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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 壮絶たる意思試し Ⅰ

 悍ましい――といえる。


 事情を知らず、当事者ですらなく、この場に存在しない観客という立場でこの場に存在を許される男が仮に存在したならば、男としての欲に目を血走らせ、口にするだろう。


 桃源郷、と。


 三者三様。


 息だけでは無い。


 肌は紅潮し、乱れてゆく衣服。


 滴り落ちる、体液。


 狼狽を隠せなくなり始めている少年。


 無力さに歯軋りする剣の少年。


 こんな筈では、と、下手すれば女性陣よりも汗のせいで汁だくだくな死人のような筈だった男。


 何せ、その賭けは、予行どころか、シミュレーションすら無し。魔女がその煩悩を形にしたような、甘く腐れ落ちるような妄想を、勝負の形式に愉悦交じりに形にした、死人のようなその男にすら未知の勝負。


 勝負の進行すら、自分たちの手から離すようにした。無茶な勝負を成立させるために。


「このままでは共倒れだぞ!」


「では君が負けろ」


「胴羅をあんなにした貴様こそ負けるといい」


 三人の男は脂汗を流しながら苦悶の表情を浮かべている。その癖、熱はなく冷めている。冷え切っている。自分たちの愚かさに挫けそうになりながらも、降りることはできない。


 賭けてしまったモノがモノだけに。


 三人のうち、二人は正真正銘自分の女を。うち一人は可愛がっている妹分かつ同僚である女を。






 やっていることは単純だ。我慢比べ。


 盛った彼女たち。その前に生き餌のように立って、彼女たちの理性を信じる以外無い。


 ずっとではない。緩急をつけるかのように。ランダムで決められた時間。勝負の時間と休憩の時間が交互にやってくる。回を重ね、危険は増し続ける。


 確実に、取り立てが行えるよう、勝敗と共に、支払いの下準備がなされる、という悪辣な仕組み。


 だが、これには大きな穴があった。支払いが甚大だからこそ、順番といった、運要素を嫌った彼らの意図を、法則は汲み取った。まさしく墓穴だった。意思による勝敗の左右という要素の為の時間の区切り、区間という概念。そして、彼らの意思の強さがある程度拮抗して、平の勝負として成立してしまうのだからこそ生まれてしまった、全員が同時に負ける可能性という矛盾。


 法則という第三者であり利益供与者でない存在による判断であるが故に、勝者不在という矛盾は埋められることなく残ったのである。


 最初は軽口を叩く余裕は全員にあった。それこそ、女側にすら。


 勝負フェーズが10を超えた辺りには顕著になっていた。勝負の間の影響が、彼女たちから抜けきらなくなってきた。感覚がおかしくなり始めていた。


 男たちも不穏を感じ取るが、この勝負に棄権はない。それは負けと同義故に。


 フェーズが30を越えた辺りで、休憩中の彼女たちとの会話の機会を彼らは捨てる以外無くなった。自分たちの体にも影響が出始めていた。想定外であるらしい。決着があまりにつかないから、法則が痺れを切らしつつあるのかもしれない、と。つまりこの勝負は平等で、故に、手心など無い。


 フェーズが100を越えると彼女たちは一歩も動けなくなった。衝動を抑えることに全力を注がなくてはならないのに、快楽の波が、それを削ぐ。湯気の出た水溜り。ねっとりとした水溜り。色づいた水溜り。それでいて、彼女たちは耐えている。もはや、何の為にそうしているのか、分かっているのかすら定かではない。


「……。この糞味噌を維持している者はどこにいる?」


 そう尋ねたのは少年ウィル・オ・ライト。


「言うと思うかい?」


 死人のような男は表情とは真反対なことを言う。


「言え。貴様如き、我が刀身に掛かれば駒微塵であるぞ」


 手首から先を剣の切っ先に変え、死人のような男の首元に突きつける剣の少年。


「動揺か? それとも言葉を知らないだけか? そういうなら、粉微塵か細切れ、だろう。アレは俺の都合で動く存在じゃあない。発動のみしか聞いちゃくれない。だから。言えん。知らん。探れん。アレは、俺についてどうしようもないくらい詳しい。だから、俺じゃあ駄目だ。お前たち二人で、どうか。俺は彼女たちを封印する。上手くやれたとて、そう長くは持たん。行けぇええええええええええ!」


 と、先んじて、法則に指定されていた立ち位置から出る。動かねば、死人のような男の一人負けが決定するというのに。今戻っても、二人がうごかねば、死人のような男の負けは翻らない。


 つまりこれは、心からの叫びと覚悟。


 こんなもの、賭けじゃあない! 賭けであってたまるか!


 という、酷い心の叫びを聞いたかのような心地。


 二人は当然走り出した。


 剣の少年は、剣に戻り、ウィル・オ・ライトはそれを落すことなく、手に収め、空を蹴るかのように駆けていった。


 少年は一瞬、振り返った。


 彼女のその瞳が、一瞬悲し気に自分の視線と交わったことに気付いた。


(自分のことばかりだな、私は……。だから君に、こんなことをさせてしまった……。だから、決めた。今、決めた。待っていろ。その業ごと、私は君を――)


 伝わりもしない。言葉にもしない。今の彼女は読む力なんて行使できない。


 それでも。


 覚悟は――済んだ。

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完結済のものを2つピックアップしましたので、
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【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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