デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 承 根の根城 Ⅱ
(……。未だ、だ……。未だ、大丈夫な筈だ……。私を解析し終えていたというのなら、この程度では済むまい……。未だ、時は残されているか)
またも。一瞬視界がくらむも、踏みとどまる。
(ぶれる……。嫌にぶれる。上振れ……とはいえる……。そんな測れぬものは置いておくとして――ここまでくると、業すら雑には使えんか……。見取れぬ域に踏み込めていれば――それこそ、何も込めぬ斬撃が神の一角にすら自然と届き得てしまうような――そんな域に至っていたなら、どうとでもなっただろうに……)
雌伏していたらしい。二の手。三の手。弧を描くように、少年を中心に、集まるように地面を走ってくる。樹木の枝の槍。
これは容易く。少年は一回転する軽い斬撃で、それらを一層した。
軽く、というのがミソである。
ブラウン少年の十八番に似ていたが故に、特段軽くいなせたのである。少しばかり少年に余裕が生まれた。それでも――そんな余裕はすぐさま奪われることとなった。
崩れた枝の槍の先。包囲するように現れる、木目の体表を持つ自分の姿似たち。先ほどよりも更に鮮明。繊細。されど、中身が伴っているかはやはり――
(分からぬのだから、出し惜しみは無い!)
不明瞭。
【†瞬断†】【†瞬断†】【†瞬断†】【†瞬断†】【†瞬断†】
喚んだのではなく、抜いた。そして、軽業のように、重ねに重ねて乗せた業々。連撃で軽く飛ばした素早い斬撃は、それらを容易く粉々にした。
わざわざ。人の形。単発で終わらすつもりのものではなかったようであるが、少年はその目論見を挫いてみせた。
思ったよりも、容易く、細かく砕けたのだから、と、一瞬。砕け散ってゆくそれらに近づき、一瞬展開するかのように喚んだ剣に、それら、濃い魔力を吸わせた。
過剰だったらしく、握っていた柄の消えた、右手掌の内から、腕を、中へ、上へ、染みわたるように、逆流してくる。
魔力を吸うことに特化した種族でも何でもない自身に、自然由来っぽい、純粋で濃い魔力が、血中に直接ぶちこまれるかのように流れてきたのである。
「っ! はは」
柄にもなく高揚する。感極まるというか。戦場での昂ぶりか? 昨日の彼女とのアレコレとはまた別種の格別である。
思いつきのように勢いでやった剣への補給は上手くいったばかりではなく、まさかの余剰を頂けるとは――とはなったが、安堵と余韻に浸る間までは与えてくれない。
(まだ色濃く。掌を中心に、漂っている。濃く。ならば。今なら問題あるまい。どうせこれもその為だけの一時の展開に過ぎない)
頭上斜め前方から、降り注ぐ横雨のようにぶち込まれてきた、枝の槍雨。
鎧を喚び、最も色濃く、先ほどの残滓が濃く残った、纏った右の籠手部分で、握り受け、そのまま握り砕いた。喰らい付き、砕き、千切り抜き、そのまま、右手を振り回す。
脆い土壁のように、次々とぼろぼろ崩れて、そうして塵と化す。
そうして、さらに濃い魔力が、咽る程に漂う。光沢で煌めいた訳でもなく、それでも確かに、鎧が、その精神である彼女が、煌めいたのが見えたような気がした。
そうして、得ずして、自身と、最も身近な二人から、一時的に不足していた魔力がまさかもまさか。満ちることとなった。
そうして、取れる手段が少し増えた。
そんあ安堵の隙を狙うかにように。敵は攻撃の手を緩めない。諦めが悪くなったというか。試行錯誤? してきた?
「お?」
見れない、枝の槍。
籠手で弾いた。弾いただけで砕けたが、その破壊音は、高く響いた。
半透明? いいや、ほぼほぼ透明だぞ?
それを折に、また少年は鎧を消した。
(明らかに、虚を突こうとしてきたな。手を変え品を変え、だけではなくなってきたな。間を読むかのようだった。今のは鋭かった。悪辣かつ、多彩になってきたな……)
動きを止めたうねった枝々に残った葉が、緑の光の刃へと成り、励起し、煌めきながら、そこかしこから、360度、幾重にも少年へ襲い掛かる。
(とはいえ、分かったぞ。魔力を以って駆動している。どれもこれも。動きが複雑になってきたのに相まって、より込める量も質も上げざるをえなくなったか? そんなこと関係なしに、貯蔵リソースがこれまでよりも段違いに潤沢になってきたか? 魔力無しではできぬ芸当ばかりだな。魔力の満ちた今であるならば、かえってこれはやりやすい、といえるかもしれん。今のところは、だが。暫くは魔力の補給には困らなさそうだ。今のうちに、試しておかねば。何をどうやれば、コレに通じるのかを)
鎧と剣を消し。ただの剣で。放たれたそれは、空に連なる光輪の灼くような、光線と見紛うような斬撃。実態ある連撃の始まり。
【聖創・天綱光輪】
剣から添えていた片手を離し、その手に握った光の糸の片端。もう片端は掌から離れるように、昇ってゆく。陽光色に煌く光輪。
振り回す。
弾く。斬る。裂く。摩り下ろす。
火花を散らしながら、散らしてゆく。
(ブラウン少年に手伝って貰って試し打ちはしておいたものの。この系統は威力も燃費も派手なものだ。……。いいや、ここまで派手では無かった筈だ……。出力が、僅か数日の間で跳ね上がるなんてこと、あるのか……? ……。思い当たる節なんて、唯一つしかない。原因は、やはり、昨日の――)
燃えて、朽ちて、刃は刃としての機能を維持できない。そこに篭っていた魔力ごと、焼け落ちたのだから。
(……。暫し眠れ。……。このどうしようもない頭の熱も少しは冷めただろうか? 一旦退いておくこととしよう。退ける機会はこの戦いにおいてあと何度の猶予があるか。それすら定かではないのだからこそ)




