デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 睦言日和 Ⅰ
「……。何と申し上げればよいのでしょうか……」
「……。まさか、私の方が保ってしまうなんて思わなかった……。あんたが人外で夫持ちで心底良かったと思うよ……」
腰に布を纏い、ベッドサイドで頭を抱える少年は、その身に光を纏いながら、こびりついた汚れを除いてゆく。……自分由来のものだけ……。彼女由来のものを、わざわざ消さず、残している。彼女が初物であった痕跡がこびりついている。
ある種高度な性癖暴露であった。
だが、見せるべき相手は意識を落している。逝った目をして、のびて、意識を失って、汚れ、垂らし、ひっくりかえったカエルみたいにのびている仰向けの青藍。
「……。改めて……化け物ですか? 貴方は……?」
「父は確かにそうだった……。だが、流石に自分もその域であるとは思わんだろう……?」
その域というのは。つまり、性豪。その中でも更にぶっ飛んだ。その方面での化け物、ということ。何せ、魔女をそれでのしてしまったのだ。
魔女よりそれが強いって、それは人間といえるのか? いえない。
性獣というには理性的過ぎる。性王だとか性帝という形容こそが相応しいか? 複数侍らせている訳でもないのに。
とかく、人間の域ではないということだけは間違いない。
「はぁ……。改めて見ると……えぐいな……。これだけ広がってしまってはもう元には戻らんだろう……。やったのは外ならぬ私自身……。罪を突き付けられている気分だ……。私のペースに合わせると彼女が死ぬ、ということは兎に角分かった。……。……。裂けては、いないな……。まあ、裂けるなんてことにはならないよな……。ふ、はは。あってたまるか!」
「あまり大きな声を出しては……」
「起きんよ。繋がったからこそ分かる。最近、友がやけに強大になったんだ。確かに彼は鍛錬を積んではいるが、それでは説明がつかない位……。その理由が分かったよ……」
「……おめでとうございます、とだけ……。……。極めて強い双方向の愛の絆、ということですよ……?」
「後のことなんて考えても仕方があるまい。いつか来る離別を考えて付き合いを始める者なんて馬鹿げている。それに、破綻に関しては問題無い。共に終わればいいだけだろう?」
「……きわめて強い双方向の依存、ですよ……」
「私も魔王の素質があるらしいし、当然といえば当然の帰結だ。……一応。彼女からどう頼まれているかは知らんが、今は未だ、彼女との子をこさえるには早い。少なくとも卒業までは駄目だ。責任を持てない。代価は払う。その時へ、果実は飛ばせるか?」
「青藍様……貴方様の負けですね。ライト様。可能です。代価は必要ありません。既に青藍様から頂いております」
「いや、駄目だろそれは。なら、これは私と彼女の願いだ」
「青藍様が御払いになられたのは、この部屋のこの四日間。実以外の、部屋を満たし続けた溢れに溢れた全て、です」
「成程。私も払った扱いか。最初からそのつもりだったのか……」
「少し足りませんでしたので、青藍様と賭けをしました。賭けをした。そのことそのものが不足分の代価でしたので、勝敗は関係ありません」
「内容は知らんが、青藍の負け、ではないのか?」
「気になるのでしたら、青藍様に自らお聞きください。では。貴方様も疲労はあるでしょうし、御眠りになられては? チェックアウトは何日後でも大丈夫ですよ。それでもまだまだ、わたくしたちの貰い過ぎですから。お伝えください。無理はなさらぬようにと。では、また何かご用命の際は御呼び下さい」
気づけば。カーテン越しの窓から見える外は夜空だった。
彼女は――まだ眠っている。もう、気絶、という感じではない。
流石に、日が一巡した、ということはないとは思う。自分はそんなにやわではない。だが、彼女は、自分ほどタフな訳ではない。
「……んん……」
「もう起きて……大丈夫なのか……?」
「ちょっと……気持ち悪くて……。くしゅんっ! ……。シャワー、浴びてくる……。……。立て……、ないわ……」
自らの下腹部をさすろうとして、それをやめた彼女を見て、少年は自身の罪を改めて感じた。だから、彼女に提案した。
「背中、流させてくれ。きついだろう、その様子だと」
こくん、と彼女は頷いて、少年に体を預けた。
彼女を抱え上げ、シャワールームへと向かっていった。
シーツも布団も新しいものに変えられていて、その上に着替えが置いてあった。
淡い水色の薄いネグリジェは彼女のもの。同色のショーツも置いてある。
大きな白いバスローブは少年のもの。
「着せさせてはくれまいか?」
こくん、と彼女は頷いた。
バスローブを羽織ながら、彼女をベッドの上に。足を伸ばして座らせ、ショーツに両足を通し、腰に手を回し、もう片手でずり上げてゆく。
雑ではあるが、こういうときぶっちゃけどうすればいいか分からないし、彼女に聞くのも何か違うと思ってそうやったが。
「両手は上げれるか?」
こくん、と彼女は両手をあげた。隠そうともしない。恥じらいもない。ただただ、気だるげでダウナーな調子。
自分も反応しないな、そういえばシャワーのときから既にそうか、と今更ながらに、疲労を自覚した。ちょっと安堵もした。自分は常には盛った獣ではないらしい。そして彼女も。
四日間もぶっ続けでやらかした後なのだから、そんなもの当然というか、色々おかしいのだが、まあ、少年の知識としての参考事例も大概おかしかったし、彼女も知っている事例が自身の師匠のそれくらいであるのだから、まあこんなものか、とでも思っている。
ネグリジェを着せ終えて。
「ライトってこういうの好きなの?」
「一度やってみたかっただけだ」
「で、どうだった?」
「良かった。君がこれほどに私に気を許してくれているのだということを穏やかに感じされるから」
「体を許した後で言う?」
「体を許す。但し唇は除く。そんなことが割とあるらしいぞ」
「ライトぉ……」
溜め息を吐かれながら呆れられる。
「?」
少年は彼女の溜め息の理由を解さない。彼女としては、少年にその方面では過度に期待しないようにしているとはいえ、乙女としての期待は捨てきれない訳で。
「今日はそんな気分じゃないけど、また別の日に説明してあげる。ゆっくりね」
溜め息交じりに微笑を浮かべるのだった。