デート・クロス・デート・クローズド・サークル・レイク ~宙のコロッセウス~ Ⅶ
「青藍ちゃん、すっごぉい! だけど~、私も凄いよ~! ふふぅん! 残ぁん念。石化エンド!」
ビキッ、カチンコチン!
押し寄せ続ける汚泥を凌ぐ、青紫の障壁の先。二体は、一瞬にして石化した。
「隠したかった訳じゃないんだけどぉ、厄いからね~」
シンシャはそう、目を閉じながら、青藍に、微笑んだ。
スタッ。
少年が空を蹴り、方向転換して、着地してきた。
「こんな明るい石眼持ち、見たことがな…―。成程。巧いな」
心底そう、少年が疲れた反応をする。
すると、不意に現れた、無詠唱かつ、不可視の爆発の魔法。
「なっ……!」
シンシャが驚きの表情を浮かべ、その名の通りの辰砂の色に濃く濃く染まった瞳を見開いてしまい、しまった、と目を瞑り逸らそうとするも、視界の端に映った少年も、少年の彼女も、石化の兆しがまるで無いことに安堵した。それどころか、爆発は、起こりで、無効化されていた。
そう。斬られて、いた。少年のその剣によって。
少年は、敵に少しばかり感心していた。つまりそれは、敵のそれに、シンシャより、数瞬早く、気付いていた、ということ。
「やらせねぇぜぇ! ほらぁあああ! シンシャあああああ! 気ぃ抜くな!」
そう、ゲリィが、しっかり仕事をしていた。不可視の壁で、四方ではなく、油断なく六方を囲って、敵の再開の初動を封じていた。
「無駄だぜ。ただ閉じ込めたんじゃあなくて、封印魔法だからな、それ。破りたければ膂力が要るぜぇぇ! いいのかぁあああ? そのままでよぉぉおおお! 魔力が切れれば、身代わりも糞も無ぇよなぁあああああああ!」
立っているのは、二体。変わら―…否! 今度は、額の宝石が黒、茶色。
(一見何だかの規則性があるように見えるが……定かではない……。そもそも、色に応じた属性の魔法、のみを使えるという訳でも無さそうだ。色自体、関係無いかもしれない。そもそも、皆さんが知っているこいつらが、こいつらの包み隠されていない状態の正体とも限らない。こいつらが皆さんのデータを持っているか……。聞くだけの時間も無い……。順序も出鱈目。理屈も穴だらけ。酷いものだ。この場に立つまで、怒涛の展開。予想外。これはいよいよ、思索は一旦止めるか? 止めるべきか?)
「おっ! そっか。あんがとなぁ!」
その、子供っぽく、軽くふざけた、男というより、男の子な声に反応した。四人。そう。相手を知っている筈の四人。つまり!
ガコンッ! ピキッ、ペキッ、ギリリリリリ、ガシャァアアンンンンン!
結界と、固まった泥壁。それらがまとめて、罅割れてゆく。溢れ、漏れ出す、色の無い魔力。既に中は、見えない。透明、しかし、異様なほど濃く、満たし、溢れ、零れ、この抑え込みが効かなくなるのはもう時間の問題。
「まじかぁ……」
ゲリィは、額に掌を当て、項垂れた。
「懲りないわねぇ……。あんたのそれ、別に強くも何とも無いじゃない。あんたがやたら好きなだけで。しゃあない! 彼女たるわたしが、いっつも通り、尻ぬぐいしたげるわ~」
シンシャが、元のような輝きある色に瞳を戻し、取ってつけたような恋人ムーブをかます。
(え? 悪ふざけか? いやしかし……)
少年はその唐突さに困惑するが、答え合わせの時を待つ必要は無かった。
「「いちゃいちゃするなあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――」」
声が、二つ。少年と、そして、陰気臭い、発音の微妙にはっきりしない、どもり気味の、濁った少女の声。
「もしかして……子供……か……?」
少年がそう思わず、零す。
「「おいおいそれは、」」
「あんちゃんたちもだろぉぉ?」
「にいちゃんたちもだろう?」
「ライト君たちもよね。今更よ?」
「青藍ちゃんたちもでしょ~」
「先ほどのは誘いか? シンシャさん」
「まあね~。前々から当たりはつけてたし。正体隠してるって。でもさ~、本性丸出し。笑っちゃうよねぇ~。だけど、まさか、子供だとは思わなかったけど~?」
「いいや、本当に子供、とは限らないだろう。肉体が幼いまま、若しくは、成長が歪み止まっている可能性だって拭えないだろう? 煽りには弱そうなのは確かだが」
「残酷な真実を突き付けるのはやめたげましょ~」
「その辺でやめとけって……」
「あんただって~、私がいなかったら、どっちかってったら、あっち側でしょうが!」
「ぐぬぬ……」
「「や"め"ろ"っ"て"ぇぇぇ、い"っ"て"ん"だろ"ぉ"が"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――」」
魔力が、柱のように、たちのぼった。




