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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第一章 第一節 運命の分かれ道

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新たなる師、新たなる世界への旅路 Ⅵ

 草原に降り立った二人。


 彼らが何をしていたかというと――話をしていた。ひたすら。


 バチバチバチバチ。


 周りは暗くなっている。焚火たきびと、その場に座り込んだ二人。


 荷馬車を引く馬は、土のくいつながれて、もう随分経ずいぶんたった。横に立ってすっかりと休む態勢になって、ねむりにおちている。


「――で、だ。俺の中の仮説なんだが、実は騎士きしも魔法使いも、同じものだったんじゃあないか? ってえのがある」


 話の種は尽きず、議論というか考察というか。そんな話を気の向くままに、延々と。


「言われてみれば――類似点、結構ありますよね。騎士きしと言っても、正騎士以上せいきしに限られますが。具体的には――ほら。どうぞ」


 少年が、そう剣をび、男へ差し出す。


「それ。触らせていいもんなのか……? あいつですら、暗黙の了解があるって触らせてくれなかった代物だぞ? 騎士同士きしどうしだって触らせないものだって聞いていたが」


「私の場合、まだ執着しゅうちゃくくには手にして日が浅過ぎますし、自分だけの特別な剣やよろいが欲しかったから正騎士せいきしなろうとした、訳ではないですから。手段であって。道具であって。私の夢は、宝物でもなくて、称号ではなくて、()()()ですから






 バチバチバチバチ。


「っと。そろそろ継ぎ足すか。『思い出せ、火のついた、その時を』」


 焚火たきびは寿命を取り戻す。


 これもももう、何度も続いているり取りの一つ。


 そして、再び話は再開する。


「それに誰にも触らせないってのは、元・師匠とその周りの騎士きしの考えであって、これは割と、人に依る、そうです。恐らく師匠は知らないでしょう。これも暗黙の了解なのですが、騎士装備きしそうびって、継承してゆくものなのですよ。正騎士せいきしの装備も例外ではなくて、多少の不適合くらいなら、時間が解決してくれるので、老境に至った正騎士せいきしが内弟子にゆっくり馴染ませながら継承させてゆく、というのはあるあるだったりします。正騎士せいきしになれる可能先が尽きたと見做みなされたら、取り上げられる仕組みになっているから、騎士以外きしいがいだとその近縁者すら知らないというのはザラだそうです。身内を自身の不手際で切り捨てるなんて顛末てんまつ、誰も望まないものですし……」


「……。何だかなぁ……」


「装備の取り上げは、人がやるんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()そうです。これが悪く働いて、とくに不手際や落ち度もないのに、武器にも武具にも、乗り換えられてしまった人も過去にはいたそうですよ。その人はなんと、()()に三度もやられた、とか。()()としての二つ名も、それによって、笑いをさそう不名誉なものに変わってしまったとか、作り話のような実話だそうです」


「うわぁ……」


 少年は、よろいんだ。よろいは自動的に、少年を覆っていくように部分部分現れていった。


「この武器と武具。これらは、装備の形をした魔法使い、なのではないでしょうか。人ではない魔法使い。もっと広い範囲で見れば、魔獣などという実例もある、と考えたら、割とありそうだと思いませんか?」


「……。もしかして、もしかしなくとも、まさか、お前、脳筋で、無い?」


「元・師匠にも言われましたよそれ。好きですしあこがれますが、どうやら私は脳筋では無いそうで……。私の騎士叙勲きしじょくんが通った理由の中でもかなり大きなものの一つだったそうです。団を率いる資質だから、だとか」


「成程な。お前の生まれからして、そっちの方がしっくりくるといえばそうなんだが」


「で、どうです? この仮説、に落ちます?」


「う~~ん~~……」


「何か答えはありそうですね。ということは、ものすごく言い表しにくいとか、ですか?」


「ああ」


 男はあごで、立ち上がることを少年に要求した。


「例えばそれだ。そのよろい、リングアーマーや板貼りの類でも無い、どっからどう見ても全身鎧ぜんしんよろいだが、蛇腹構造じゃばらこうぞうでもなく、継ぎ目もない。一言でいうなら、関節が無いんだ。まるで、よろいというより、よろいの彫刻。どう着るってんだって、出し入れの瞬間でも見ねぇと、納得できないわな。これはもう見ても魔法の品だ。魔具といって差し支えない。だが、勝手に治り元の形に戻る、だなんて、聞いたことがない。お前のよろい、雷で砕けてたじゃねぇか。どうみたって、全体にダメージが入っていた。魔具だと考えたら、機構ごと壊れてて、もう二度と再生しねぇはずなんだよ。じゃあ、先ほどお前が仕留めた【鉄馬テツマ】の同類だって考えたら、まあ、納得できは……しねぇのよなぁ……。そいつらが生きてるって仮定して、それ、どうなったら死ぬんだ?」


「あっ……」


「話が通じ過ぎて怖いぜ。まあつまるところ、生きてるように見える何か。言葉を発さず、意思表現をせず、死なないらしい、何か。道具の範疇はんちゅうか生物の範疇はんちゅうかも定かではない」


「意思はあるでしょう。相応しきを判断するのですから」


「それはナマモノな意思、か? それとも、予め決められていて、誰かが書き換えない限り不便な道具としての一機能か。どう、判断する?」


「それ言っちゃあ、おしまいでしょう。私たちが人間か、そう言う形をした道具か、という水掛け論と同じとこに着地しますよその話」







 バチバチバチバチ。


 また座り込んで、話を再開する二人。


「お前、もしかしてーーこういうり取り、好きだったりする?」


「ええ。たぶん好きですね。これまで相手がいなかったので気づきようがありませんでしたが」


「お前魔法使いの才能あるわ。()()()魔法使いの才能。魔法は道具ではない。技術ではない。思想でもない。試行錯誤である。そこに至れるものは、限りなく少ない。こればかりは、きたえようがない。とどのつまり、一種の好き嫌いだからだ」


「? それなら、きたえられるのでは? 興味から始まる、似たようなもの、あるじゃないですか。 ほら。好き嫌い。人の好き嫌い。人間関係、ですよ」


「はは、こりゃ、一本とられたぜ。言われて見ればそりゃそうだ」

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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