デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 継承 根城を薪に換えてでも Ⅱ
ゴォオンンン!
当たってすらいないし、跳躍によって地面にも接していないというのに――芯に響くように――
遺跡の。煉瓦の地面にめりこんだそれの巨躯。それのフットスタンプ。
反動で砕けた石々が跳ねる、なんてことすらなく、衝撃によって、砕け散っていた。
見掛けによらず、器用な駒であるらしい。
衝撃を散らさず、伝えきる。そんなもの、どこからどう考えたって、技術だろうが!
だが。燃料は垂れ流し。
すかさず剣を喚び、すぐさま消そうとしたが、本当にぐにゃんとしていた。熱で溶けて柔らかくなったかのような。
だから。消すのをやめて、無理やり振った。なんかぐにゃんとしていたが楕円軌道の斬撃で、表面から削ぎ取るように。敵の魔力リソースを頂戴し、なんか、若干しゃきんとした剣を一瞬確認して、すぐ消した。
「ふぅ……」
(にしても……。これは、不味いな。今のお零れで、僅かに私の身にも魔力は戻ったが……。下の。中の。気配が、離散を始めている。何の為に、ここで時間を割いたかが分からなくなるぞ……? 流石に、これだけリソースを注がれた駒を、虎の子を使わず一瞬でやるのは無理だが、敵本体への道が拓けた今、ますます、ここで使う訳にはいかなくなった)
高く、跳ねた。
鳥の飛翔のようなそれと視力によるごり押しによって、周辺状況を伺った。
燃え盛る巨木人の、降り降ろされてきた拳に、身を翻すように乗って。
(向かってきているような気配は、ある……。だが、それらは、敵の薪の継ぎ足しと混ざり、区別がつかん……。 目視する限りでは、いない……。地表には。それらしき者が……。あちこちであがっている。砂煙が。のろし、ではない。音は聞こえてこない。絶叫であったり、協力しあったりといった声が一切。だというのに、砂煙。倒壊。破壊。その音も聞こえてこない。散発的に。単独で。反抗することを決めて動き始めた者たちが、漸く現れたというのは僥倖ではあるのだが……)
駆け上がって。
頭を――
剣を喚んで、瞬断! 返す剣の腹に、蹴りを押しつけて、断絶した頭部を、ぶっ飛ばした!
遠く離れて見えなくなるよりも。遥か遠くの、樹木の檻にぶつかるまでもなく。
ほどけるように、塵となる。
渦巻き、細く、鋭く――蔦の鞭! 発火、するわな! 当然!
ぐわん、ぐるん!
避ける避ける。翻る。揺蕩う。
宙を。
(かえって私個人としてはやりやすくなっているというのは皮肉だな。意思ありきなら。読みが効く。加えて。薄っぺらくて単調。時間制限もあり。最初の最初から、このような駒が大量発生していたら話は別だった。絶望感も侵攻感も物凄かっただろうし、まともにやりあう選択肢はまず無かった)
そうやって、立体駆動な滑空と回避、足場として敵の体を駆使しての反撃とリソースの切り崩し。
そんな最中の、周囲の観察の間にも、抵抗の気配の数が、減り始めている。
何てことはない。
やられた、ということだ。
今私がやりやっているのとは同系統かどうかまでは分からないが、反抗の場とできるということは、そこには敵がいるということ。つまり、各所に敵戦力が差し向けられているのは間違いなくなった。
それが。今になってなのか。伏兵が出現したのか。檻や見張りとしてから、牙を振るう敵兵へと転換したのか。
あまりに軽率だった。
弱い。あまりに弱い。
仮にも魔法使いなのだろう? お前たちも?
学園の同年代よりすら、明らかに数段劣っている。
このざまでは、その辺の騎士、十把一絡げしたのよりも質が低いぞ……? 魔法使いというのなら、最低限、どこの世界、どこの国であろうとも、兵としての。駒としての。訓練くらい受けているだろう?
(……。 『てめぇを基準に考えるな! お前以外誰も立っていないぞ?』 ……。耳が痛いな。その欠点は既に克服した筈だったのに……)
考えれば考えるほど、後手に回ってることが分かるし、ドツボに嵌っていることを自覚してしまう。
普通の魔法使いが単独で相手できる上限を、この巨人は軽く超えている……のではないか、そもそも。というか、人の身よりも大きな、迫りきて急襲してくる根どころか、無軌道に咲き乱れるかのように斬撃と束縛を行ってくる枝々の時点で……無理じゃあない、か?
学園と比べ、小粒も小粒なのが大半。どうしようもないだろう。即席で数組で組めたとて、無理。それができるなら、もう少し、抵抗も拮抗も、そこらで発生していた筈だ。
(……。仕方があるまい。考え方を変えるとしよう。巻き込むか。下の、足取りの鈍い奴らを。鈍い。されと、止まっていない。ならばこそ)
剣を、喚ぶ。
「気張れよ! 瞬狼ぉおおおおおおおおおおお!」
わざわざ、事前通告として、声をあげて。
軋み、ひしゃげる、握り。
地へ向けて。貫くような、刺突! 地面に当たる寸前でぴたりと止めて、消す。
ォォンンンン!
空気の吹き流れる音だけが、残響のように薄く小さく、響いた。
やったのは、遠当て。ただの一撃。しかし、その威力も、焦点の広さも、並ではなかった。
点でも線でもなく、軌跡。一点の筈の刺突点は、消滅の軌跡と成ったのである。
消滅の軌跡。つまり、孔である。巨躯な少年が、そのまま、引っかからず落下していけるだけの径の。
下へと直通する、孔。




