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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~キャッスルアドベンチャー・ライト・レイ~ Ⅶ

 闇を抜けると、薄暗い廊下ろうかだった。


 左側の壁面。青紫掛かった光が、半透明な花びら硝子窓から差し込む。赤い絨毯じゅうたんに掛かる光は不気味に歪む。そんなものが、等間隔に並んでいる。


 肌寒い。


 薄暗い。


 窓から指すそれだけが、灯。


 流石に今度は一本道、ではないだろう。


 右には扉がある。札があるが、かすれて見えない。数字か? と思い、指でなぞるが、残念ながら、堀りは無い。残った黒いかすれだけでは、本来記載されていたであろう桁数すら判別できない。


 彼女は見当たらない。気配も。魔力の残滓ざんしも。


 すぅぅぅ、


青藍せいらんんんんんんんん!」


 叫びはかえってこない。返答も返ってこない。


「分断された、ということか……?」


 すんすん。


 自身のひじの内側の臭いをかいだ。


 汗の臭いしかしない。泥ヘドロの臭いはどこへいったのやら。


 自身のてのひらを見た。


 くるりとひっくり返し、その甲で、


 ゴォン!


 自身の額をしばいた。


 後ろを見た。


 通ってきたはずの道は無く、先ほど見ていた方向と同じように、果て無く廊下ろうかが続いている。


 はっとする。棒の回収を忘れていた、と。


 が、


 カランカラン!


 それぞれ青と黄の棒が、懐から零れ落ちて転がった。


 掌の上でもてあそばれているような心地である。懐ではなく、腰に挟み入れた。落ちない、けれども必要なら抜けるように。


 息を吐きながら肩から力を抜き、剣を喚んだ。地面に突き立て、円形状に、えぐる。片足で、り抜いた。


 闇が――広がっている。いつまで待っても、衝突音は聞こえてこない。


 のぞき込もうと、ひざをつこうとすると、穴は消えた。何事も無かったかのように元通り、足を乗せてみても、幻影ではない。実体がある。つまり、ふさがっている。


 立ち上がり、左壁面上から下までに及ぶ花びら窓に顔を近づける。


 自分の姿が映るだけだった。


 扉へ向かい、る!


 あっけない位軽々と、扉は吹き飛んでゆく。部屋の中、壁面にぶち当たり、砕けた。中は見えない。


 抜いた。黄色い棒。もう片手には剣を持ったまま。


 照らす。


 何だか、埃臭ほこりくさく、湿気ている。そして、冷たい。外気による冷却ではなく、明らかに意図的に冷やされている。そんな風な不自然な寒さ。


 踏み入れ、吐いた息は、白く見えた。


 足裏が凍るような感覚は無い。


 息を吸うも、ただ冷たいだけで、凍り付くような痛さは生じない。


 ドアから続く通路。右と正面の分岐。右を照らす。扉がある。ただのトイレであった。その中は、部屋の外と同程度の気温という体感。臭いは無い。カビ臭さも無い。埃臭ほこりくささも無い。


 少し考え、扉を閉めた。もがなかった。


(逃げる先としては悪手ではあるが、一時凌いちじしのぎと考えるとアリといえばアリだ。何も、扉から出ようとせずともいい。壁をぶちぬいてやれば問題無いだろう。廊下側ろうかがわへ出る以外の選択肢もある。どうせ隣も、同じように部屋だろうし)


 残された正面方向へ進むと、ベッドがある。


 何ともふかふかそうなクイーンサイズのベッドだ。それだけしかない。


 手入れされている。恐らく、ベッドメイクされてから、一度も使われていない。


 部屋には、窓も飾り付けも無い。ベッドの向こう側には、砕けた扉の残骸ざんがいが散らばっている。


 ぞくっ……。


 僅かな違和感。


 肌に感じた、何か。


 先ほどのフラッシュバックかと思いつつも、少年は、感じた瞬間に、後ろに素早くステップしながら、後ろに向けて、剣を縦に振る。


 空を切る。


 ぞわっと、噴き出してきた冷や汗。恐る恐る振り向いた。


 何も無い。


 ふぅ、とため息を吐きながら、その部屋を後にしようとすると――


 ぞくり……。


 びくっ、となった。背筋をなぞるような、小さな、ナニカ。冷たい。冷たい……。冷たい…………。質量がある。確かに、それは、触れている。離れ、ない……。


 かっ、と目を見開いて、振り返って、


 顔が……あった……。


 彼女の……顔が……。


 青緑っぽく、黄ばんで、ぼろっと、その微笑みを浮かべようとしたほほが、垂れ、落ちた。


 べとり。


 ねっとりとした、糸を引いて……。


(……。死体何ぞ、見慣れている……。特徴を強調しただけの偽物だ。人間の身体というのは袋だ。本物の腐乱死体を見たとき、私はそう結論づけた。この程度の冷却では足りぬ。抑えきれぬ。生によって抑制されていた自壊。程遠い)


 剣の腹で、ぎ上げるように、吹き飛ばした。ぶちゅっ、と壁に張り付くように潰れて、滴り、滑り、落ちた。


(頭は冷えた。肝試しのつもりだったのだろう。怒号や絶叫にも納得がいく。しかし下手。あまりに杜撰ずさん。……。まあ、そうか。人間の姿を保っていない腐乱ふらん死体何ぞ、そうそう見る機会も無いか。魔法使いなんて温存されがちな守られた存在ならば益々。一部の例外以外。多分、あの四人の大人たちも例外側だろう。人外にとってはどうだろうか? 考えようが、答えは出ないか)


青藍せいらんっ! 青藍せいらんっ! いるかぁぁぁ? いたら、返事をしてくれぇぇぇ!」


 気だるげでありながら、大きな声で、そう呼びかけながら、少年は虱潰しらみつぶしな探索を始めた。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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