表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/222

デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス 顛末 膨れ上がった権利~ Ⅰ

「では改めて。ライト様。青藍せいらん様」


 少年も彼女も、もうベッドの上、ベッドサイド、ではない。


 ちゃんと机を用意され、白磁の係員と二人は席について、向かい合っている。


(確かに、説明役なら知っているか。私たちの名前くらい。よくよく考えてみると、トイレの下りの返しからして、それは仄めかされていた。なら、ここまで付き合ってくれたのは、ある種のおもてなし、なのだろう。流石はプロといえる。そんなプロを困られてしまうような出来事だったとも言える訳だ。トイレのあの一件は……)


「あの方々は、賞品の授与を辞退しました。正確には、賞品を、権利を、貴方方へお譲りになられました。眠っているライト様の代理で、青藍せいらん様がそれを受理致しました」


「?」


 彼女に向かって首を傾げると、彼女は穏やかに笑い、前を向くよう促してくる。


(聞いてからのお楽しみとでも? だが、既に種は明かされているように見受けられるが? まあ、確かに言い回しに含みがあるが、恐らくそれは、些細ささいなものの範疇はんちゅうに収まりそうなのだが)

 

「そして、青藍せいらん様は、ご自身の権利を含めて、全て、ライト様に譲渡したい、とのことです」


(意図は分かったが、それに何の意味がある……?)


「あの人たちに聞いたの。ここでの商品は、大きく分けて形あるものと形ないもの、つまるところ、装備や道具といった物品と、契約や権利や特殊な技能や能力や魔力といったカタチ無いものに分かれるの」


「それは先ほどの報酬の一覧から察しがつく。故に、集約することで生じる価値も想像がつく。だからこそ、思う。何故、譲ってくれるのだ?」


「わたしの欲しいものは、今、わたしの手の中にある。わたしにとって、願いは赤の他人に叶えて貰うものじゃあないし、もう半分叶ってるから」


(自惚うぬぼれて、構わない、のだろうか?)


 変わらず穏やかな表情の彼女。


 決闘の終わる前までと後とで、明らかに異なる表情。彼女の機嫌はもうすっかり回復した、と見ていいのだと思う。


 これまでとは違って、自分も、女心というものが分かるようになってき始めた、ということなのかもしれない、と。


「そうか。なら、有難く受け取らせてもらおう」


 既に差し出されていた、契約の文言が並んだ紙片。彼女の血による指紋の印が既にされていた。


(文言に罠も誤りも無い)


 親指の爪で、人差し指の腹を斬る。にじんだ血で、印をした。


「それで、六人分の賞品として、どの程度のものが望めるのか例示して頂けるだろうか? 一人分のそれとは大きく異なる筈。それに、私たちの分は色がついていたとなるとなおのこと」


「しっかり読んでおられたのですね。止める間もない即断、捺印なついんでしたので……」


「この手の事務処理は慣れているので。おまけに、大概相手はだまし前提な者ばかり。貴方は誠実なようで、安心できる。こういったところも、このパークの人気の理由の一端なのだろう」


 魔法使いに支持される、その意味は重い。


 彼らの多くは疑り深く、狡猾こうかつであり、それは元からの資質だけではなく、これまで辿たどってきた境遇もある。基本的に、不幸な半生になりがちなのが、魔法使いという存在であり、力である。人格より、力を見られる。その力こそを価値と、多くは人間扱いされない。たとえ、家系として地位を確立していたとしても、その利用価値故に、外からの食指にさらされ続ける。


 故に、彼らは信じない。疑念から始まる。


 そんな彼らに支持される場所。そんな彼らばかりを集め続け、破綻せず続いている場所。そんなものが成立していること自体が、この場の信頼の証明の最たるもの。


「でしたら、今後とも御贔屓ごひいきに」


 そう、丁寧に頭を下げられる。


 ちゃんと、人としての、客としての扱いを受けていると、分かる。きっと、この係員たちは、このパークを訪れている誰に対しても同じなのだろう。


 演じているでもなく、自然と。言うなれば、みついている。


(成程。はまる訳だ。異なる発想と異なる魔法、異なる世界ありきな特殊な経験を与えてくれる場としてではなく、得られぬ筈の素晴らしき普通を提供してくれる場であるというのが本質、か?)


「彼女が望めば、また来させて貰うよ」


「良くしてくれてありがとうございます」


「いえいえ。もてなしこそわたくし共の喜びですので」


 と、追加で一枚の紙片を渡される。


 それを手にし、目を通し、どうして、ここにきてこのような丁寧な応対となったのかを少年たちは理解した。


【『専属応対人 ―――― 』】

   

「『専属応対人』? ということは、これから私たちとこことの対応の窓口は貴方に固定される、ということだろうか?」


 字面から凡そは分かる。しかし、仔細は不明なままなのだから、尋ねざるをえない、と口にしたのは半分。もう半分は黙した。


(専属応対人の後に記されているのは、恐らく、この係員の名だ。だが……読めない……。視認できない、とでもいうべきか。ただの横一本線にしか、見えない……)


 それ自体が何だかの仕組みの可能性があるから。


「パンフレットには載ってませんでしたけど、これ、どういうものなんです?」


(む……? 青藍せいらんには読めている、のか?)


「ライト様。その認識で間違いありません。付け加えるなら、わたくしが、貴方様方の『専属応対人』の候補として名乗りを挙げた、ということです。青藍せいらん様。この制度は公にはされていません。わたくしたちが、通っていただきたい方々に対して、お願いする為の、わたくしたち、パーク側の従業員への福利厚生の一貫であるからです」


「面白いな。ここにきて、客が為ではない、というのが。勿論こちらにも得るものは用意されているのだろうが。きっと、公にされていない理由の一つでもあるのだろう」


「ライト……、わたし、ちょっと話についてけないかも……」


「読んでもしっくりこないか?」


 すると、彼女は申し訳なさそうに、こくり、と首を小さく縦に振った。


「そうか。元から素養があったり教養が無い分野に関しては、読めても、確かに、異国の言語で書かれているようなものだ。……。いや、だが……。っ! 何故今まで気づかなかった……!」


「ライト、急に何? びっくりするじゃない」


「あぁ……すまない。何処から何処までが魔法の範疇はんちゅう、影響下、なのか、という話だ。気づいて、直視してしまうと、少しばかり怖くなったのだ。私の中でも未だこんがらがっている。夜にでもゆっくり話そう」


「ライト様が主導するのかと思いましたが、お二人でという形を採るのですね。是非ともわたくしを専属にさせていただきたいです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ