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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第四節 奇運奇縁の帳 一日目

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デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス エキシビジョン 公開痴話~ Ⅱ

 少年は空を蹴りながら、剣を振りかざし、師匠に言われた話を思い出していた。


『魔王は成ったら、その時点で魔王。魔女は成ったとて、タガが外れるまでは厳密には魔女じゃねぇ。厳密にはその時点では魔女候補に過ぎねぇ。違いはその人格がどこに宿るかだと言われている』


『野郎の場合は同一人物。女の場合は、元と、魔力に宿る人格と、別人てぇ訳らしい。要するに成り立ちが違う。似たような名前でありながら、本質的に別物ってぇ訳だ。だから、厳密に言うと、先日のお前の半落ちは魔王への覚醒かくせいのそれとは違うんだろうな』


『野郎の場合、本来、変化は不可逆。戻るなんてことはあり得ない。だからよくわかんねぇ。今後起こらないとも保証できんし、今度は戻れないかもしれねぇ。だから、実験する訳にもいかねぇだろ? そもそも、お前のような特殊塗れの奴は実験事には不向きだ』


『何せ光の魔力なんて持ってるんだ。特殊も特殊。そもそも、実質騎士でありながら、魔法使いでもあるなんて、御伽噺おとぎばなしの領域だ。ん? 外とは違って、別にそれ位の特異、ここじゃあ珍しくも何とも無ぇだろ? ここににゃぁ、時空魔法なんて扱う化けもんまで実在してんだからよ』


 少年の剣が、彼女の肩に掛かる。それ以上進まない。き出した闇のマフラーがさえぎっている。


「ボクに剣を振るうんだね、ライト。いけないなぁ。ライトはそんなことしない。そんなのライトじゃない。偽物かなぁ? ねぇ。ねぇ!」


 指向性のある圧に吹き飛ばされる。


 威圧なんてものに質量なんて存在しない。その筈なのに。


「何が何でも止める。斬って捨ててでも」


 手の形の影を、弾き、いなした。剣にかすったし、光と雷の魔力も流したというのに、それは消滅しない。


「虎の子のエリクサーもちゃんと持ってきている」


 と、懐から、瓶に入ったそれを掲げ、見せる。


 打ちあがるように手元に飛んできた闇を、瓶を握って、籠手こてで弾く。弾いたそれは、菊花のように咲き、その花弁を、刃のように飛ばす。


 それを剣で弾きながら、


「先日の私の暴走のこともあって、師匠に押し付けられてな。こんなもの持っていたくなかったし、こんなこと早々起こらないと思っていたが、確かに。『これが無ければお前は嬢ちゃんに剣は振るえない』、か。その手の訓練は確かに修めたというのに。情けないよ、全く」


 少年は言葉を紡ぐ。


 少年はもう、既に本気であり、故に冷静であった。


 懐にびんを仕舞い、指先から無詠唱で放つ。


【ライトニードル】


 一発ではなく、一発に見せかけた数発。一発目の軌道に重ねて放つ二発目、三発目。別の照準で飛ばされる四発目、その起動に重ねて放つ五発目。


 彼女は影で飲み込むでなく、転移により少年の後ろに回り込むように回避し、後ろ手に、少年の剣を掴む。自身の掌を闇で覆って。飲み込むように消える。少年の握りの強さなんて関係なく。


「っ!」


 想像だにしていなかった。


 取られる類のものでは無いのだから。本来、殺して奪うか、継承という名の譲渡。それ位しか例は無い。持ち主が死して所有権が消えるか、持ち主が意思を持って装備の同意も得ての継承か。


 その二通りしか存在しない。


 故に特別。故に魔法使いの相対者たる騎士の右腕たる魔法の装備。


「このコもキミにはうんざりしているってことだよ、ね!」


 黒く染まって、闇をまとう、少年から簒奪さんだつした剣の一撃。


 素人剣術未満のそれは取るに足らないが、それにまとわりついた、意思を持って自走するかの如く闇の塊は別。


 影が泥色の雨粒のように飛び散り、とげに成ったり、集まって牙になったり、彼女が剣を振るう旅に、増殖し、高密度に全方位に遠巻きに覆うように、敷かれてゆく。


 彼女の身体は透過するのに、少年には突き刺さる。


「……」


「何か言いいなよ!」


 影の牙が集まって、あごになって、滴る闇の泥のつばで糸を引きながら、少年を呑み込む。


【虚ろなる冥顎】


(全く。躊躇ちゅうちょ無いな。それなのに殺気は無い。……)


 思い出したのは、かつて、騎士としての修行をしていた頃。仲間として受け入れられるきっかけとなった、仲間の一人を必死に振るった剣でみっともなくも救った日。頭を下げられ、こちらから仲間の誓いを申し出て、交わして貰えた。そうして――向けられる言葉遣いから始まり、扱いも態度もその日を境に変わった。変わったのは自分も、だった。


(そうか……。信じてくれている、のだな。ならば――言わねば)


「私の為に狂わないでくれ! その指輪に誓う! 居なくなんてならない! ぐっ……」


「馬鹿っ! な、何でしのがないのよぉおおおおおおおおおおおおお! っ! あぁあああああああああああああああああああああああ――」


 き消えたあご。胴からき出す血。現れた体。全身鎧は消えている。この一撃で消えたというよりもこれは――その前に既に。無防備に受けた、ということである。


 指輪を手にしていた指輪から手を放し、


 ガシッ。


 抱き着いた青藍せいらん。影は散り、少年の胸に顔を埋ずめ、泣き続ける。


 強く、抱き寄せる。自身の指先に薄く細く、長く、垂らす糸のようにまとっていた雷の魔力。落下を始めていた指輪を引き寄せ終え、ゆっくりと彼女の指にめた。


 残った雷の魔力は、そのまま落とす。伝言を込めて。


「誓う……。受け入れて……くれる……か……?」


 口から血を流しながら、駄目押し。


「うん……。ごめんね……」

「私……こそ……な……」


 二人の頭が下になり、抱き合ったまま、落下が――始まる。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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