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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 承 根の根城 Ⅰ

 体は空に打ち上げられ、宙を舞う。


 うるざあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぎぎぎぎぎい"い"い"い"い"い"い"い"い"――、と。


 物凄ぉううく綺麗に、あやられる赤子ごっこしている側だったあの超小柄な巨人、という何とも矛盾塗れの存在の尺度で思いっきり、ぐわああああんんんんん、とぶん投げられたからだ。


 腐っても。糞みそでも。巨人は巨人。よく飛ぶ訳だ。


 空の旅、というには、木枠が邪魔だ。そう。奴の根っこだ。


 世界樹の幼木。


 世にも珍しい、世界樹の株分け、か?


 パーク……。管理しとけよ、ちゃんとぉぉ……。


 そうとしか、考えられん……。


 由来が無いだろう? それ位しか。こんなにくそでかくなる、樹、なんか。


 嫌悪感を隠しきれなくなっていた自分も悪い。だかこうやって許容できている訳だが――私以外なら、死亡確定ぞ、これ?


 その辺り、彼らもどうも、本当に正気であったかは怪しい。……正気って、何なのだろうか……? 彼らは素が、狂気だろう……? パークがああなってから、あんなになったのではない。それだと、汚濁と、においの、すげた感じは、出ないとも……。


 何故知ってるかって……? 薬中の対処だよ! 垂れ流しという点では、同様だよ! 薬中のようには目や血色が死んでいないあたりが決定的に違うとはいえ。


 雰囲気。


 宙返らなくてはな。そろそろ。


 ぶぅうんん、すたっ!


 我ながら御見事!


(で……、ここはどこだ? こんなことなら、パンフレットに目を通しておくべきだった……。いいや――何れにせよ、駄目、か)


 周囲の光景は目まぐるしく変貌する。


 半ばというか、殆ど埋もれているのだ。


 つまり――決着はつきつつある。


 そう。こいつの独り勝ち。


 形成される地形は、樹木の海。


 周囲の光景には不規則な木枠によって細切れにされた空の青以外、原型は無い。


 枝々が、不規則に地面を突き破って現れ、茂り、それら全てが、蛇のようにうねりながら、葉をつけ、やがて、止まる。急速な成長が、蛇のように、うねる一度だけの動きを為すのである。


 それの本質は、やはり、樹木。蛇のように見えたのは見せかけか?


 世界樹か。それとも。世界蛇か。


 その二つに絞り込めるところまできたが。


 さすがに、世界樹の類だろう。世界蛇なのだとしたら、それこそ、親が怖い。樹と蛇なら、許容の範疇がてんで違う。他者という自分たち以外総てに対する許容の範囲が。


 無論、擬態、の可能性も拭えない。だから、まだ、どちらかは決定的でない。


 断定できるなら、その時こそが、願い事の切り時だろう。


 伝承に則って、型に嵌める。


 何だか感が冴えない。鈍りに鈍っている。錆び付いているかのよう。彼女の血で、錆びたか? 私も所詮は人の子ということだ。







 樹海の中。自分ひとり。


 つまり――少年は抜かった訳である。


 敵の掌の上である。


 らしくない。


 嘗て部下を率いもした者の振る舞いには程遠い。


 やってはいけない。


 失格といえる。


 自分一人となり、コレに半ばでもまともに対峙し続けているのは、多分、現状自分一人。


 否応なく、憶えられてしまう。認識されてしまう。コレに。


 一定というか、結構距離を開けたという認識できる位に離れれば、追ってはこない。しかし、どこか。踏み入れたなら、気づけば、コレの領域。


 その範囲も、何か追いかけてくるときのしつこさや手数や手段の多彩さも、どれもこれも手強いものとなってきている。


「っ!」


 蹴り足で衝撃を伝え、動きを止めたと思っていた、ろくろのようにうねった足元の枝が、不意に、尖って、付き上げて貫こうとしてきたのを、空気の流れの変化と、濃い魔力反応から察知し、少年は容易く避けた。


(器用なものだ……。この出鱈目さは、学習というよりは試行錯誤の類。コレが意思を学習に振り向けたその時こそ、状況は一気に向こうに傾く……。今はせいぜい、このような騙しも一段で終始している。これが二段、三段、多段になるのは直ぐだろう。牽制や、騙す為の無駄を織り込んできたなら、いよいよ、こちらも後先考えていられなくなる。流石に、対策も無しには喚べはしないしな。久々だ。こうも手段を縛られた上で独りだと、打てる手が余りに少ない……青藍からの接触が無いのも、何だか嫌な感じだ……)


 これが植物としての性質が主ならば、このような執着を持たれてしまっていること自体が不味い。草木ではない。樹木である。故に、その生は、性質は、意志薄弱な類の精霊に近い筈。その前提が崩れてきて、ねっちこい執着で纏わり続けられれば――それこそ、蛇。手の打ちようがなくなる。


 自力での事態の打開は限りなく不可能になるということだ。


 彼女は――私では無いのだ。彼女とて万能ではない。読まないと心すれば、読めん。読めぬ。知れぬ。以心伝心では無いのだ。それこそを彼女が望むなら、私は言えぬ。強いることなどできるものか。


 ……。願い事、コンシェルジュは――使えまい……。


 つまり――選択肢は減り続けている。


 自分が退いて、他の誰かを前に出す。指示に回る。情報を持ち帰って共有する。手勢を集め、率いる。王道。そんな選択肢が絶望的になっているのは、コレの事の運びが巧かったからではない。少年自身の失態である。


 自分よりも、コレに脅威を感じさせられる存在が現れ、コレがそう認識した上で、そんな存在が積極的に矢面に立ってくれたら話は別かもしれないが、そもそも駆け付けてくれる者どころか、コレと交戦しているのが自分しかいなさそうなこの現状、都合の良い、もしも、なんて考えるべきではない。


 彼女も、指輪を外せばその限りではないだろうが、それこそ、強要できない。それこそ、私自身も駄目となった、どうしてもとなったそのときに、叫ぶか? それを外して、呪いの如く力を振るえ、と!


 何故! 魔法使いという夢に足を掛けられたと思ったら、このざまなのだ!


 足を止め、振り返りざまに、軽く跳ね、ただの剣を抜いた! 一閃。


 足元僅か、数歩後ろの距離から、生え出た根を。咄嗟に、もう片方の手も、剣に添えて。


【†斬魔†】【†斬る†】


 わざわざ、業で斬った。両手持ちにまでして。


 何せ、魔法の剣ですらない、ただの剣だ。正確には――なんかひとりでに再生する機能がいつの間にか弱くも宿った、それ以外はほんと、何てことない、ただの剣だ。


 いつの間にか、そうなっていた。


 魔法使いが愛用する道具というのは、そういう傾向があるものとはいえ。それが。今か。気づいたのが、今、というべきか。


 それでもきつい。一瞬だが、ふらついた。


 それでも倒れず、喚んで、消した。


 ほんの一瞬。魔法の剣。


 目的は単純だ。


 消耗を抑えつつ、斬ったそれらと、自身の業の残滓を、魔法の剣そのものに吸わせる為。加えて。その雌伏していた根は、枝々よりも遥かに硬く、濃厚な魔力に満ちているだろうと、出現の際の察知の瞬間から、確信したから。


(知ったから取れる選択肢だ。私の剣も鎧も、言葉通り、生きている。意思があり、人としての形も持っている。実物を見たというのも大きい。知ることが大切なのだ。一段深く知った。ただそれだけでこれだけ扱いに選択肢が増えるとは。考えて捻りだした訳でもない。流れてくるように伝わってくるのだ。可能である、とただ分かる。流石に。彼らに頼らざるを得ない。せめて短期決戦を挑める程度には、吸わせねばならぬ)


 半透明で、うねる、樹木の根が、大の大人を形どったものが、地面よりすっかり出て、こちらを向いてい手を伸ばしてこようとしているもの。それが、縦に、上から下に両断され、魔力が散り、本来であれば容易いであっただろう再生に支障が生じている。


(狙いがばれるか? 狙いを理解する頭があるか? 読み取った狙いを利用するつもりになるかどうか? いずれにせよ、息を吸うように力を吸う側が、逆に力を吸われたならば。多少なりとも戸惑うだろうな。意思があるというのは何も良いことばかりではな…―)


「っっっっ! 【フラッシュバインド】」


 目を見開ききっていた。


 体感、時が、止まりかけた。


 想定される最悪のうちの一つが形にされたかもしれないと思って。


 自身を捕らえた枝葉とは別。


 それは、少年自分の形を象っていたから。


 叫ぶように詠唱した、加減も配分も考えずに放ったその魔法によって、自身を束縛した枝葉も、目前のそれをもゆうに呑み込む範囲、少年の内側から炸裂した光の棘の吹き荒れるような爆発によって、それ以上一切の挙動を許されず、朽ちていった。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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