デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~キャッスルアドベンチャー・ライト・レイ~ Ⅷ
調和していない色の座に座っている二人。このアトラクションの主である二人は、向かい合って座る一人を見ている。片方は顔なんてものは無いが、身体を向けているのだ。相手の方を向いている、といっていい。顔があるもう片方である女は、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
机が、置かれている。膝丈未満な低い机だ。椅子の座高よりは間違いなく低い。
そんな二人の相手は、椅子に座っている。それは彼女の持ち込みだ。
水晶玉が置かれている。
映っているのは、ドアを蹴り抜く少年の姿。
つまり、彼女というのは――
「どうして彼だけ泳がせてるのかな? ボクだけこんなところに招いて」
青藍である。心を閉じた外向けの。
「それはねぇ…―」
女の口を、林檎頭が塞いだ。
「我が妻は見ての通り悪趣味でね。故に私が話そう」
そう言われて、青藍は密かに浮かせていた腰を椅子に預けた。
「彼の出鱈目さにも目を見張るものはあるが、君はそれ以上に滅茶苦茶だからさ。何せ、『魔女』、だろう?」
「それがどうしたっていうんだい? 彼は知ってるよ」
「我が妻も魔女なのだよ。力は弱いが。っ! ……」
ポタッ、ポタッ。
白い手袋を赤く染める、血。
林檎頭の、妻の口を押えていた手が、噛まれたのだった。外ならぬ妻に。
「あぁ、美味しい。林檎の味がするのよ」
「それが?」
「まあ嘘だけど。血の味よ。初めてのキスと時から変わらない味。あぁ、唾液が足りないわねぇ。でも、お口は無いしぃ、どうしようかしら」
「その人のそれ、貴方の呪い? 腐ってるわね、貴方。性根が」
「ふふ。あはは。そんなわたしが善いんですって。彼って物好きなのよ? だって、こうしてくれって彼が言ったんですもの」
ぞくり。
背筋に冷たいものが走った。
心底気持ち悪いものを見たように感じたから。けれども同時に分かるのだ。そのどうしようもなさは、自分の中にも、流れているのだということに。
「まぁ、お子ちゃまねぇ。ま、ちんちくりんだし。彼、貴方にたむぐぅぅ…―」
「止めないかっ! どっちも未だ子供じゃないか!」
ブゥゥンンン!
大きな林檎が、女を覆い、隠した。ごろごろごろろ、と揺らしたダルマのように揺れるが、やがて、動かなくなる。声も聞こえてこない。
「役割に興じるつもりではあったが、もう駄目だなこれでは。大人になったとて、その心も大人であるとは限らないのというのは何ともやるせないものだ。……というか、君、林檎が口もなく念話でもなく、喋ってるってことにまるで動じないね」
「まあ、慣れていますので……」
拒絶一辺倒な他人行儀は外れ、他人向けの丁寧なニュートラルな口調に戻った青藍はそう、疲れた調子で答える。
「途中回収の権限は妻が持っているから使えないんだ。見て分かる通り、命に係わるどころか、怪我もだいぶ遠い程度に安全にしてある。精神にくる系の罠になるよう、騙し騙し抑えたからね。彼がここにやってくるまでの間、少し、話でもしようか。テーマは、魔女との恋愛、なんてのは如何だろうか? 参考になるかは分からないけれど……」
そうやって、隣の巨大林檎を、近くで、遠い目で見ているように見える顔なんてない林檎というよく分からない絵面は何とも人間らしさ皆無ではあるが。そんなでも成立してしまえば続いてしまえるのだとも思わせてくれる。
「お願いします」
「ちょっと、待っててね。アップルティーでも入れてくるよ。はは、私自身を絞ったりなんてしないよ。ちゃんと、茶葉から淹れるから。好きなんだ。林檎が。だから、折角だし、こうしてもらったのさ」
そんな風にほんわりとした物言いで、ほんわりとしたことを言われ、林檎頭は背を向けて奥へと消えてゆく。
(『折角だし、こうしもらったのさ』って……。何がどうなれば、そういうことになるのよ……)
まるで理解できない青藍であった。




