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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~輪転白馬に跨って~ Ⅲ

 窓の外に再度見えてきた城。


 空に浮かぶ、城、と思っていたが、微妙に違うらしい。


 円形に切り取られた蜃気楼のように、城の一部がこの空に現出しているのだ。時間ごとに見える箇所が異なっているのに加え、見る個々に応じて見える光景も違う。城の光景が途切れるのは調整の為の時間か? だが、それはあまりに手間を掛け過ぎている気がするが……。


 尤も、金銭で完結していないのだ。係員たちがどういった形で糧を得ているかを考えてみれば、それでも収支に問題は無いのだろう。


「視界に収まるのは、仕様だったという訳か。楕円形の縁取りに入った写真のように。そしてその外側は何も無い」


「面白い使い方よね」


「?」


「多分だけど、見えてない部分の方がずっと大きいのよ。そういう絡繰り。空間魔法ね。城自体も宙に無いのよ。使えさえするなら、浮かべるよりずっと低コストで、現実的。何より安全、よね。落ちる、なんてことは無いのだから。魔法が途切れたら、この場所へ開いた口が閉じて、空間の歪みが消えるだけ。とっても安全だし、普通に浮かべるよりもずっと神秘的」


 彼女は言いたいことをそのまま口にしている。こちらを読んでの言葉では微塵も無い。だからか、遣り取りはちぐはぐで。けれども、それが心地悪くは思えないのは不思議なものだ。


「そういう使い方もできるのか。君がそういう使い方をしているのは見たことが無いが」


「わたしの場合、もっぱら、一人で閉じこもりたいときくらいしか使わないもの。最近は使うこと自体減ってるけど」


 と、少年の方を見て彼女は微笑む。


「あの中にずっといられたら、呼びにいけないから助かるといえば助かるが」


「合鍵、渡そっか?」


「えっ?」


「えっって……。そりゃそうでしょ。緊急時どうするのよ。師匠に言われてわたしが最初に習ったのは、自分の世界の鍵と扉の作り方よ」






 ガコンッ!


 馬車が止まった。地面に降り立った、ということだ。


 まるで気付かなかった。いつの間に、と思わざるを得なかったが、よくよく考えてみると、見えてみるもの全て、現実に存在しているその通りの形では無いのだ。


 魅せるためにゆがめられている。


 距離も。形も。


 ここは楽しませるために、楽しんで代償を望む形で払って貰えるように、敢えてそうしているのだ。客側も、大半が恐らく無意識にそれを受け入れている。


「ライト。ねぇ、ライト!」


「あ……、あぁ……。少し考え込んでいた……」


「鍵のこと……?」


「このパークの仕組みについてさ。頭がこんがらがっていて、君の話はやはり、夜にゆっくり、とさせて欲しい。先ほどのこともあって、考えることを止めるのが怖い。だが、考えていては、楽しめない……」


「じゃ、楽しみましょ。ライトが何とかできないときは、わたしもライトと一緒に困ってあげるわ」


 彼女に差し出された手を掴み、彼女に先導されて、外に出た。


 そこは、やけに明るげな月明かりの差し込む、城の入口だった。扉はやけに巨大だ。それこそ、巨人でも出入りするのか? という位に。


 全長数十メートル、で済むだろうか? 扉自体は消滅しているように見える。


 背後、外。雲海が広がっている。


 それが全て。見渡しても、月そのものも、他の馬車の影も、浮き島の類も、ありはしない。


 前を向くと、早く早く、と自分を待つ彼女と、馬車。とはいっても、白い馬の姿は無い。


 その先には、闇が続いている。だが、進む先はその方向しか無さそうである。


 見上げても、遥か高く、僅かに霞んで見えるアーチ状の天井。足元を見ても、何の導線も無い。線も引いてないし、数多の人々が通ったことによる擦り切れも無い。


「早く早く~」


 ぴょんぴょんとかわいらしく跳ねて、暇を体現する彼女を見て、見習わなくてはな、と思ったり思わなかったり。


 彼女と共に、奥へと進んでいった。






「っ!」


 突然のそれに、少年は隣の彼女の手を咄嗟に掴んで、引っ張って、引き寄せた。


 急に何するの、と、割と本気の怒りを表情を無言で向ける彼女に、少年は指差す。前を。


 彼女は首をくいっと、後ろへ傾けて、逆さまに、少年の指す先を見た。彼女の表情が消えてゆく。


 看板、である。打ち立てられた、木の看板。雑ではあるが、ずっしりした感じの。頭でもぶつけでもしたら、とても痛そうな感じの。


「分かって、くれたか……?」


「気を張るな、なんてもう言えなくなったわね……」


 すっ、と彼女は消えて、少年の手から離れ、地面に降り立った。


 彼女が看板を読み上げる。既に少年はその目で、看板の内容を把握した後であったが。


「ええと。『いらっしゃいませ、どうぞごゆりると。まずは御安心ください。ここはパーク開園時から存在する、由緒正しく、安全が担保されたアトラクションです。入れ替わりの激しい当パークにおいて、存続し続けていることがその証拠となります。ですからどうか、まっすぐお進みください』、だって」


 と、彼女が、苦そうな顔で、んな訳ないよね、と言外に言ってくる。


「とはいえ、進まざるを得ないだろう? 辿って来た道も見た通りではないのだから。それに、この下手糞具合だとかえって安心できる、とも言えないか?」


 だから、素直に、消極的ではあるが従おうと遠回しに意思表示する。


 どちらもちぐはぐ。振り回されているのは何も少年だけではないのだから。程度も具合も少年の方がだいぶ酷いとはいえ、彼女も十分に事態に引き摺り回されている、といえる。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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