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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 起こり 吸魔吸精域 Ⅲ

「……。青藍……」


「ライト……。任せても……いい……?」


「少し……無茶をする。間隙を開ける。機会は一瞬。一度だ。コンシェルジュと共に君の世界に引き籠れ。無事終わったかどうかは、……分かるよな? ……。なっ?」


「ふふ……。わたしは貴方のモノ」


 そう、指輪をかざす。


 そして、こちらの手をとって、


「そして……、貴方はわたしのモノ。証だって……あるじゃないの。ねっ。混じってる。もう……一方的じゃあ、無いんだから……」


 と、ぐったり。


「光った、と思ったら、開くんだ。いいな?」


 こくん。彼女は頷いた。


【穿ちの閃光】


 ぐらっ、ときた。


 ライト・ニードルを更に収束するため、針のような硝子構造の中で光を迸らせながら収束して、放ったもの。


 放ちの際の自身に掛かる負荷も、消耗魔力も、あのライトニング・ボルトの比ではない。


 あの存在との遭遇による硝子に対する造詣の授与もあるが、大部分は彼女のお蔭だ。自信というやつは。必要とされているということは。求められているという価値にこの上ない幸福と原動力が生まれるのだ。


 誰かの為に――


 それよりも。


 彼女が為に――


 私というやつは、自分を欲してくれる、愛してくれる、大事に思ってくれる、頼ってくれる、そんな――自分が救いたいと思った者こそを、救いたいのだ。


 元・師匠が涙ながらにではなく、ただ憤怒したのがどうしてだったのか。やっと、分かった。


 光が――界を穿つ。


 結界を貫き、空の雲の層すら貫き、散らす。それでも、僅かな穴だ。


 しかし、十分だ。


 彼女はいなくなっていた。コンシェルジュごと。


「さぁて。やるか。さて。お前たち。……。先日のが特例だったという訳か。まあいい。時間は思っているよりも無いと見るべきだな」


 喚んだ鎧も剣も言葉を発しない。


 いつもよりも、身体が重いのは、自身の消耗のせいだけではない。






「緊急事態だ。仕方あるまい、よな?」


 ホテル。


 病院のようなあのホテルの受付。


 係員はいない。


 客もいない。


 いたらいたで困るが。


 何せ、何やらの救命処置を講じる必要がある。


 意識があったらあったらで、ならどうして、ここに居座っている、と、色々と疑念が渦巻くことになる。


 カウンターを容易く飛び越えて。


「ある筈だ。体調を崩す客がいないとも限らんのだから」


 ごそごそ。がさごそ。


 カウンターの奥は倉庫になっていた。


 客の荷物は無い。


 尤も、そっちはあったらあったで、探るには危険が大き過ぎる。


 大量に並ぶ、床から天井までの棚。


 知らないものばっかりが並んでいる。トドメ色の薬品の類の入った瓶であったり、瓶の中で渦巻く煙と瞳であったり。一見まともそうなものからゲテモノまで様々。


 探しているものは――


「あったな。当然か」


 エリクサーである。


 エリクサーの常。瓶に入っている。だからこそ、見ればわかる。硝子に精通したからこそ、なんとなく分かるのだ。それがエリクサーだと。但し、低品質、である、ということも分かってしまう。


 しかし、ぐずぐずはしていられない。


 高濃度高品質のものがあれば、自身の剣と鎧に振りかけるのもありであったが。


 彼らが弱ってしまったままでは、ただの壊れない剣、ただの再生機能のあるそれなりに丈夫な鎧、でしかない。


 つまるところ、いつも通りだ。


 魔法使いになる前のいつも通り。


 久々の単独任務。


 なら、独りであるが故の手段手法こそ相応しい。


 最短距離を征けばいい。


 西域が事の始まりかどうかははっきりしないが、始まりに近いことは間違いない。入口方面よりも。





 公園エリアを抜けて。


 パーク西域。その境界へ到達した。


(独り言も無しにすべきか。吸われるのだから。脳内に留めるなら問題ないがな)


 根と枝でできた、半球の柵。ドームの如く、広大なそれ。


 近づけば、隙間が広がって、通してくれたそれは閉じたままだ。


 剣を構える。


(二の手が無いのが地味にきついな……。この剣だけだと、相性の悪いのにあたると、魔法で相手せざるを得ない)


(吸うという性質上、掴む、組み付くというのも悪手……。せめて、私以外の味方か、もう少し用意ができる時間があればよかったが……)


 向かってこないということは、守りに特化したか、受けての反撃を狙っているか。


 この柵の材料は生きている、と思うべきだ。


 斬って、斬って、剣の腹で横凪いだ風圧を前に押し出し、跳ねるように前転しながら、中へと一気に突っ込んだ。


 すぐさま、地面を踏みにじるように蹴り、その身が消えて見えるような速度で駆け出した。左右に弧を描き、不規則に小さく前後左右に飛んで。


 縁であるここに長く居るのは不味いが、水面に立つのはもっと不味い。


 溜まっている水そのものが、蠢く生き物のように動き出していないからまだましとはいえ、ここを泳いで突っ切るのは無理だ。


 容易に絡み取られ、吸い殺される。


 だが、走り回って分かった。


 ここが起こりだ。


 正確には――この水面の、更に下。


 しかし――どうする?


 思いつく。


 一閃。


 大きくたわみ、軋む音とともに、滑り台の一つが、倒れ、水の中に向かって――溶け……た……。


(最悪だ……。底へ到達する手段は無い。自らの身の一部ですら、溶かし食らうその貪欲さ。……。もしかして、水が本体か? それとも、水も生きる存在としての一つか? 枝や蔦たちとは別の?)


 少年はその時点で、撤退を決め込んだ。


 躊躇なく。


【ライトニング・ボルト】


 自身に向かって落としたそれは、世界樹自体の障壁に阻まれる。が、その熾烈な威力はなかなか散らず消えず、当たった部分の障壁は消えることなく展開され続けている。


 狙い通りにはならなかったが、少年は掛けた。


【†斬る†】【†薙ぎ払う†】


 集中し、放った、唯の斬撃は業として発露する。


 飛び込むように前転し、そのまま、西域から撤退していった。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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