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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス 顛末 彼らが望んだ報酬~

「っ!」


 気づけばそこは、闘技場でも、死後の世界でもなかった。


「あの方々は既にここを発たれました」


 そこは、何処かの部屋の一室であり、白いベッドの上であり、自身は横たわっていて、自身をのぞき込む? ように、それは、自分の心に浮かべたいくつかの問いのうちの一つに対して、現実の声として答えを示した。


 やけに反響する、けれども、無機質ではない、確かな肉声。か細い女性の澄んだ肉声。それは彼女の声ではない。そばに座って待っていた彼女は穏やかに微笑し、無言のままなのだから。


 手を振ってみると、首を傾げるも、彼女は微笑を再度浮かべて振り返してくれた。


「御身体に不備は無いかと思いますが、確認なされますか?」


 こちらを気遣うように、宙に淵の無い鏡を形成して浮かべながらそう尋ねてくる、彼女ではないその存在は、白磁の、口のついた、目も鼻も耳もない、無毛な、人の形をした、彼女よりほんの少し大きい程度の大きさの人形。関節もなく手足は屈曲し、手先も足先も、ただの棒としての形をしているというのに、その所作は悉く、人間らしさを感じさせてくる。


 口元に手を当てる様子や、床からわずかに浮かんでいるのに、浮かんでいるというよりは立っているような立ち姿というか安定感というか姿勢というか。


 らしさではなく、人間そのものと言えるのは唯一つ。開いた口の中は人のそれであり、そのせいか、発せられる声は、妙な反響具合を除けば、これまでの多くの係員のような異形っぽさからは実は程遠い。


 ではあるが、恐らく、多くの人物が抱くであろう第一印象は、嫌悪感を抱かざるを得ない、現実化したホラーの住人のような異形存在、といったところ。


 少年としては、彼女の反応から見極めは既に終わっている。


「気遣い感謝するが、遠慮しておく」


 それでも断ったのは、自身が今、布団の下、全裸であることは感覚から明らかだったから。


 魔力で遮蔽物しゃへいぶつを編むのもありといえばありではあるが、ここの備品を傷つける訳にもいかない。最悪、布団を腰にまとえばいい。






「それで、私たちは勝った、ということで間違い無いだろうか?」


 彼女の様子からして、負けていることは無いだろうが、言葉にして確認するというのは大事なことだ。


「貴方方の勝利で試合は終了しました」


「成程。差し支えなければ、あの四人が何を希望したのか参考までに聞かせていただくことはできないだろうか?」


 と、上体を起こしながら、真っ直ぐそれの方を向いて、いつもの調子で尋ねる。


 布団がめくれ、ずれ落ちる。


 彼女が顔を一瞬赤らめたのが確認できた。


(よく分からない……。初心なのか、私だからなのか。何れにせよ、毎度毎度反応がぶれている。これが私の自惚れなのかそれとも…―)


「これを」


 白磁なそれから手渡されたのは紙片。手首から先に該当する部分なんてまるで無いただの棒なのに、紙片は掴まれてもいないのに、それにくっついていて、けれども、自身がその紙片を摘まむと、抵抗感なく、けれども安定して、手に収まった。


「あの方々から、貴方様にお渡しするようにと。そこに記されております」


(私たち、にではなく、私に、か? 流石に穿うがち過ぎか?)


【報酬覚書(複写)(一部隠匿)

・このパークでの雇用枠

・観戦チケット(転移機能、告知機能付き)

・パレード一夜占有権

・遡行蘇生権

・解呪

・祝福付与

・属性変転

・倉庫使用権(魔道具預かり)


(報……酬? 景品でも賞品でもなく……?)


「お気づきになられたようですね。本来、賭けたもの、前払いの代価、活躍。それらの差異により、得られる報酬は大いに異なるものとなります。彼らが賭けたものが何であるか、前払いの代価については回答しかねます。あの方々から明かして良いと言われているのはそのうちの、指定された、ただ一つ」


 一瞬、彼女の方を見る。


 彼女は先ほどよりも若干ご機嫌そうに。しかし、こちらの話に寄ってくる様子は依然として無い。すると、


「あなた方の対戦相手である二人を倒してしまえる存在を見つけ出し、闘技の場に立たせること」


 明かされた謎の一つ。


「大仰な言い回しではありますが、つまるところ、試合を成立させる。そのための相手を用立ててくれ、というだけの話になります」


 そうすると、疑問が浮かぶ。当然の疑問が。


「彼らがトイレに全裸の私と遭遇したところから、仕込み、ということか……?」


 更にめくれ落ちそうになった布を抑えながら、落ち着かせるように、腰を沈めた。


「……それは想定外です……。私どもとしても。あの方々からしても……」


「……」


 返す言葉も出ない情けない自分。


「……」


 気まずさに口角が下がる白磁の係員。


「……」


 影を落とし、うつむく彼女。


「……。だろうな……。はは……。ははは……」


 少年の情けない繕いの笑いは、この気まずさをかき消すには到底至らない。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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