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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~キャッスルアドベンチャー・ライト・レイ~ Ⅴ

「まさか、同じ流れをもう一回なぞることになるのだろうか……?」


「流石にそれは無いで…―」


「危ない!」


 と、彼女を片手で突き飛ばすように制止した少年。彼女の方へ顔を向けた。


 少年の鼻筋に、血色の線、にじこぼれ出――さない。


 尻餅をついて、少年を見上げる、彼女の一言。


「……。切れ――て、ない……?」


 少年は、今自身が凝視してしまっている光景から焦点をずらし、手ではなく、棒の先端で、その痕跡に触れる。


 ねとっ。


 赤い、ねばっとした、何か。


「何、だと思う……? 無臭で、わずかに、冷たい……」


 と、目線を更に落とし、視界の上の端が、彼女の靴と絨毯じゅうたんで視界が収まる範囲に外す。


「分かりやすく、臭かったり、煙上がったりしたら分かり易かったでしょうけど……。そうなってたらなってたで嫌」


 と、彼女は立ち上がる。


 むすっとしている。怒っているという程ではない。そんな彼女の表情に、少年は戸惑う。


「すまない……。急に突き飛ばして……」


 彼女は頭空っぽとは程遠い。突き飛ばした理由も、わざわざ言葉にせずとも、読ませずとも、納得してくれる筈だ。


「そうじゃないわ。何で目を逸らしたの? しっかり見てた癖に。わたし、ライトになら…―」


 と、スカートの裾を掴もうした彼女の手を掴み、引っ張り上げた。つねるように、引き寄せる。


「私は、時間をくれ、と言った。それに何より、見られていることを忘れるな」


「痛いわ……」


「痛くしている」


「今更じゃない」


「そこで止まるとは思えない。君の身体は反応しようが、私の身体は反応しない。未熟故に。言わせるなこんなことを。自分が情けなくなる……」


 口にするどころか、心の深くに沈めていたこと。口にしてしまった。


「ごめん……なさい……」


「このなりで本当にガキだなんて悪い冗談だよな……。だが、もう少しだろうさ。気持ちに体が追いつくまで。そうなったらなったで、また怖いがな。しみったれるのはやめにしよう。棒振りしながら進んでいけば罠に掛かるのは棒だけで済む」


 と、少年は彼女に空いた手を差し出して促す。


「そうね」


 と、調子の戻った彼女が、その手を握る。


「いや……。何色でもいいから、棒を頼めるか?」


「あ……。そういうことね。はは……。あはは……。はいっ、これ」


 と、彼女は自身が持っていた青い棒を少年に手渡すのだった。







 バシバシバシバシ――


 バシバシバシャバシャ――


 二人はそれぞれ、棒二刀流で、ぶわんぶわん振り回していた。


 事前に認知もできず、当たれば、それらは現れる。ただのねばっとした少量の液体、ではない。


 棒が当たって反応するのは、何も、糸のような線と、その中身であるねばっとした色のついた無臭の何かだけではない。


 彩どり鮮やかというか、彩り汚い、泥やヘドロや生ゴミ、つまり、下水道の臭いのする、ぷくんとした、人間大の玉や、半分溶けたような、ヒトガタであったり。


 しかもそれらが、動き出して、気持ち悪く、悪臭撒き散らし、糸引きながら、むわんと、襲い掛かってくるのだ。


 魔力は感じられず、だが確かに存在し、触れたくも無い存在たち。


 少年は触れられる前に対処できているが、彼女はもう酷かった。


 触れられまくっている。掴まれまくっている。不機嫌になった彼女から漏れ出す魔力が、遅れてそれらを消滅させてゆく。しかし、消滅させきる前に、それらは分離し、分裂し、数を増やしつつ、膨れ上がる。


 少年は声をあげない。


 彼女も声をあげない。


 声が出ないのである。


 それは、漂う悪臭を含む空気のせい。魔法ではないのだろう。魔法であれば、魔法使いである二人は抵抗できる。少年は未だしも、膨大で、強烈な魔力を持つ彼女なら、この手の影響は及ばない筈。


 しかし、実際には及んでいる。


 数が多すぎて、少年だけで処理するのは無理。何故か、自分たちの魔法は碌に形にならない始末。ある意味、初動でしくじったが故の苦難。


 しかも、死ぬとか痛めつけられるとかといったのとは違う、嫌がらせの類にしか感じられない。まるでこれでは、苛立いらだたせるための、アトラクション未満のドブ。


 少年も彼女も、諦めて、目線を交わしたっきり、背を向け、互いの動きを阻害しない程度近づきやって、互いに背中を預け、しのいでいる。


 集まってくるように、押し寄せてくるように、棒は新たに、別の起爆線を引いたかのように、新たなヘドロなヒトガタなナニカが現れる上、線は、ねばついた液体の噴射として飛んでくる。顔に掛かるが、目、鼻、口に掛からぬように避ける彼女。少年は避け切れていて、それには慣れてきていたが、彼女の方とは違って、明らかに少年の方に、迫りのびてくる触手は増えてきている。


 彼女の方はヒトガタばかり。少年の方は、それ以外の、手数の多そうなものが混じり始めている。


(息は不思議とあがらない。聞こえてくる音からして、青藍もまだ平気そうだ。しかし、妙ではある。こいつらには重さがある。発生したガスも相当な量の筈。だが、空気が薄くなっている訳ではない。これはこれで不気味だが、それより、棒が……熱を持ち始めている……。きしんではいないが……。なら、熱は何処から? しばいた相手から、か……?)


 少年は鎧を喚べない。自分だけ身を守る訳にはいかない。くそったれではあるが、これは所詮しょせん御遊び。悪趣味な御遊び。だからこそ理解は得られず、彼女の機嫌がまた悪くなるという分かり切った結果しか見えない。


(……。剣だけ、ならいいのでは?)


 固くなっていた頭から捻り出された気づき。


 片手の棒を、もう片手に移す。そのデカい手は、二本持っても落とさない余裕がある。


(それに、本当に魔法で無い、かどうか、これで分かる。魔法であることを隠した魔法か、魔法ではない種も仕掛けもある何かか。そもそも、こんな使い勝手の悪い、武器未満な棒で戦うなんて何間抜けなことをやっているのだ私は。こいつは、魔法の影響を受けない! こいつだけは、確実に出せるし、阻害なんてされる筈が無い!)

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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