表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/222

デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク 賭場の握手 Ⅰ

「ペアな客たち。看板を持って控えている係員が審判。看板にルール掲示。審判が常についているかどうかは、回転速度とイカサマ防止の監視が必要かどうか、か?」


 少年は、彼女の方を向くことなく、しかし、彼女に十分聞こえる声で、ぶつぶつ呟く。


「何れにせよ、オリジナルの遊び、か。元ネタの分かる程度にカスタムが入ったものから、一見見たこともないものまで。だが、どうだ? 一から考えられるような頭を持つ者がどれだけいる?」


 問いかけているようで問いかけていない。少年一人の中で完結している。脳内思考の垂れ流しでしかないからだ。これは。


「ここ目当てに通い詰めている者がいたとして、一方が有利過ぎるならば、場として維持できはしまい。と、なると、既存の遊びの変形程度といった度合いに収めている、と見るべきだろう。経験による有利不利が著しくなるもの頂けないしな」


 手を引かれたままの彼女の顔が苦笑いに変わりつつあるのにすら、少年は気がつかない。熱が入り始めているからだ。本来の目的が迷子になりつつある。


「ライト様。青藍様。如何いたします? 係員側か、客側か。胴元には条件を満たさなければなれません。なお、条件は提示されておりません」


 やけに反響する、けれども、無機質ではない、確かな肉声。か細い女性の澄んだ肉声。白磁の、口のついた、目も鼻も耳もない、無毛な、人の形をした、彼女よりほんの少し大きい程度の大きさの人形が、出現したいた。


「っ!」


 少年はふと我にかえった。


 彼女はその影で、ふぅ、と息を吐く。


「急に現れないでくれ。予兆も無しに。次からは緊急でない限り、薄くでいいから魔力を漂わせてから、など、何だかの形で匂わせてから、一拍子置いて現れてくれ」


 ある意味助け船であった、自分たちの専属応対人(仮)を、少年は助けられたことも気づかず、追い払おうとした。


 少年のそのぞんざいな態度に見かねてそれを正そうとした彼女を、専属応対人(仮)は制しながら、彼女に読み取れるように、心の内を読み取れる形に表層に提示すると、彼女は観念したかのように、後ろに退いた。


「承知いたしました。驚かせてしまい申し訳ありません。それと、顔を出したのは緊急とは言わずとも急ぎではあったので。ライト様。貴方様は、なんかてきとーに目についたやつに挑みかかるつもりだったでしょう?」


 何とも棘のある言い方に少年は何やら引っ掛かったようである。


「……。昨日は頭を使いすぎたし、変に疑り過ぎた。今日は軽く力を抜いて楽しむつもりだ。本当に不味そうなら青藍が止めてくれる。……。すまない……」


 彼女の呆れの中に苛立ちが浮かび始めた、悲しく訴えるような表情に少年は自身の暴走に気付き、反省した。


 そして、またやってしまった……と、項垂れる少年。専属応対人(仮)はまた、心の表層に、読めるように提示する。こうやって転がしてやるのですよ、と。


 そして、少年と彼女に、不意な出現の訳を説明した。


「専属がつかずとも、初見の方には、釘刺しと、リスクを前面に押し出した説明で、冷静になって貰い、初見殺しでカモになられぬよう、冷や水を浴びせるのが、通例になって久しいのですよ。わたくしが来たのは偶々です」


 少年とは違い、彼女は理解した。言われた通り。


 この手厚さは、自分たちだから、という訳ではない。


 ということは――それだけ危険であるということ。誰彼問わず、最初の警告が必要になる賭場。命以上すら賭けてしまえるに違いない。


(こういうのばっかり……。気を抜いたら、危険が隣に居座ってるなんて……)






「勝ったらすごいことになるのか、負けたら悲惨なことになるのか。いいえ、たぶんその両方かしら」


 彼女はそう、プラスにもマイナスにもならない結論を口にした。


「心配し過ぎた。危険は、感じるか? 感じないだろう? 間違えない限り、危険に陥ることはない。賭けとはそういうものだ」


 少年がそう言うが、彼女は全く安心できなかった。ここでいう間違えない、とは、つまるところ、こちらの負けが決定づけられるような何か。それは、勝負の場についてしまったことそのものかもしれないし、最後の最後で勝敗を決する二択を外すことかもしれない。


「言っちゃあ悪いが、君は恐らく、賭け事の経験に乏しいだろう? だから、言い方を変えよう。私が、負けを考えていないと思うか?」


 少年がそう言って、彼女ははっとする。


 覗き、伺い知った、深淵。負けるということの意味すら、自分の思っていたものと異なっている。負けることが、見方を変えると勝ちになっていることも。まるでそれは、賭けというより、勝負というより、ある種の交渉。数多の戦術を戦略で包んだ、戦争のような。


 壮大なものを垣間見たかのような心地だった。価値観がひっくり返るような。自分が考えたそれより、少年の考えるそれは、規模も深さもまるで違った。


(ただ怖がるだけのことが、こんなにも、いけないのね……。そこで終わってしまってはいけない。立ち止まってしまってはいけない。わたしには未だ、踏み込めない領域……なのかもね……)


 少年のそれは確かにこれは、専門家。一家言ある、一流の専門家と言って差し支えない。


「一応分かって貰えたようだな。意外な話かもしれないが、負け方こそ大事だったりする。時に、勝つ以上に」


 彼女に対してそう少年は締めくくった後、専属応対人(仮)に訴えかける。


「詐欺師の臭いは確かにする。そこかしこから。私はその手の類の対処には慣れている。ある種、専門家といってもいい。加えて。彼女は素人でありながら、その能力故に私以上に適任と言える。そもそも、それぞれに係員がついている。故にできるサマも賭ける物品や契約など、無秩序とはならんのだろう? 以前はそうでなかったかもしれないが、今は完全な無法からはだいぶ離れているだろう? しかし、騙すだけの間隙はある。騙される方が、愚かなのが悪い、で済んでしまう範疇と、人の身でありながら失って言えるかどうかは未だ何とも言えんが。さて。私たちが嵌められぬように、ゲームの例と、ルールと、その運用、そして、契約、賭けのテーブルに乗せられる限度。君は、私たちが望むまま、全て話してくれるのかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ