デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~キャッスルアドベンチャー・ライト・レイ~ Ⅳ
調和していない色の座に座っている二人。このアトラクションの主である二人は、何もしていない。ただじっと座っている。座っている……。
カツカツカツ、カツカツカツッ!
妻の方は既に痺れを切らそうとしている。別に靴の踵は尖ってもいないのに、無駄に大きな音が鳴っている。
「我が妻よ。彼らは魔法使いにしては忍耐を持ち合わせているようだ。悪いことでは無いと思うが」
「癇癪起こしてくれないと罠が牙を剥かないでしょ! わたしはねぇ、無様に長いこと足掻くサマを見たいのよ。いつも偉そうぶってる奴らの、知恵者の仮面が外れた酷い面を嗤ってやりたいだけだから。安定してちゃあ、つまんない」
「趣味が悪いと思うぞ」
「よぉく知ってるでしょ? この物好きめ」
「メイドの服装したって、おしとやかにはならぬわなぁ……。はぁ……」
「あなただって、ノリノリで罠仕掛けてくれたじゃない? それも、落ち着きを失くせば失くす程酷い目に遭う意地汚いのを」
「楽しんでこその休暇だろう?」
「あなたのそういうところ、わたし、大好きよ」
夫はそうやって、妻の機嫌をとっていたのだった。
「わたし思うのよ。ここの管理者、きっと、性格悪いわ」
「違いないだろうな」
彼女が自身の空間から出した椅子、二脚。元からある机の前に、隣り合って並べ、座って、少年と彼女は話し合っている。
「だからさ。多分、今のわたしたちを見下ろして、嘲笑ってるんじゃないかなって思うの」
「おいおい……。仮にもここはアトラクションの一つ。人であらざる者でありながら、おもてなしのプロである彼らが、そんな糞みたいな思考持ち合わせているとは考えにくいが。考えてみろ。魔法使いなんてものばっかりが客なのだぞ? そんな獅子身中の虫何ぞ置いておく訳無いではないか」
「設計だけやって終わり、運用には関わっていない、っていうのならありそうかなって。だって、おもてなしの心だけで作ってたら、提供できないものがどうしても出てきてしまうと思うの」
「そういうものなのだろうか? 何というか、私にとって未知の世界だ。何でもありに思える位、何も分からん……。空回りしている実感が拭えないのだ……。根本から間違っているような……。とはいえ、戦闘でも謀略の場でも無いのだ。私の勘はそう宛てにはならないだろう」
「押し通してみる? それこそ、力で」
「鏡の迷宮での私のやらかしを忘れたか?」
「じゃあ、またやる? おでこごつごつ」
「……。この棒の、先を照らす以外の使い方を探そう」
「振り出しに戻るって訳ね」
「そもそも、最初の一歩を踏み出せていたかも怪しいが」
コツンッ。
「いてっ……」
「ひねくれないの」
彼女が少年を小突いた青緑の棒を光らせながら、ぷくっとして、そして笑った。
「っ! それ!」
と、少年は目を見開いて、それを指差す。その方向を彼女は目で追う。自身が持っている棒。何故か光の色が変わっていることに気付いた。
「っ! でも、何で?」
「私をしばいたから? だろうな」
「う~ん。ライト。もう一回小突くね」
トンッ!
「濃くなったな。緑に近づいた。これか? しかし、これをどう使う? そもそも、この謎解きの鍵であるのかこれは?」
「もう、試してみるしかないでしょ。煮詰まった訳なのだし」
と、彼女は立ち上がり、階段を昇ってゆく。行き止まりである壁の前で、その棒で、壁をしばい…―バランスを崩して、前のめりに倒れた。
カララララッ、ドッ!
棒を地面に転がして、四つん這いになって、尻を向けて。戸惑っているのか、彼女は動かない。少年は素早く階段を駆け上ってゆき、彼女の前へ回り込む。しゃがみ、
「大丈夫か?」
と、心配そうに言う。
「ええ。これ考えたヤツ、馬鹿なんじゃないの……?」
と、彼女は立ち上がり、
「何なのよ、これっ!」
ガシガシッ、と地団駄を踏む。棒は踏まない辺り、まだまだ冷静。それでも、思索が未だ未だ必要であるが故のガス抜きだろう、と少年は彼女を測っていた。
彼女の足が止まって、フンッ、と腕組みして不機嫌そうにしたところで、
「進もう。きっと未だ先は長い」
そう、彼女の肩を優しく叩き、少年は先導する。棒を若干下向きに持って、前へ突き出し、足元と前方を照らしつつ、進む。
すぐさま、後ろから、黄緑な光が照射されてくる。
「ん? 薄くなってないか?」
「そうね」
「突き当りか。右に曲がるぞ」
少年はそう言って、曲がっていった。
道幅は、そう広くはない。二人並ぶときつい位。それを把握して、二人とも、並ぼうとはせず、少年が引き続き先導し、彼女がついていきながら、照射の補助をするという形で進んでゆく。
「ねぇライト」
「どうした?」
「これ何なのかしらね」
「これとは?」
「この通路? よ。曲がり角はあるけど、分かれ道なんて全くないし、落とし穴とかも無いじゃない」
「力押しで進ませて、頭ガンガンぶつけながら進む愚か者のさまをそれなりの尺で嘲笑ってやるためのものではないのか?」
「ひょっとしてだが、ここ作った奴、何も考えてなかったんじゃないか?」
「そんな馬鹿な……」
「私もそう思う。思うのだが……。陳腐過ぎる。幼稚過ぎる。単純すぎる。楽しませるための作りをしていない……。まだ序盤も序盤だとは思うが、仕掛けにバリエーションが無さ過ぎる。というか、仕掛けといえるものが無い……」
「不人気なのも納得ね……」
そうして、やがて通路を抜けた。迷路ですら無かった。ただ薄暗いだけで、うんざりする程度には長さがあったくらい。
そうして――
「……何で、また全く同じ部屋なんだ……?」
「後ろが扉じゃないことと、机が無いことくらいよね……。同じ作りの違う部屋よ。だって、下に、椅子の気配残ってるし」
「そういう効果あったのか?」
「残滓がこびりついてるから。長いことわたしの空間に入れてたからね」
「そうか。なら、出るときに回収忘れないようにしとかないとな」




