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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~キャッスルアドベンチャー・ライト・レイ~ Ⅺ

青藍せいらんっ!」


 その声はカラカラに乾き、かすれていた。


「ライト……」


 魔法にかけられた彼女は、安堵の表情を浮かべながら、半べそをかきながら、振り返る。


「あぁ。何か、いるな。このアトラクションを担当する係員だろう。ゴールという訳か。……。どうして、そんなに怖がっているんだ? まさか、何かされたか!」


 少年から、圧が、飛ぶ。


 殺気交じりの、鋭く重い、一方的で圧倒的な圧が。


 コツッ! コツッ!


 ボウボゥボゥボゥ――!


 燭台に火が灯り、それは、姿を現した。


 頭が林檎りんごの人外。やけに高そうな服装でありながら、センスが無い。白い襟巻えりまきのような襟元えりもとから、のどを貫く風穴に、露出する首の肌の樹皮染みた見掛け。


(甘かったのか……? 誰も彼もが真面目に仕事をしているとは限らない、ということか)


「おや? 恐怖しておらぬ。本当に効かぬのか。この手の魔法が。魔女の魔法だというのに」


「彼女に手を出したようだな。幻影を植え付けた、というところか」


 少年は剣を喚んだ。


「聖騎士の……剣……?」


「魔法を斬る力を持つ。私の技量と併わせ、貴様のまやかしのみを切断する! その後は貴様だ!」


かすれたのどすごむものではないぞ? 気づいておろう。我が背…―」


「行け! 青藍せいらんっっっ! 真っすぐ下れ! 穴は空けた!」


 圧の質が変わる。


「何をそんなに苛立いらだっている? 落ち着いて振り返ってみるといい。不快ではあっただろうが、危険は無かっただろう?」


林檎頭の人外は、退かず、恐れも怯えもせず、机の上の水晶玉を手に取り、少年が虱潰しらみつぶしの部屋探索をしている様子や、悪臭や触手を相手に彼女と共に戦う様子などを映し出した。


(よく……言う……。見ていのだろう……? 仕込んたのは貴様に他ならない……)


 大木が割れ裂ける音とともに、踏み込んだのも降ったもの見えない、深い深い斬り上げる斬撃の衝突と破裂の音が、振り終わって姿と剣が現れたところで、鳴り響いた。


 封印の林檎りんごが、少年を覆いながら。


 弾け――飛んだ!


 光と熱。紫電と煙。


 収束。硝子。管。針。居貫く一撃。


【光輝百斂(ひゃくれん)・発】


 林檎頭りんごあたまの腹を貫き、砕け、炸裂する、閃光と熱波。周囲の壁や天井ごと、吹き飛び、光がたちのぼる。


 少年の身体は、高く罅割れる音を鳴らしながら、その全身から、硝子結晶が析出する。それだけではない。莫大な魔力の一瞬での消耗により力が抜ける体を、踏みとどまらせ、立つ。構えた剣を、落とさない。


(……。あのいけ好かない男の言う通り……、確かに強力……。とはいえ、未だ、上手く扱えるには時間が必要か……)


 止まらない。


 踏み出し、踏み台にし、跳ぶ。


 頭上に迫っていた、数多の、人間大の、茶色の繊維ばった、種子の暴威。雨あられと埋め尽くすように降ってくるそれは、岩雪崩れよりもえげつない。


 鎧を喚び、剣と、腕でいなしながら、それらを踏み台に、時に間を這うように、時に弾いて抉じ開けるように、抜けて、昇ってゆく。


 異様な程に、濃い空気に、一瞬、意識を失いそうになるが、そんな少年の周りに、現れる。少年から光のぶつてとして表れて、形になるのがそれら。次々に現れるそれら。『光魔』と呼ばれるそれら。


 それらが、少年の背を、手足を、支え、上へと押し上げる。散り、光の粒子となって、少年の身体に吸収されてゆく。


 うねるようにぐにゃる視界と、逆流した魔力により内から弾けそうな吐き気を催すも、血走った目で、見上げた。


(魔女……。貴様らが青藍せいらんに何をしたか。抽出し、もし、もしも、許せないようなことをやっていたのならば、その時は本当に、断末魔をあげさせてくれる……)


【雷鳴剣】


 雷が、その身に、落ちた。


 明らかに異常な憤怒。系統に加え、趣すら違う新たな魔法。


 思い出して欲しい。


 少年と彼女が分断された後、水晶での監視が外れた時があったことを。


 その前後で、少年ののどれたことを。


 命の危険は、あった。


 彼らの伺い知らぬところで。少年だけが、味わって、死線を抜けてきた。


 それ故の、明らかに位階の異なる、強烈な魔法。






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 城の外。先ほどまでいたであろう上を見た。


 派手に吹き飛んで、光の柱が上がるのが見えた。


「ライト……。っ……!」


 青藍の足首、そして、胴へ。地面から突如生えて巻き付いてきた、つた


 そして、地面からうにょっっ、と生えてくる。土煙を起こして。


 浮かび上がった人のシルエット。


「ごめんねぇ。こんなことになっちゃって」


 砂煙から出てきたのは、首から下は恐らく人間で、首から上が林檎りんごな、やけに高そうな偉そうな衣装なのに、センスが酷い、林檎頭の人外。下の白タイツなんて最悪もいいとこだ。


「あ、これ返しておくね」


 と、彼女の頭に触れた、白い手袋に覆われた手から、緑の光が露光する。


「っ! さっきの!」


「ああ。そうだよ。綺麗に戻ったっぽいね」


 と、つたによる拘束は解かれた。


「ところで、寄らなくて大丈夫? やるつもりなら上に送るくらいならやるけれど。あ、僕は参加しないよ。妻くらいになると全力を出せる機会なんて滅多に無いし。言った通り、妻のガス抜きの為というのがメインの目的だったからね。願っても叶わない大目的が何故か先に叶っちゃったけど」


「よく分からないんですが、ライト、あんなには強くなかった筈なんです……。明らかに、おかしいです……。ただ怒っているだけじゃあ、ああはならない……。だって、ライトが前暴走した時でも、あんなには……」


「うぅん。彼、確か、あの光の柱をあげる前にさ。妙な反応を見せたんだ。僕はこう言った。『何をそんなに苛立っている? 落ち着いて振り返ってみるといい。不快ではあっただろうが、危険は無かっただろう?』って。すると、彼は抑制を止めて、剣を振るって、あの光の柱の魔法を放った。よくよく考えるとさ、彼の前職からして、ただ叫び続けた程度、それも一日にも満たないたったあれだけの時間で、喉が枯れるなんて、おかしな話なんだよ。ああ、声の再生は切っていたからね。でも、記録はされていたし、別に再生しなくとも僕は読み取れるから。上手くいくか分からないけど、探って、みる? あ、別に何か払えとか言わないよ。どうせやるんだし、君が一緒に見ようが見なかろうがやることに変わりはないからね」


 そうして、石畳の上に置かれた水晶。固い石畳の上に躊躇ちゅうちょなく座る二人。その水晶の中で形になり始めた光景に目を向けた。


 ここでは無い何処か。


 そして、少年と、現れたもう一人。


「ば……馬鹿な……。せ……先生……」


 男はその人物を知っているようだった。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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