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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 壮絶たる意思試し Ⅴ

 ブ暑い木の扉。磨き上げられた飴色の革の色のような重厚なもの。


 それ以外は、青地に白の光の幾何学模様が迸る壁面が続いているだけ。他の部屋は存在しなさそうだ。この果て無い廊下と、この扉の先しか存在していないかのような。


 トントン!


 ノックすると、扉はひとりでに観音開きになり、キングサイズのベッドの中央ででうつ伏せになって疲労の色を見せながらも、頭だけ上げて、


「おかえりライト。ごめんね、先に休んじゃって……」


 ピンクの薄いネグリジェ姿で、弱々しい声で少年にそう言った。漂ってくる石鹸の匂い。それに僅かに混じる別の匂い。


 周りの調度品の豪華さや、キングサイズのベッドを置いて余りある広さであるその部屋のことに目がいかないくらいに、少年は彼女だけを見ていた。


「無理をさせた」


 少年はその一面絨毯な床の上に正座して、そう言った。


「いいのよ。好きでしているんだから」


「今もその無理は続いている」


「……」


「知っているとは思うが、私も昨日の夜。そんな風にして隠した。止まるものではない。リビドーというものは。苦しかろう。苦痛に対する拷問には訓練次第で耐えられる。しかし。留まることを知らない快感の継続は、訓練ではどうにもならない。自身を完全に制御できるごく一部の一握りのみが例外として存在するのみ。……。見えるようになってしまった……。位階が上がった。図らずとも、試運転を終えてしまった。覆った魔法。その下。もう既に、あの場に剥き出しで立っていた時よりも……」


 すっ、と少年が立ち上がった。


「専属! いるのだろう?」


「如何なさいましたか?」


「やはり本契約に切り替わっているか」


「御不満でしたか……?」


「彼女が決めたのだ。不満などあろう筈が無い。呼んだのは他でもない。この部屋。どれくらいの期間抑えられる?」


「一月でも二月でも」


「そんなには掛からない。一日では終わらないだろうが、恐らく二、三日。一週間には届かんだろうが」


「お水とお食事は如何致しますか?」


「必要に応じて念じる。モノだけ置いてくれたらいい。傷病者の救護で経験を積んでいる。この辺りの匙加減は得意分野だ」


「貴方様が先にお倒れになられたら?」


「水と養分。死なない程度に都度ぶち込んでくれ。方法は無粋にならなければ何でも構わん。ただ、止めてくれるなよ」


「随分な御自信で。御武運を!」





「色々な意味で……、待たせたな」


 一瞬である。


 早脱ぎの技術を始め、無駄遣いし、ベッドの上に立ち、彼女を剥き終えて、抱えていた。


 専属応対人と少年が話している間、本能を抑え込むことに意識を集中させていたが、終わった途端あまりに突然にこんなことになっていることに戸惑いを隠せずにいた。


「え……えぇ」


「言うのも何だが、覚悟はできているか? 心の準備というやつだ」


 滴るものを抑えようとする青藍であったが、その為に目線を落として。滴るものが落ちる先。それは在った。少年が言っている言葉の意味を理解した。


「ええ。昨日のうちに」


「いや……だって多分昨日より……」


「誤差よ! 誤差! わたしたちの体格差からしたら!」


「余計にそれ……不味いのでは……」


「どぉして! ここにきて日和るのよ!」


「いや……だって……」


「大丈夫だからっ!」


「いや…―」


「ライトが思い浮かべた通りになんて絶対にならないからっ! もぉぉおおおおおおっっっ!」


 と、青藍は、転移した。少年の手からすり抜ける為の転移。痺れを切らしての転移。当然、到達目標は――


 そうして。


 二人の初めてが始まった。それは果て無く思える程に続き、彼女が満足するまでの四日後まで、途切れることなく続いたのだった。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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