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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 承 根の根城 Ⅲ

 無尽蔵な体力を活かし、敵の力の中心から離れつつ、敵の巨大が過ぎる掌から脱出しようと、時折魔法の剣を一瞬だけ出して斬撃かまして、再度消すだけの、足を止めない戦闘を続け、順調だった少年はふと気づいた。


 敵の攻め手が弱まって、気付けばやけに段差が多い。


 そうして――樹海の覆いが引き、フィールドが姿を現す。


 その光景は、学園の、城壁の残骸がある草原のフィールドを思い出させる。


 あれほど単純ではないが。


 高低差も、地形としての複雑さもこちらの方が上だ。


 草地は存在していないが。


 ひたすらに階段だ。立体交差し、上に。下に。果ては見えず。ゴールも見えず。


 灰色の朽ち果てた煉瓦作りの、砦や城塞。又は、遺跡。といったところか。


 そんな場所の中央に、多分今いる。


(やられた……。 何れかのアトラクション……。これだけ原型が残っているなら、知っていれば、どれだけ……。どうしてパンフレットに目を通さなかったのだ……。彼女と楽しむことを何故優先した! 安全こそ、第一だろうがぁぁ……。何も起こらない、平穏な休日何ぞ、私の人生で、どれだけ、稀有か……)


 ある意味、追い込まれた、ということなのだろうか?


 だが、悪くはない。


 気配が、いくつか。息を殺すように、だが。


 一瞬だが。時折、より広く、遠望し、果てまで見渡すかのように、全容が見えるのだ。垣間見える、と言うのが正しいか。


 彼女の眼だ。彼女の力だ。彼女の行使するのとは異なる方向性で、私の身に残る彼女の残滓は、異なる景色を――異なる行使を――


「……。 くっ!」


 思考を思索を邪魔するかの如く、起こりの気配すら碌になく、肌感覚、感じ取った風圧、流れの変化。それでも、辛うじて。


 喚んだ剣で斬ろうとして、咄嗟に、角度を変え、後ろに跳びつつ、その腹を盾とし、凌いだ。


 結局、こうするのが、最も、次の一手を広く持てる。手を振るい落とした訳ではないからこそ、腰から二本目を引き抜ける上に、最初の一本は出し入れ自在。


 妨げる手段があるなら、とうに向こうがその択を採っていないのはおかしい。それどころか、試みてきてすらいないように思える。


 今はまだ手段が無い、だけか?


(げほっ……!)


 まともに入った。空中であるとはいえ。


 ここは、先ほどまでの場とは違う! 立体的な構造物。そんな場所故に、敵の攻撃の手は、多段的、立体的であることが、より容易く為せるのだ……!


 衝撃を感じると共に身を捩り、でき得る限り衝撃を散らしつつも、上手く受けきったというにはほど遠く、少年の身体は弾き飛ばされる。強烈に。


 それに――腹部に受けた、この弾力に、強度。枝、ではない。根、だ。


 こちらの胴体程の太さのある根の末端の一本による、これまでとは違う、確かな重さがあった。


 それでも、鎧を喚んでの軽減すら試みなかったのは、流石に瘦せ我慢が過ぎたか……?


 鎧を喚んで纏うと、どうしても、肌感覚が損なわれる。そして。表面積の増大という意味でも、単に、自身が相手にとって、的としてデカくなるに等しい訳で。


 相手は束縛と打撃といった取っ組みに重点を置いてあるだけに、猶更。


 吹き飛ばされながら、絞り出すように、放った。


【ライトニング・ボルト】


 そう。絞り出すように。


 一気に、全力疾走を限界まで続けたような疲労が、押し寄せてくる。


 これまでなら、ここまでやったら、流石に倒れていた。


 今の自身の限界は、見定めるにはあまりに不安定だ。


 彼女由来のモノが、この身に混ざり、上振れ、下振れ。全体としてみれば、間違いなく強化されたといえるが、出力も、余力も、体力気力も、安定しない。


 心の揺らぎもそのせいか? 敵のせいでもある。


 影響は図れない。


 上振れたせいなのか、自身の発した炸裂の光に、目が霞みつつも、ぐるりと宙で回転しながら少年は着地するが、倒れ伏さない。


 これでも、意識は途切れていない。妙に呼吸の具合の復帰も早い。体が若干ついていけていない? 体力、ではない。体の反応が安定しない。


 測れない。


 故に、ペースを維持できない。


 元来からの得意も得意な、ペースの配分。


 根幹が揺らいでいる。


 その癖、また、感覚は鋭く上振れていた。


(ここにきて、先ほどより、濃く? 気配……? 罠か……? 感知の上振れか、どっちなのだ……?)


 この場に存在するいくつかの気配の存在と、それらが揺らいだのを確かに感じたのだから。反応、という程でもない。気配だ。そこにある気配。それらが動いた訳でも、反応を示した訳でも無い。反応もできない程消耗しているか、隠密に徹していたか? 私という存在に何かしらの希望を抱いていたが、駄目そうだ、とがっくりときた、のか?


(寸前まで樹海の覆われていた場所に、流石に無事な者などいる筈があるまい……。やられていないだけだ。逃げられもせず。ただ、削れてゆく。順当に考えて、そう、なるだろう? が、仮にも魔法使い。上澄みが横絶えているのではなく、横たわっているのだというのならば――? 可能性は――ある。……。仕方……あるまい。試したことはないが、保つ、筈だ。保ってくれよ、私の気力! 貯蔵、頂くぞ、瞬狼)


 そう、念じながら、喚んだ剣を普段とは違い、強く――五分の力で握る。


 軋み、溢れ出す、魔力を、先ほど残る吸魔の記憶と回路を巡り、廻らせるかのように、掌越しに吸い上げながら、剣を消して。


 躊躇なく――放った。


【ライトニング・ボルト】

【ライトニング・ボルト】

【ライトニング・ボルト】

【ライトニング・ボルト】

【ライトニング・ボルト】


(強さを、誇示す! 必要なのだ! どうしても! 私自身が自信を図れなくなっている以上、必要なのだ! 手勢が、要る! そしてあとは、質が最低限を超えてくるかどうか)


 五連。激しい光の爆発。


 だというのに――吸い取った魔力は過剰だったのか。自力で放つときとは違い、心地よさすらある。寧ろ、体力も気力も全開。満たされてゆくかのような。


 迸る! 迸るぞ! 魔力がぁああああああああああああああ!


 樹木の気配が、遠のいてゆくのを感じた。


 樹木の気配が、一気に薄れたのを感じた。


 しかし、消えてくれてはいない。


 最低限、監視の目は残されている。注目を外してくれない。


(退いた、か。この具合は私自身にとっても想定外。まともに一撃入れたはずの相手がころっとして、何か魔法放って、何故かより元気になった、なんて、まあ、対処に困るか。ふふ。今の、うちだ。どうせどいつもこいつも、私よりは大人に違いないし、この手の不安定は魔法使いのあるあるではあるらしいしな)

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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