覚……? ずれて、いるのか……? だが。空はそう少なくない間隙から見えていて、昼のまま……。あぁ……。結界。球体面。膜。偽装。……。この、感覚のぶれの原因……、それ、なのか……?)
「柄にもなく? 後先考えず、あんなバカスカ強大な魔法ぶっ放しててか!? あぁ、エアリアス。そろそろ替わる。あいつらもだいぶ落ち着いてきたし、僕もだいぶ。魔力の調子、落ち着いてきたから」
そう言ってしゃしゃり出てきて、あの細長い男が、妖精と役割を替わった。
「そっちじゃあない! あっちだ。あっち!」
口うるさい……。
「違う、そこじゃあない! 僕らはそんな危なげなところなんて通ってない! そこの道。砂礫で詰まった行き止まりだ。その先。がっちり煉瓦で覆われている! 道を隠したように見せて、その実行き止まり。砂礫の先の煉瓦! 明らかに他より新しい! 君も凝視すれば分かるだろう?」
そんなの分かるか……。
私はお前たちのように、奴との迷路遊びなんて碌にやってないのだから……。
「土の量は他より少ない。自然に流れついた流量。だからここだ!」
これで、彼女の誘導の時よりも歩みが遅くなっていたなら、流石に私も抗議しただろうが……。
「右! あっ! 今また壁が降りた。ほら、あそこだあそこ! ちょっと高いぞ。砕いて! そう。そこだ! そっちが順路だ。通路そのものをずらすまでするとはねぇ」
私が気づくよりも、明らかに一拍子以上早い。
微妙に先回りするような指示のお蔭で、足を止めずにいられるが、流石に少々腹も立つ。
ドゴォオンン!
拳を振り抜いて、もう、先導役が事前の警告もしてくれなくなった、敵の伏せられていた端末を、先導役が一歩退くよりも前に察知して、捕捉、打ち砕きながら、先へと進んでいっていた。
凝視してやったからか、この細長い男の品も自然と割れた。
(おっと! 今度の伏兵はハリボテでは無さそうだ)
「しかし、便利なものだな。風の流れを読んでいるのか? 【ライトニードル】」
待ち構えるように置かれていた、罠。枝による、通路、上下左右からの刺突が成立しそうになったのを、器用に曲げて角度を作った右手五本の指先から放ったそれで、根本から潰してやって、不発にしてやった。
こいつ。驚きも。びびりも。感謝も。しないか。
お前ならできて当然だろう、といった風。
後方の彼女らはまた、一際声を抑えて。密談か?
「空気の濃淡を見ているのさ。あれだけ図体が大きいんだ。沢山必要なのさ。空気が。地表から吸える分だけじゃあ足りない足りない。隠そうとしたらそれはそれで。奴が勝手に困るだけ」
「この手の輩の対処の経験が?」
「あるよ」
男はそっけなく答える。自信ありげでも、虚栄染みてもなく、卑屈さもなく。
(なんでお前、そんなで、私と遭遇したとき、取り乱していたんだよ……)
「こんな大物じゃあなかったですが。あ。止まってください。ここです。この穴の先です。落ちてください。深いですので、念の為、ライトさんは鎧の全身展開をお願いします」
シュインッ、としゃしゃり出てきた。あの妖精の彼女が。
目の前。穴だ。大穴。
これより先。完全に途切れている。横になって、両手両足をのばしても、穴の端から端まで手が届かないほどの大穴だ。穴の向こう側には、途切れた通路が見える。
まったく、察知できなかったぞ? 言われて初めて、認識できた。
隠し、誤魔化しをするのは、何も敵だけではないのだ。
「ああ。では、先に降りるぞ。問題が無ければ光で合図を送る。それでいいか? それと君ら。そう怯えてくれるなよ。私は敵か? 違うだろう?」
細長い男も、彼女も。遅れてではあるが、他のローブを深くかぶった者たちもこくんと頷いたので、少年は、鎧だけではなくて、剣も喚び、大穴の先へと消えていった。




