デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~輪転白馬に跨って~ ⅩⅢ
後半戦に入っても、予想外の苦戦は続く。
六つ目の部屋。
少年も彼女も目を疑った。
赤絨毯に、二つの豪華な椅子。座す二つのガイコツ。
男のガイコツと女のガイコツ。一糸纏わぬ姿ではあるが、骨格のがっちりした感じの方が男であると分かる。顎とかくかくと鳴らしながら、骨々を反響させるように、音というか声をつくって出しているらしい。
それらは意思ある存在ではなく、少年と青藍がそれぞれ動かしている操り人形である。
やるのはダンス。
少年たちの動かすガイコツが組になってダンスを踊る。何回か、何種類かのダンス。それらを無事真似できればクリア。
問題が生じた。
少年が上手過ぎた。それに引き摺られるように、青藍の操作も、引っ張られる。
片方は自然なダンス。もう片方はそれに必死についていくので精一杯な、不自然かつ、故に難しいダンス。
しかし、それ以前の問題だった。
トロールたち二人。恐ろしいくらいに、ダンスが下手だった。それもどちらも。少年側の真似は到底無理。青藍側の真似にも手が届かない。
『これは無理だ! これだけの下手糞は想定しとらんだろう。入口であのダンスを踊らされるのだ。全くといって踊れんなんてまさかだろう。だが、手はある。アッカ! 確認だが、それぞれの踊りを最後まで彼らが演じきれればいいのだろう?』
少年の分かりにくい言葉を青藍が噛み砕いて要約し、幼な子はこくん、と頷いた。
少年の採った手段は極めて単純。ガイコツを通じて、彼らを操り人形……、いいや……、教導だ教導。ダンスの教導を、彼らの固く融通の利かない体を必死に支え、曲げ、伸ばし、回し、青藍共々、彼らを直接持ち上げるでもなく、ガイコツを通じた操作であるのにぜぇぜぇと疲弊しながら、何とか遣り遂げた。
せめてもの救いは、彼らが目を輝かせて、踊りを終えて満足していた、ということだろうか。
七つ目の部屋。やけに広い部屋。大部屋である。四つ目の部屋のような縦にも広大ではなく、縦に横に広大なだけだから、ただの大部屋。
床に敷かれた絨毯。その模様が、ここが何かを示していた。
双六である。
賽は存在しない。進む目を決めるルーレットも存在しない。マス目は存在するが、止まった際に起こるイベントは書かれていない。
光の壁が、彼らの進行方向に、何マスか離れて。
彼らがこれが何かを気づいていないのを察して、流石に看板が要る、と、幼な子にお願いする。できたら、先に出す予定の看板も、まとめて出して欲しい、とも。
何マス進むかは、彼ら自身が決める。
別々で動くではなく、手を繋いで、二人で何マス進むか決め、同じマスに止まるのを見て、本当に仲が良いのだなと、少年も青藍も見ていてほのぼのした。
残念なのは、止まったマスのよるイベントは、うかがい知れないこと。
少年や青藍の側からは、光に包まれて、彼らが戻ってきて、喜怒哀楽を浮かべるという結果しか見れない。
ここは他の部屋とは違って、仕掛けの操作などは殆ど自動化されているらしく、少年も青藍も幼な子の仕事もほぼ無かった。
そうして、八つ目の部屋が、ここ。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――、不味いぃぃいい! 不味いぞぉおおおお! 奴ら、身体能力は高い癖に、身体の動かし方が下手過ぎるっっ!」
少年が思わず声をあげる。
「そんなのあのダンスで分かってたことじゃない」
青藍が呆れた調子でそう返す。
難しいなんて何のこともない。
穏やかな春の陽気。城の出口は目に見える距離。
部屋であるが、池であった。
水が溜まった池。浮かぶ巨大な蓮の葉。
穏やかに魚が泳ぐ様子が見える。
ザバァアアンン! と、男の方が落ちる。
落ちたら、発生する優しく水流に押され、スタート時点に戻される。
さっさっさっ、と、跳ねて、飛び移って、向こう岸に辿り着けばいいだけ。
彼らが乗っても端っこでなければすぐには沈まない。
ただ、ここは、二人並んで、は無理だ。
どう見たって、二人分は支えきれないだろうと分かるだろうに、彼らが最初、二人で跳んで、仲良く沈んだのを見て、少年は頭を抱えた。
この部屋で、介護が必要なのか? と。
もう、青藍と幼な子は、ごろごろだらだらモードに入っていた。
少年は彼らのあまりの酷さに、ひそやかに、硝子柱の魔法で、彼らの酷い跳躍からの着地をサポートしようとしたのだが、生成したそれは、溶けるように、ふにゃりと、崩れた。支えになんて全くならない。
思い出す。その部屋は、魔法によるゴリ押し禁止。自分の使った魔法も、それに入れられてしまったらしい。
「もう。あの人たちもちょっとずつ上達してるし、飽きたりもしてないみたいだし、ライトも休みましょうよ。アッカちゃんの出してくれたコレ、甘くておいしいわよ?」
と、手作り感ある、厚みのあるしっとり柔らかなチョコレートビスケットをぴらぴらさせ、ぱくんと、舌鼓を打つ青藍。
少年は耳を貸さず、『そうだ! その調子だ!』とか、『あぁあああああ! 何で跳んでる最中に後ろ向こうとするんだよぉおおおお!』とか、一喜一憂する酷い具合。
青藍と幼な子は呆れ気味に、そんな少年をのんきに眺めているのだった。
やがて、少年が、
「やったぜぇえええええええええええ! やっとだぁああああああ! やればできるじゃないかぁあああああ!」
そう声をあげた。
普段見せないような、というか、見たことないようなおかしな盛り上がりというか沸点の高まりというか。
そして、出口。光の中へ、消えてゆく彼ら。光が晴れ、照明煌めくパークの夜景が広がっている。満足そうに、待機していた馬車に乗り込んだ彼らを見て。
少年は遣り遂げた感を出し、浸っていた。




