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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 賭場の握手 Ⅴ

 前提が間違っていたのだ。


 彼女が望んだ。


 望んで、仕込んだ。


 あの死人そのもののような男が、ではない。他ならぬ彼女が黒幕ではないか、と。


 なら……。何を、させたい? この私に。






「賭け金を積んで、座ってもらうための労を厭う筈もあるまい。最低条件を満たす者すら稀なんだ。無駄になっても構わない。やれるだけのことをやる。折り合いの悪い相手と組む。それどころか、敵とすら。だが、この界における絶対を破ることは叶わない。故に。生命未満を賭けて貰う。嘗てここを訪れたある存在から耳にしたことがある。命の定義。生きた人間の定義。命はいつ始まって、いつ終わる? 人はいつ始まって、いつ終わる。その始まりを定義した話だ。必要に迫られて、とのことらしい。それは贅沢な悩みであったり、地獄の底から僅か引き上げてくれる救いの糸もしくはさらに下へ押しやる罪の礫でもある」


 死人そのもののような男の口が饒舌に回る。独り善がりで、何を言っているのかまるで分からない。分からない、としてしまいたい。それでも、朧げに。嫌な想像が当たっていそうだと、これまでに類をみない類の嫌な予感の正体を知った。決め手は、彼女の一言。


「堕胎、ね。……」


 そう、俯き悲しそうに言って、自分の方を見た。


 彼女の瞳の奥。


 何を考えているのか分からない。狂っている。壊れている。


 ぞっとした。


 彼女が、自分の瞳を直視している。


 思わず目線を上げた。


 空は――蒼い。嘘みたいに無責任で、解放されていて、遠い。遠い。


「彼との赤子。それ未満を、人と定義される前、されども命であるその間に。差し出すのが、貴方たちが望む掛け金ということね。なら、貴方たちは何をテーブルに載せてくれるの? そもそも、乗れる? 足りる? 質は最上級と保証されているようなものよ。彼も私も、魔法使いの中ですら、特別よ?」


 遠い空を遠い目で見つめながら、耳に入ってくる詰みの情報を拒絶できない自分がいる。勝負の前の決め事。聞かない訳にはいくまい……。


 昨日でひと段落なんてついていなかったのだ。夜のも……。そもそも、ばれない筈が無いだろうが……。あんなもの、ばれて……当然だ……。


 猶予はあった。


 それに、専属応対人(仮)から、(仮)を取る話は、彼女に任せてある。時間も、あのシャワーの間であれば、あった。鍵を返すために受付に行ったときも、自分は目を話していた。ブラウン少年の現れたタイミングも、言われた内容も、あまりに狙い澄ましたような……。


 だが、聞けない。怖くて聞けない。そこまでするか? 私何ぞに? そこまで、欲しいと思えるものか? 価値あると思えるものか……?


「司るは、冥。故に畏れよ。神であろうと」


 彼女の言葉だ。それは魔法では無い。呪詞である。つまり、呪い。


 指輪を僅かに、指から浮かせ、漏らした闇。宙へ、昇った。少年が見ていた、先、その焦点であろう場所へ向けて。


 打ち上がり、薄れてゆき、広がってゆき、だが、確かに、何かにぶつかるように、散った。


(……! しまった……!)


 気づいてももう遅い。帳が降ろされた。その場に、条件成立後に降ろされる予定であった、帳。結界。勝負の為の結界。自分たちの周囲だけ、ではない。恐らく、この賭場をすっぽり納める程の広大な結界。遠くの他の客たちの勝負の気配すら消えていることを気づかせない程に、上手く誘導され、幾重にも隠され、仕込まれていたのだ。


 勝負の場として成立するということは、条件とルールは仕込まれた後ということ。誰が味方で誰が敵かも分からないのは、武具の二人を除けば自分ばかり、ということ。


「ライト。せ、い、し、のかかった勝負。初めましょう」


 潤んだ唇を、指先でぷるん、と振るわせて。少年を見る彼女の目は恍惚としていた。瞳の奥。恍惚とした魔力の奔流の蠢き。彼女はどうあっても、魔女。魔女は魔女。本能から逃れられはしない。


 半透明な膜のような帳が降りてゆく。風が止み、空間が閉じられてゆく最中、死人のような男が愉悦を浮かべながら少年に向かって言った。


「そう狼狽えるな。一方的なルールは敷けない。ここは賭場だからなぁ。だからなぁ。下準備も仕込みも糞もない、練習できない、訓練できない、力押しできない、経験が役に立たない、対策できない、地力だけの、相応しいものを用意したんだぜぇ? お気に召すだろうさ。殊更堅物なお前のような奴は特になぁ。はははははははははははは!」






 声が、おちてくる――


 遊戯【意思試し】


 手を出すと負け。手を出されても負け。女は剥き出し。男は苦悩す。漂う誘惑の香。抗いがたいそれに意思を以て抗え。互いのパートナー同士の意思の強さを証明せよ。


 続けば続く程に痴態を晒し続ける羽目になる。だが、それすら些細と思えるほど、敗北の咎は重くのしかかることになるであろう。秘め事を晒す羽目になる。それだけでは留まらない。この場、運命は捻じれている。敗者としての代償は、必ず結実し、取り立てられることとなる。


 心せよ。これは本能に抗う意思の勝負である。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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