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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第一章 第二節 魔法の始まる地

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始まりの園 辺境 逆巻く彼方の陽影の城 Ⅴ

 少年の後ろに仁王立ちし、男は、オレンジ掛かった電球色の光を放っている。


「どうだ? よぉく見えるだろう?」


「……。下水道、ですね……。それも、思っていたより、随分ずいぶん、広い……。こんなところ、私に前を歩かせてどうするつもりだったんですか……。迷子になるの目に見えてるではないですか……」


「そのときは適当に上へ進めばいいのさ。ここはさっきまでいたところの地下だからな」


 そう言われ、よぉく見てみると、確かに、周囲の壁や地面の露出している部分には確かに色がついている。光の色が重なって地色が分かりにくいが、つぃかにそれは、地上と同じような、黒を基調に、白を部分的に散発的に含んだ、闇色の煉瓦レンガで作られていた。


 真っすぐ立っているが、天井まで手をのばしても届かないくらい高い。おおよそ正方形形をした、比較的ひ開けた場所であるここの広さは、壁面に沿って歩いたなら端から端まで行くのに数十秒は掛かる程度の広さ。


 そして、四方の壁に、たくさんの通路の入口が大きく口をあけている。迷路のように入り組んでいること間違いないだろう。


「まあ、そう言うのなら。……。離れないでくださいね……。冗談でもやめてください……」


 と少年は疲れ気味に男に言うと、のそのそと前へ向けて歩き出した。





 ペチャッペチャッペチャッペチャッ

 ペチャッペチャッペチャッペチャッ


「鼻は慣れてきたんですが、これ……本当に大丈夫なんですか……?」


「何がだ?」


「わざわざ入り組ませてるってことは、この場所の構造には意図があるってことじゃあないですか」


「気にし過ぎだ」


「それはないでしょう……。貴方が言う、上へ続く道なんて、もうだいぶ歩いてますが、いっこも見当たらないんですが……」


「あぁ。()()()()()()()()()()()()()


「そんなだから、わなでも何か仕掛けられてるんじゃないかって、思わざるを得ないのですよ……。例えば、においだけじゃあない有毒なガスだったり、色もにおいも無い遅効性の麻痺まひガスだったり」


「唯の下水道だぞ? 管理者の意思は働いているが、それはとって殺そうという類のもんじゃあ無い。通す相手、通さない相手を選ぶってだけだ」


「あの塔の黒騎士くろきしみたいな、ですか?」


「そういうんじゃ無い。ここはそいつの住居兼仕事場、ってだけのことだ」


「……?」


「俺らが会いに行こうとしてるのはそいつ。こんなとこに住んでるのは、変わり者とかじゃあなくて、そいつの仕事の関係上、作業場として問題ない場所はここしか無かったってことだ。ま、心配すんなって。しっかりした奴だ。ヘマする奴でもないし、意地悪でもない。杓子定規しゃくしじょうぎな真面目な奴だ。だから、悪意を持ってここに来た訳でもない俺らが被害に遭うなんてことはまず無ぇ。……。汚れにはむちょん着なんだよ奴は……。こんなとこに長年住んでるから……」






 てきとーに右へ左へ。ぐるぐるしようが、堂々巡るにならないようにだが、むやみやたらに進もうが、男は何も少年に口出しすることなく、不安になった少年が時折足を止めるたびに、後ろからつっついて進むように催促することを繰り返してやがて――


「着いたな」


 目の前には、通路の進行方向の面一杯一杯な大きさの、圧迫的な見掛けの、赤黒い塗装の、重々しそうな四角い金属扉きんぞくとびらが見える。取っ手は無く、二枚扉にまいとびらでもない。それでもそれがとびら、と判断したのは、


「……。私に前歩かせたのってもしかして……」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 とびらに刻まれている文字を見ながら、男の口角は上がり、少年の口角は下がる。


【君の力が見たい。どうだろうか? そこにある剣で、このとびらを切り開いてはくれまいだろうか? ↓】


 降ろした目線の先。ヘドロに塗れた、汚れていて触りたくない以外何の変哲も無いロングソードが。


「俺んときと扉自体とびらじたいは同じモノだが、こりゃあひどいな」


 少年は観念するようにめ息を吐いて、左手でそれを手に取り、握り、持ち上げる。怒りがこもっているのか、取っ手からきしむような音が鳴る。


 そして、


莫迦ばからしい……。こんな()()()()、試金石にもならない……」


 撫で切り未満。踏み込みすら無い。腰を全く入れていない。ただ、右上から左斜めへ、ゆっくりと、振り下ろしただけ。


 そして、右足をあげ、押すように、扉下方とびらかほうり抜いた。


 ゴォォオォオンンンンンゥウウウウウウウ――ガランッ、ガランガラン!


「何ポカンとしてるんですか? 師匠。こんなの見りゃ分かるでしょう? られている文字と、めくれた金属屑きんぞくくずから明らかでしょう?」


 と、少年は、訳がわからない、という顔をしている男を置いて、白い光が漏れてくる、三角に右側丸々欠損したとびらの先へと進んでいったのだった、

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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