デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス 顛末 膨れ上がった権利~ Ⅵ
【専属応対人契約】
【 ―― 『 ウィル・オ・ライト 』『 青藍 』】
【・本契約は、契約文言を、契約者全てと専属応対人が名前を刻むことで、内容を固定します。】
【・本契約は、専属応対人の名前の上に、契約者連名での一つの呼び名を刻むことで、締結とさせて頂きます。】
【・専属応対人に、契約者は、精気を支払います。但し、ここでの精気は物理的生成物を指しません。双方向の愛欲という精神的生成物の残滓を指します。これによる感情、欲への影響はありません。最低要求量も最低頻度も指定しません。発生した分全て、回収させて頂きます。】
【・契約者の組み合わせが記載の二者から変更された場合、契約は破棄されます。但し、組み合わせが元に戻った際、契約は再締結されます。】
【・世界『始まりの園』以外の世界を外界とします。外界に於いて、契約者は、専属応対人による、以下の補助を受けることができます。『引き出し収納自在の空間倉庫』『言伝の送受信サービス』『専属応対人の技能、権限、権能によるありとあらゆる援助(要・対価)』】
「以上で、宜しいでしょうか?」
「ああ」
「今更だけど、ライトは何も要求しなくてよかったの?」
「私は既に貰ったからな。小さな気づきさ。しかし、私にとっては大切なものだ」
「ふぅん」
「それに、私たちが名を記し終えた時点で、もう文言は追加も変更も削除もできなくなったのだから」
「分かってるわよ。心の準備できてるのかなって。だってライト何だかいつもと違って、不安そうだったから……」
「今もそう見えるか?」
「大丈夫そう。だから止めなったでしょ? 名前書くの」
「後は、そちらの呼び名を何とか考える。考えてみるが……、あまり変なのに思えたなら、ストップを掛けて貰えるか? 再度考え直すから」
「パークにいる間に決めますので、お願いします。それと、他の人からの申し出止めておくことって、可能でしょうか」
「希望されるのでしたら可能です。ありがとうございます! もし、契約を結ばず終わることになっても、お友達にさせていただければ幸いです!」
と、差し出された棒のような手。彼女の方に。
彼女は嬉しそうにそれを握った。
これだけでも、この場に座ったことに価値があったと、心底思え、しみじみとする少年。
「こんなではありますが、宜しくやっていただけるとありがたいです」
そう、夫の方も彼女に言う。
その様子を、少年は微笑ましく眺めていた。
「御客様。わたくしから貴方様にこれを」
「妻がすっかり忘れてしまっているみたいですので。膨れに膨れた貴方様に集約された権利について、です。パークにおける契約者様方や協力者様への報酬は、大概はパークのその方面の人員の権能によって支払われるのですが、権利が莫大なものになってしまった場合に限り、支配人によって支払われることになっているのです。今しがた継ぎ足したわたくしからのお礼も含め、そのラインに達しました。千切ると、支配人の部屋行きです。なお、使い忘れてこの界から出た場合、自動的に千切れて引き寄せられるので、ご注意ください。その場合も時間の心配は皆無と言っておきましょう」
「透明だな。輝きすらしない。さらっとした手触りだけが存在する。落としたらどうしようもなくなりそうだな……」
「問題ありませんよ。落ちませんので」
「ほぅ。指先から離れない。しかし、掴める。成程、どっかにくっつけたら手は離せる。くっつけた場所に残ったまま。摘まんだら、剥がせる。だが、気持ち悪い……。どこに貼っておくべきか……」
「肩とかいかがです? あ、後ろはやめといたほうが。前側に。そこなら、すくに、手にしようとしたら手にできるでしょう?」
少年はそうして、透明なそれを左肩前側に貼った。
「現状、権利を一つの形で行使するのであれば、時を遡る行為でなければ、殆ど何でも叶う、とお思いください。とはいえ、何事も例外というものは付き物ですので、縋るほど切羽詰まらないように気をつけてくださいね。辿ってきた道からして、貴方は恐らく大丈夫でしょうが……」
「私が死んだら彼女に権利は移行する、ということか?」
「そういうつもりで言ったのではありませんが……。移行するっちゃ、しますね。契約も含め、時間の許す限り、ゆっくり考えることをお勧めします。少しでも迷いがあれば、今はその時ではない、ということです。また、複数に分けて使うこともお勧めしません」
「説明感謝する。青藍。もういいぞ。行こうか」
そうして二人はそこを後にした。
デートの時間に戻ったのである。
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「よく我慢しましたね」
「あんないい子たち、贄になんて、したくないですから」
「嘘偽りなくそう言えてしまう貴方を誇りに思うと共に、眩しくも思いますよ」
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