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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~輪転白馬に跨って~ Ⅹ

 ズゥゥ、ズゥゥ、ズゥゥ――


 かの全身鎧を纏って。


「流石に重いな……。だが、疑われる可能性は減らしたい。また水流で押し流す訳にもいかん。直接魔力で運ぶ訳にもいかん……」


 ズサッ。


「おつかれ」


 そう声をかけてくれた彼女の声はちょっとぎこちない。


 騎士鎧を消した。


 我ながら名案である。これなら、触れたとて魔力の痕跡も何も残らない。


「あぁ。私が乱れたのが不味かった。……。君のせいではない。指示役が崩れたのだ。君はよくやってくれた。心臓には悪かったが、結局のところ、まさかのまさか。猶予が生まれた。これなら、がっちり予習する時間がある。幸い水は肺に溜まっていない。ただ気を失っているだけ。水に体温を奪われ、しかし衣類は乾いている。故に暫く体温は低く保たれる。衣服もまだ冷え冷えしている」


 降りてきているのは、少年と彼女の二人だけだ。幼な子は残してきている。落ち着いてもらい、再度色々な部屋とルートと仕掛けを思い浮かべて貰う為の。


 幼な子に落ち着いて貰うために、彼女も連れてきたのである。少年一人で、トロールカップルの移動はやった。


 少年は自身の大腿を見る。


 そう。服の下。大腿内側に。括りつけている。


 魔法鎧なんてものを喚んで着込む癖に魔法使い。だからこそ、ローブの下は、魔法使いのそれではなく、騎士の鎧の下のそれである。


 これまでは問題にならなかった。


 だが、知識では知っていた。


 起こって恥ずかしがって、笑われて、対象法を教えられる下っ端や見習い騎士の通過儀礼。心を閉じて、彼女から離れたのは、当然、背を向けたとて、彼女の前でズボンを降ろす訳にはいかないから。そもそも。やらないといけないことからして、背を向けたとて無意味だ。


 ……。彼女は気付いている。


 だから、気まずさが未だ強く漂っているのだ。


 心の奥底に沈みこませたままにしておくのは無理だ。


 彼女も言わないでいてくれているのだから、割り切るしかない。時間と慣れだけが、問題を解決してくれる。






「おにいちゃん……。おねえちゃん……。ごめんなさい」


 戻ったら幼な子に頭を下げられた。


「何を謝ることがある? 不安にさせた私たちが悪いのだ」

「そうよ。気にしないで」


 すると、幼な子の顔に元気が戻る。


「今のうちだ。あの二人が目を覚ますまでじっくり見せてくれ」


 こくん、と頷いて、幼な子が、これまでの客たちのルートと攻略の様子を次々に想起する。それを青藍経由で、少年が受け取る。


(今度こそ、上手くやってみせる!)







「目を覚ましたみたいだな。さて、気付けよ……」


 少年は神に祈るタチではないが、祈る。


 青藍も幼な子も同じく祈る。


 仕切り直し後の最大の不確定要素がここ。


 あの糞みそを無かったことにしてもらう。彼ら自身に納得して貰う。


 彼らの目の前に置いておいた置き手紙ならぬ、置き看板。


 倒れた彼らの前に置くというよりは、突き立てておいたのである。


【御二方。お気をつけください。しくじったとき、ささやかな罠が牙を剥きます。命を奪うようなものはありません。ですが、何も無いというのも駄目でしょう。具体的には世間一般的な恥ずかしい目にあいます。どちらか片方ではありません。両方が、です。同時のときもありますし、先ほどのように時間差のときもあります。酷いものを引いた場合、お節介ですが、御二方が気にしない限りは、遊覧に差支えが無いよう痕跡を消させて頂きます。要するに、安全にハプニングにあえる場としても楽しむことができます。先ほどのがハプニングの最大値とお思いください。わざと地雷を踏み抜くのも遊び方の一つですが、程々が良いでしょう。では、引き続きお楽しみください。そろそろ飽きたという場合や、御手洗いの必要に迫られた場合、御二方揃って、出たいと心の中で念じるか声を上げて頂ければ一時離脱または退場が可能です。ですので、どうか、最後まで楽しんで頂けると幸いです。クリアした暁には、パークの過去の傑作パレードを見下ろせる空中遊覧が待っていますので】


 文言を決めたのは少年。性格が出ている。説明文染みていて、ちょっとというか、結構くどい。そして長い。


 幼な子がいつも出してるという文言では、今回が異常、まず無い仕切り直しなんて事態というのもあって、却下。まだこの幼な子に、元のテンプレ文章に今回の状況に応じた文言を加える能力は残念ながらまだ無かった。青藍が加筆した文言も却下。あの鏡の迷宮の変態性癖カップルの変態プレイは、彼らが異質、変態だからこそ成立したのだ。そんなものを彼らに勧めるな! あの反応は、変態とは程遠いまともな反応だっただろうが!


 ドクンドクンドクン!


 どうなる……。どうなる……! どうなるっ!


 彼らはどうやら納得したようだ。若干というか結構な不満の色は残っているが、指差している文言終盤。本来されていないご褒美を前もってここで明かすことにしたのが活きたようだ。


「危なかった……。大事なのだよ。我慢して無事最後までいけたとして、その道中で不満を解消しきれなければ、満足度は下の下。目的は果たせない。そもそも、楽しんでもらえないといけないのだろう? この子の母親に何とか復帰して貰えれば、事態は解決する。少なくとも、次から難易度は大幅に下がるだろう。私やこのおねえちゃんの判断ではそのうちしくじる。大きく。招き入れたカップルを満足させられないで終わる時がそう遠くないうちに来る」


「ライトには言ってない小技みたいなのも結構あるわよ。ノイズにしちゃったらいけないと思って言わなかったけど。わたしたちだけでも十分いけると思うけど」


「はぁ……。不慣れだろうが! 私も君も。経験も知見も無いことに聞きかじった話だけで手を出しているという自覚が無いのか! それに、私はトラブル体質だ。……。もしかすると、君もそうじゃないかと思い始めている。……。さっきみたいのが連発で押し寄せてきてみろ。絶対手に負えんぞ! だから一刻も早く、この子の母親には復帰してもらう。肉体労働してもらうわけじゃあないんだ。指示役をやってもらうのさ。私たちは手足役に回る。ここまで言えば分かるだろうが、私たちが判断を下すのはリスクだ。それでもこの子がやるよりは幾分マシだろうからやっているだけだ」


 疲れもあってか少年は苛立っていた。彼女も消耗しているということに気づけない。もっと物分かりの良い女と思っていたというのもあるが、その為に彼女がとっていた手段が本来嫌いな力の行使の結果によるものであったということに少年は思い至れない。


 少年には、女心に関する経験があまりに足りないのだから。少年自身も無意識ではあるが薄々気づいているからこそ、肉体の反応に焦りを感じているのである。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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